NTTドコモ(山田隆持社長)は昨年度(2012年3月期)から、自社のAndroid版スマートフォン/タブレット端末の普及を受け、全国を網羅する直販と代理店網を生かして、中堅・中小企業(SMB)中心の法人向け販売を本格的に展開している。これに伴って、業務用途で使うスマートデバイス向け製品・サービスを展開するシステムインテグレータ(SIer)やソフトウェアベンダーとの連携が急速に拡大。高速通信回線と複数の画面サイズを揃えた端末、そして多彩なアプリケーションや堅牢なセキュリティ環境をセットにした販売で、法人市場で頭角を現している。同社に限らず、法人向け販売の領域で大手通信キャリアの存在感は際立って高くなってきた。(取材・文/谷畑良胤)
7.0インチ端末が市場をけん引
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法人事業部法人ビジネス戦略部 事業企画・法人マーケティング 担当課長 有田浩之 氏 |
NTTドコモは、昨年度から、スマートデバイスの法人販売を強化するために、積極的に諸条件の整備を進めてきた。昨年5月には企業グループ内の「iモードメール」を無料化し、12月に定額料金の値下げを断行。端末面では、9月にタブレット端末のラインアップを強化したほか、受信時で最大37.5Mbpsの超高速通信「Xi(クロッシィ)」に対応した大画面10.1インチの端末「GALAXY Tab 10.1 LTE SC-01D」などを発売した。
同社の法人向け事業は、スマートデバイスを出す前までは、フィーチャー・フォンとセットにした通信回線、iモードのメールなど簡単な業務利用向けの販売がメインだった。しかし、2010年に7.0インチのタブレット端末を出したあたりから状況が一変、スマートデバイス中心の戦略へと舵を切った。法人事業部の有田浩之・法人ビジネス戦略部事業企画・法人マーケティング担当課長は「スマートフォンの延長線上で、ポケットに入るサイズの7.0インチの端末が人気を博した。これを出した頃から、法人の需要が急速に高まった」と、述懐する。
各種調査会社のデータを見ると、スマートデバイスの業務利用について、大半が「まだ利用していないが、興味はある」という潜在的な市場であることがわかる。ただ、現在出回る法人向けスマートデバイスは、ほとんどがアップル製のiPhone/iPadで占められている。Android版は、アプリ不足やセキュリティ面の課題、バージョンアップに伴う開発の煩雑さなどが障壁となり、導入する側も開発する側も二の足を踏んでいる。
そこでNTTドコモでは、昨年4月、グループ会社のNTTデータイントラマートと連携し、同社のSMB利用に適したウェブメールやスケジュール、ドキュメント管理、営業日報など多彩な機能をもつ「クラウド型グループウェアサービス」の提供を開始。また、同時期には法人利用に際し、端末の紛失や置き忘れなどによる情報漏えいリスクと端末管理の運用負荷を軽減するために、「スマートフォン遠隔制御サービス」を開始したほか、自然災害に備えて衛星電話サービス「ワイドスター II」を提供し、安否確認などの利用に備えた。
有田担当課長は「Android端末はセキュリティ面でiOSに劣るとの認識が根強いが、認知活動がうまく浸透しなかったからだと反省している。だが、OSがAndroid 4.0になってからは安定性が増したし、セキュリティ面の課題も解消できている。当社としてもウイルス対策や盗難防止、データ改ざん、アプリ機能の利用制限など、セキュリティ対策を施し、安心して利用できる環境を整えている」と話す。
販売・サービス網の拡大がカギ
現在のNTTドコモのスマートデバイス販売は、自社の支社・支店による直販と端末販売のディーラーが担っている。前出の「クラウド型グループウェアサービス」も、直販主体で販売している。だが、今後は、スマートデバイス向けに製品・サービスを提供するSIerなどと連携した動きを強める方針だ。ここ1年ほどは、こうしたSIerなどと共同で導入事例を中心としたエンドユーザー向けセミナーを月2回程度の頻度で積極的に展開している。「スマートデバイスを業務用途で使う場合、企業に応じた付加価値が必要になるので、この開発で協力関係を築く。とくに需要が旺盛な医療、保険、金融などの業界向けの販売を強化する」(有田担当課長)と、新たなチャネル網の構築に動き出している。
実際、こうした積極展開が功を奏して、導入事例が急増している。少し前までテレビCMで流れていた「葉っぱビジネス」で知られる徳島県上勝町で、お年寄りが作業中に「GALAXY Tab」を使って操作する農作業受発注システムや、郵便物配送会社の群馬郵便逓送でも配送状況管理システムとしてこの端末が使われるなど、事例が積み上がってきた。際だった事例として、医療向けでは、富士フイルムの遠隔画像診断治療補助システム「i-Stroke」を同社スマートフォンで使うソリューションが東京の大手医大と共同研究で生まれている。「汎用サービスは当社の直販体制で提供するが、業種業態に応じたサービスはシステムベンダーと連携していく。iPhoneと異なり、防水機能をもっているので、端末が堅牢な部分も訴求していく」(有田担当課長)と、販売方法に言及する。さまざまな導入事例を積み上げるなかで販売チャネルも開拓する考えだ。
NTTドコモに限らず、ソフトバンクグループやKDDIも、先行するかたちで法人向けスマートデバイスの販売を強化している。スマートデバイス向けの製品・サービスに限らずクラウド・サービスなどを展開するITベンダーにとって、通信キャリアは重要な販路に浮上してきている。