昨年から今年にかけて、モバイルデバイスを管理する製品・サービス(MDM)が続々と登場している。今はまだフィーチャーフォンの出荷は多いが、飛ぶ鳥を落とす勢いでスマートフォン、タブレットなどのスマートデバイスが売れている。スマートデバイスは高機能だからこそセキュリティやコンプライアンスの面で一元的な管理が必須となる。そんな事情で、MDMに注目が集まっている。(文/鍋島蓉子)
figure 1 「市場の状況」を読む
今秋から本格導入が進む
Android端末が普及して本格的に拡大しているスマートデバイスの市場。MM総研が調査したスマートフォン全体の出荷台数は、2010年実績で前年比3.7倍の855万台を記録。2011年には前年比2.3倍の1986万台、そして2015年には3056万台に達すると予測している。企業向けのスマートデバイスについては、今秋から来年にかけて、導入が本格化するとみられている。しかし、紛失・盗難など、セキュリティ面の懸念がつきまとう。企業がこのスマートデバイスを活用する場合、セキュリティ、コンプライアンスの面でIT管理者が端末を一括管理する仕組みが必要になる。その一括管理の仕組みを提供するのが、モバイルデバイス管理(MDM)製品だ。MDMは、企業のポリシーを遠隔からいっせいに適用することが可能だ。紛失盗難時の遠隔ロック、ネットワーク設定、パスコード変更、位置情報を含めた端末の情報取得などを行うことができる。スマートデバイスの法人利用が本格化する今秋から、MDMの導入も拡大するとみられる。
スマートフォン出荷台数の実績と予測
figure 2 「プレーヤー」を読む
製品の発売は昨年から本格化
国内市場には、昨年から本格的にMDM製品が登場し始めた。製品化の立ち上げが早かったのは、アクシードだ。2007年に「Smart Phone Policy Manager(SPPM)」という名称でWindows Mobile向けの管理製品の提供を開始。現在はAndroid対応ソリューションも展開している。10年11月には、アイキューブドシステムズのMDMで、iOS、Androidに対応した「CLOMO MDM」がスタート。また、インヴェンティットは「ITーMOM」という製品を販売。昨年は大手ISPのサービスのエンジンとしても活用されていた。各キャリアの法人向けサービスの一つとしてOEM供給している。また、外資ベンダーでは、モバイルDBを販売するサイベースが今年2月から世界No.1シェアの「SyBase Afaria」を展開。これはiOS、Androidに対応している。セキュリティベンダーのマカフィーも、今年3月から、マルチプラットフォームに対応した「McAfee Enterprise Mobility Management」を販売している。
MDMの主なプレーヤーと主力製品
figure 3 「売り手」を読む
独自サービスを組み合わせたソリューションが登場
「携帯電話販売代理店」もしくは「キャリアの法人営業部門」、エンジンを利用して独自のサービスを提供する「サービスプロバイダ」、そのほか「端末メーカーの法人営業部門」もMDMの販売に興味を示している。MDM単体の販売も行われているが、サービスプロバイダへのOEM供給や、連携ソリューションの事例も出てきている。
電子証明書ベンダーのサイバートラストは、サイベースの「Afaria」を活用して、「サイバートラスト デバイスマネジメント」の提供を開始している。端末認証サービス「サイバートラスト デバイスID」と同時に利用することで、端末識別番号による認証を実現する。
同じく電子証明書ベンダーである日本ベリサインは、アイキューブドシステムズと共同開発した電子証明書とMDMを組み合わせた新たなサービス「ベリサイン MDM powered by CLOMO」を今年3月から提供している。MDMで電子証明書を管理できるようにしたのは、業界初のことだという。
また、資産管理製品ベンダーが1機能としてMDMを組み込み、PCとスマートデバイスの一元管理を可能にするなど、MDMの提供形態は多様化している。
MDM製品の主な担ぎ手
figure 4 「販売機会」を読む
利便性を追求する使い方も
今秋から来年にかけて、企業のスマートデバイス導入が本格化すると見込まれている。それにつれて、MDMの本格的な商機がやってきそうだ。キャリアの法人営業部門、大手携帯販売代理店を介した販売や、SIer、サービスプロバイダを介して、独自ソリューションを組み合わせて販売するなどのさまざまな売り方がある。
「ベリサイン MDM powered by CLOMO」のサービスを提供する日本ベリサインは、大企業向けに個別要件を盛り込んで提供する専用認証局型のサービスと、複数の企業が共同利用するシェアード型認証局サービスの二つのラインアップを用意している。ユーザーにとっては低コストで導入できることがメリットで、日本ベリサインにとっても、手離れよくパートナーが販売できるのがメリットとなる。そのため、これからはSIerや携帯販売代理店などもパートナーとして視野に入れているという。
一方、セキュリティだけではなく、新たな可能性を探るのがインヴェンティットだ。SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)などとの連携を実現することで、単にセキュリティやコンプライアンスだけでなく、業務の効率化も実現する考えだ。
MDMの成長予測