セイコーエプソンの販売子会社、エプソン販売(平野精一社長)は、国内シェアの50%(富士キメラ総研調べ)を占める同社プロジェクタの販売比率を、今年度(2013年3月期)中にも60%に引き上げるために、製品群の拡充と販売チャネルを開拓中だ。6月下旬からは、外出先での会議やセミナーなどの利用に適した3LCD方式の製品を順次販売を開始。競合他社が強い大会議用の上位機種から成長領域であるモバイル型のローエンドまで、多くの用途に適した製品を揃え、他社の追随を許さない体制を敷く。販売チャネルについては、ウェブ系の販売や特化領域で勝負する。(取材・文/谷畑良胤)
新規購入はウェブチャネルにシフト
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久保厚 販売推進本部 VP MD部長 |
調査会社・富士キメラ総研の調査によれば、2011年のビジネスプロジェクタ市場は、東日本大震災の影響で上期の需要が減少したが、下期以降に挽回し、年間トータルで10年比で販売台数が増加した。富士キメラ総研は「新たな用途・需要先、設置場所を開拓する短焦点モデルの投入増で、2012年以降にさらなる市場拡大が期待される」と、プロジェクタの用途が拡大したことや用途別の製品が出され、需要が増加傾向にあるとしている。
このなかでエプソン販売は、11年まで17年連続国内シェア1位を獲得。同社によれば「5万円を切る『EB-SO2』などのローエンド機種がオフィス向けで伸びて、11年は前年並の販売台数に落ち着いた」(久保厚・販売推進本部VP MD部長)と話す。販売チャネルでは「2年前まで、販売の増減に影響が少なかったウェブ系のチャネルでの販売が伸びた」(同)という。価格.comやアマゾン・ドット・コムなどの大手EC(電子商取引)サイト経由の好調な売れ行きが、安定的な販売につながっていると分析している。
家庭向けを含めた同社プロジェクタのチャネルは、販売実績でみると、家電量販店、訪問販売会社、大手流通卸でそれぞれ3割ずつを占め、残り1割がウェブ系になる。だが、成長のテンポはウェブ系が圧倒的に速い。久保部長は「量販店は買い増し、ウェブ系は新規ユーザーが多い」と分析しており、訪販を含めて、すべてのチャネルで購入ニーズに応じた製品拡販を視野に入れている。
6月下旬に発売した新商品は、主に会議やプレゼンテーションで使うビジネス向けのモバイルモデル、多機能パワーモデル、スタンダードモデルの計10機種。このうち、モバイルモデルは、薄型・軽量で持ち運びが楽で、外出先での会議やセミナー、勉強会などの使用に適したプロジェクタだ。従来機から好評で、ランプで出力する光を3原色に分けて投射する「3LCD方式」で2600~3000ルーメンの明るさをもつ短焦点レンズを搭載している。
ホワイトボードの代替を提案
このうち、モバイルモデルの「EB-1776W」は、投影画面を簡単に調整する「ピタッと補正」機能をさらに進化させた。設置して電源を入れればプロジェクタの傾きや移動を検知し、映像が途切れることなく自動でタテヨコの台形補正とフォーカスを調整する。また、一度に2種類の映像を左右表示する「2画面表示」機能やカラーモードに「DICOM SIMモード」を追加し、X線やCTなどグレースケール画像の陰影を忠実に表現できるようにしたり、USBストレージを本体に接続してパソコンなしで画面表示できる「スライドショー」機能も搭載した。
従来機種でも、モバイルモデルでiPhone/iPadからワイヤレスで投写したり、大会議場向けの常設モデルでは、HDMIの出力に対応させ、テレビ会議システムに接続してビデオ画像とコンピュータ画像の「2画面分割表示」を可能にするなど、多彩な機能を機種に応じて搭載している。久保部長は「こうした機能の充実を図り、オフィスのインタラクティブな用途の新規市場が開拓できる。ホワイトボードの代替として売り込める」と、会議室のプレゼンテーション用だけでなく、幅広い用途を提案できる機種を揃えるという。
一方、パナソニックなど競合他社が、自らの地盤とする大会議場や大学の講堂など向けのハイエンド機種を揃えてきたことへの対抗策として、映像専門のディーラーなどを開拓するほか、改めて文教向けの事務機ディーラーの販売体制を固める。2年前にリコーが自社開発のプロジェクタを発売し、台湾勢の製品も伸びている。引き続き、トップメーカーとして全方位で戦略を講じていく方針だ。