NTTコミュニケーションズ(NTTCom、有馬彰社長)は、今年6月、日米で新たなパブリッククラウドサービス「Cloudn(クラウド・エヌ)」の提供を開始した。携帯電話の“パケ放題”のように月額上限945円からの従量課金プランで利用できる業界最安値でありながら、Amazon互換を含む約150種類のAPIを備えた拡張性が高いサービスだ。同社では、SaaS事業やベンチャーなどスタートアップのソフトウェア開発者や世界展開するコンテンツプロバイダなどへの利用拡大を狙う。短期的にVM(バーチャル・マシン)単位で数万VMの利用を目指す。競合他社の同等サービスに比べて半額以下の「Cloudn」は、新たな価格競争を生む可能性が高い。(取材・文/谷畑良胤)
Amazon互換を含めて約150種類のAPI
「Cloudn」は、NTTComが従来からのクラウドサービス「Bizホスティング」に加えて提供するパブリッククラウドサービス(IaaS)だ。NTTComと、同社が2000年8月に買収した米大手プロバイダで現在グループ会社となっているヴェリオが日米の両データセンター(DC)で提供を開始した。
NTTComによれば、仮想マシンインスタンスの利用は従量課金だが月額上限料金制を採用し、「業界最安値」のコストパフォーマンスという。仮想サーバープランの最安値プラン(プランvQ、メモリ/512MB)は、月額上限/945円から利用可能で、従量課金も1時間単位から使える。競合他社の課金ケースで見受けるトラフィック課金(データ転送量による課金)は無料だ。また、時間課金では、データディスク(永続型で仮想サーバーインスタンスから独立)とスナップショットなどに必要なデータ保存領域も提供するほか、ファイアウォールやロードバランサ、データ転送も上りと下りが無料で使える。
奥平進・クラウドサービス部ホスティング&プラットフォームサービス部門サービスマネジメント担当部長は、「開発環境の投資に二の足を踏むスタートアップのソフト開発ベンダーやSaaSプロバイダのインフラ基盤として利用できる。開発費や利用環境のコスト低減を図ることが可能で、期間限定の目的で短時間の利用もできる」と、ソフトの原価低減などにつながると話す。
Cloudnが業界で一目置かれる要素は、価格だけではない。豊富なAPIを備え、ウェブ上で提供するコントロールパネルのGUIから必要なリソースを即時に利用できる点にある。両機能ともパブリッククラウドの標準的な機能だが、同社のサービスで異なるのは、Amazon互換を含めて約150種類のAPIを提供する点だ。「簡単で迅速なアプリケーション開発が可能で、APIを利用して運用を自動化すれば大幅なコスト削減ができる」(同サービスマネジメントの森田泰正・マーケティング担当課長)と特色を説明する。つまり、中小ソフト会社でも安価な開発環境が手に入るというわけだ。利用者自身でAPIを用いることで、バックアップの自動化やオートスケールアウトなども実現可能となる。
同社によれば、スタートアップのソフト会社を主なターゲットにしているが、「国内で引き合いが増えているのは、大規模な開発環境として利用したいというニーズだ」(奥平担当部長)と、想定外の利用者層が出てきているという。今後は、ソフト会社に加え、日米でサービス展開中であったり、展開する予定のコンテンツプロバイダやユーザー企業の情報システム担当者に対する提供を強化する方針だ。森田担当課長は「企業内の異なる開発者やソフト開発会社が、分散環境で開発をする環境として当社サービスを利用したいとする案件が出ている」という。開発者側では、「Cloudn」を使って分散開発したうえで共通環境に統合することによって、開発の効率化や納期短縮につながるとみているようだ。

Cloudnの事業を推進するサービスマネジメントの奥平進担当部長(左)と森田泰正担当課長
7月にPaaSのトライアル開始 価格競争は「受けて立つ」
NTTComは、「Cloudn」の付加機能の拡充計画を明らかにしている。今年4月には、基本的なIaaS機能に加えて、オートスケール機能を追加したほか、7月にCDN(コンテンツ・デリバリネットワーク)機能、10月に大容量データ保存を実現するオブジェクトベースのストレージ機能を順次リリースする。また、「Cloudn」上で動作するアプリ実行環境のアウトソースが可能なPaaSのトライアルサービスを7月に開始する。同社は、7月31日までの期間限定で最大3か月/5000円分を無料で使えるキャンペーンを実施中。利用者を囲い込んで、利用環境を体感してもらう戦略だ。
ソフト開発者向けを主軸としたパブリッククラウドの提供は、他のDC事業者や大手メーカーが先行しており、NTTComは後発だ。それだけに、優位性を打ち出す手法として、当初は利益度外視で利用者を囲い込む戦略を打つ。具体的には、「業界最安値」を打ち出して、無料の機能が豊富であることを強く訴求している。同社の価格を見て競合他社が価格戦略に打って出る可能性は十分考えられる。このことについて、森田担当課長は「すでに他社の環境を使っている層やパブリッククラウドの利用メリットを享受できていない新規の利用者層をターゲットにする。仮に他社が価格面で追随しても、それに対抗する用意がある」と、業界最安値を追求し続ける戦略をとる。
NTTComのモデルは、クラウド環境の利用料収入に加え、利用者を増やすことで永続的に通信料金のストックを得ることが特色となっている。たとえ他社が低価格で攻勢をかけてきたとしても、微動だにしないだろう。競合他社が対抗策としてどんなサービスを打ち出すのか、注目していきたい。