IPネットワークを活用して機器同士が情報を通信し合う「M2M(Machine to Machine)」の関連市場は、複数のセグメントで構成される。大手ITベンダーがM2Mプラットフォームの展開に力を入れていることで、センサなど各種機器/プラットフォーム間のデータ通信用回線の市場が活況を呈している。モバイル通信キャリアは、M2M回線の法人向け展開を拡大し、市場のニーズをビジネス成長につなげようとしている。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「セグメント」を読む
M2Mプラットフォームの普及で「通信」が活性化
「M2M」とは、例えばセンサなどを使って交通情報や温度情報をリアルタイムに収集・分析し、得たデータをIPネットワークを介して機器間で自動的に交換し合う技術を指す。
以前から、あらゆる機器をネットワークでつなぐ「モノのインターネット」という概念はあった。それが具体化したのは最近のことだ。通信技術が発達し、スマートフォンなど新型モバイル端末の普及を追い風に、M2Mの本格普及の兆しがみえてきた。M2Mの関連市場は、大別すると「機器」「プラットフォーム」「通信」の三つのレイヤーで成り立っている。富士通やNEC、NTTデータなど大手ITベンダーは、昨年からM2Mプラットフォームに力を入れており、それに伴って、機器とプラットフォームの間のデータ通信を実現する回線の市場が拡大している。調査会社のテクノ・システム・リサーチ(TSR)は、2012年の法人向けM2M回線の市場では、セキュリティやインフラ管理のための遠隔監視・遠隔制御用通信が最も大きな割合を占めるという。
M2M市場のセグメント
figure 2 「推移」を読む
「スマートシティ」が需要を刺激
TSRの予測によれば、個人向けと法人向けを合わせたM2Mサービスで利用されているモバイル回線の契約数は、2011年に約680万件となり、2016年には2000万件を突破する見込みだ。M2Mの契約回線は、法人向けの需要拡大にけん引されて、2015年中にモバイル回線全体の10%以上を占めるという。
M2M回線の市場が活況を呈する要因として、ICT(情報通信技術)を活用し、公共インフラの改善を図る「スマートシティ」の普及が少しずつ進んでいることが挙げられる。TSRは、電力管理を中心とする遠隔監視の分野では回線の需要が顕著で、2016年の市場規模は2010年比でおよそ4.5倍に拡大すると予測している。また、「スマートシティ」に連動するかたちで、電気自動車(EV)をはじめとする次世代自動車の普及が加速しており、それに伴ってM2M回線の車載用途の分野が伸びる確率が高いという。
M2M契約回線の推移
figure 3 「プレーヤー」を読む
KDDIとソフトバンクが法人市場で存在感を高める
TSRの調査によれば、モバイル通信事業者別のM2M契約回線シェア(2012年見込み)は、NTTドコモが40.1%と首位を獲得しており、続いてKDDI(26.9%)、ソフトバンク(21.7%)というランクになっている。4位にはウィルコムが入る。
昨年は多くのITベンダーがM2Mの関連事業に着手し、モバイル回線を利用するM2M市場の活性化につながった。そんななか、契約回線数では、M2Mビジネスの拡大に力を注いでいるKDDIが大幅に実績を伸ばし、一方で、1位のNTTドコモが伸び悩んだという。また、これまでデジタルフォトフレーム用の回線提供などコンシューマ向け展開をメインとしてきた3位のソフトバンクは、このところ法人向けM2M市場の開拓に取り組んでいる。TSRによると、法人向けの契約回線数が昨年あたりから徐々に伸び始めていて、NTTドコモとKDDIのシェア争いが激しくなっている状況という。
通信事業者は、M2Mのモバイル回線の販売に加え、他社から無線通信インフラを借り受けてサービスを提供する事業者(MVNO)に対して、モバイル回線をレンタルで提供するビジネスを推進している。
通信事業者別のM2M契約回線シェア(2012年の予測)
figure 4 「周辺」を読む
M2Mプラットフォームの登場でシステム構築が簡単に
M2M回線の需要が拡大するかどうかは、M2M用のモジュールやソフトウェア、関連サービスがどれほど普及するかにかかっている。では、「通信」以外の、M2M関連市場の他のセグメントはどのように推移するのか。モバイル通信分野を得意とする調査会社のROAホールディングスは、このほど国内M2M市場の展望を公開した。
ROAホールディングスによれば、モジュールや通信回線が高価なことや、システム構築に必要なコストの高さが障壁となって、M2Mはこれまで、本格的に普及してこなかった事情があるようだ。しかし、2010年以降は、中国をはじめとする海外のモジュールメーカーの国内市場参入による低価格化や、M2Mプラットフォームの登場によってシステム構築の手間が減少したことを主な理由として、M2M市場は成長の軌道に乗り始めたとみている。市場規模については、ネットワークからサービス(プラットフォームなど)までを含めたM2M関連市場全体は、2010年の1000億円未満から、2015年には3300億円に拡大するという。とくにサービスの分野が活発に伸び、2015年をめどに、M2M関連市場の最も大きいセグメントになることが見込まれている。サービスに並んで、ソフトウェアの分野も勢いよく成長し、ITベンダーにとっての有望領域になりそうだ。
国内M2M関連市場の推移