情報通信(ICT)市場の最新動向を総務省「2012年版情報通信白書」をもとに俯瞰した。世界のICT市場の強力な成長エンジン役を担うのは中国・ASEANの巨大市場を抱えるアジア・太平洋地域であることが明確に示されている。また、クラウドを支えるデータセンター(DC)やスマートフォンをはじめとするスマートデバイスが、ICTビジネスに強い影響を与える。一方で、日本のICT産業のグローバル化への課題も浮き彫りになっている。(文/安藤章司)
figure 1 「世界のICT市場」を読む
アジア・太平洋地域は年平均7.2%成長へ
2011~2016年のICT市場の予測をみると、日本の同期間における年平均成長率が2.5%であるのに対し、中国やASEANなど巨大市場を抱えるアジア・太平洋地域は7.2%と高度成長が見込まれている。世界平均の5.4%よりも大きい伸びであり、少なくとも向こう5年の世界ICT市場はアジア・太平洋地域が成長エンジン役を担う見通しだ。
アジア・太平洋地域で最大の市場を抱える中国は、2011年3月に「国民経済・社会発展第12次5か年計画」綱要を採択。このなかの「戦略的新興産業の育成(第10章)」で、移動体通信やインターネット網、通信と放送の融合(三網融合)、Internet of Things(IoT=モノのインターネット)、クラウドなどを重点項目に挙げている。IoTはM2M(Machine to Machine)と重なる概念で、これにクラウドやスマートフォンに代表されるモバイルを複合的に組み合わせることでスマートコミュニティ構想へと発展させていくものとみられる。
世界のICT市場の推移
figure 2 「地方型DC」を読む
国内DCビジネスは地方型が熱い
DC設備の約7割は首都・関東圏に集中しているが、一方で自治体による地方型DCの誘致も活発化している。自治体の企業誘致への取り組み状況をみると、全国の63.9%の自治体が企業誘致を実行しており、うち情報通信(ICT)産業の誘致にとくに力を入れている自治体は36.0%を占める。DCはICT設備のなかでもとりわけ大型で、まとまった投資金額を必要とする。このためDC誘致の支援施策を実施している自治体は、22道府県82市に及ぶ。
地方型DCを巡っては、震災や原発事故に伴う電力事情の悪化の教訓から、主にBCP(事業継続計画)の観点から地方型DCの活用需要が拡大。すでに北海道石狩市や福島県白河市、沖縄県、岡山市、松江市、福岡県北九州市などで大型DCが相次いで竣工し、建設を進めている。いずれも自然災害に対して安全性が高く、また北海道などの冷涼な気候を生かした外気冷房による省エネなどのメリットが期待できる。
データセンター誘致に向けた自治体の取り組み
figure 3 「スマートフォン」を読む
中・韓・台ベンダーが躍進する市場
ICTの国際競争力で重要な指標の一つとなるのが、スマートフォンをはじめとするモバイル分野である。情報通信白書では、日本の移動体通信事業は全体的にみて「他国と比較してすぐれている」としているものの、一方で海外スマートフォンメーカーの大幅な躍進や、日本従来の通信キャリア主導型携帯電話インターネットの後退の現状は、「モバイル産業の将来に不安感を与えている」と指摘している。
図はスマートフォン販売台数の2009年と2011年の比較を示したものだが、Appleと中国・韓国・台湾メーカーが大きく伸びていることがわかる。販売台数全体の伸び率でみても、日本が1.4倍程度にとどまっているのに対して、アジア・太平洋地域は4.2倍、北米2.4倍、欧州2.2倍に伸びた。ここでも中国・ASEANを中心とするアジア成長市場がけん引役を担っていることが明らかになっている。OS別にみると、中・韓・台メーカーはAndroid機をベースにシェア拡大につなげたが、日系メーカーは同じAndroid機を主力に据えているにもかかわらず、世界市場での大幅なシェア拡大は果たせていない。2011年の世界販売台数シェアは、Apple19%、サムスン19%のツートップで、10位以内に入った日系メーカーはソニーグループだけだった。
世界のスマートフォンの主要メーカー別シェア推移
figure 4 「エコシステム」を読む
エコシステムがスマートデバイス市場のカギ
スマートフォンをはじめとするスマートデバイス市場において、AppleやGoogleなどグローバルベンダーと、日系ハードベンダーとの大きな差異点として、エコシステムをうまく形成できているかどうかが挙げられる。図にあるように、主要グローバルベンダーは「主たる収益源」や「主力サービス」「サードパーティが参入可能な部分」といった明確な戦略に基づく区分けが存在する。各エコシステムには違いもみられ、例えばAppleはユーザーID管理や課金を一手に担っているのに対し、GoogleはAndroid OSを端末メーカーに提供し、課金についても一部ではモバイル通信キャリアによる回収代行が行われている。
また、Amazonの電子書籍端末「Kindle」は、米国ではiPadに次ぐシェアに迫っているとみられ、エコシステムでもAmazonのネット通販や電子書籍、クラウドサービスの特色を生かすかたちで、AppleやGoogleとは異なる展開をみせる。国内では、長らく従来型携帯インターネットのキャリア主導の「垂直統合型」が続いたこともあって、AppleやGoogleと通信キャリアの関係のようにレイヤー別の「水平分離型」のケースは少ない。グローバルベンダーへ成長するには、こうしたエコシステムをどう形成するかが課題となりそうだ。
米ネット系ベンダーの代表的なエコシステム