マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Office 365」の新たな再販プログラム「Microsoft Office 365 Open」。日本には「Office 365」の販社が約1200社存在し、新販売制度が動き出せばクラウド市場に影響を与えることは間違いないが、この制度に対する日本のパートナーの評価は分かれている。短期連載の第2回は、歓迎の声をピックアップした。(木村剛士)
利益確保・付加価値提案が難しい現在の再販モデル
「Office 365」の特徴やクラウドに対するマイクロソフトの意気込みは、本連載の第1回(
新販売プログラム発表で広がる波紋(上) 独特の再販モデル)で紹介した通りだ。発売から約1年が経過し、米マイクロソフトも日本マイクロソフトも獲得したユーザー企業・団体の数を明らかにしないが、ユーザーの事例を積極的に公開し、好調をアピールしている。
日本マイクロソフトは、「Office 365」の専用ページ内に、日本航空(JAL)やタイトー、京都大学などの有名企業・団体だけでなく、
中小企業も含む約50事例を紹介している。「Office 365」は、Google Appsに遅れを取った印象はあるが、インターネット越しに月額600円から統合ビジネスソフト「Office」が利用できるという高いコストパフォーマンスを武器にして、発売から約1年で巻き返した。

「Office 365」のユーザー事例紹介ページ。企業名をクリックすれば詳細なレポートを閲覧することができる
連載第1回でも詳説したが、現在の「Office 365」の再販モデルは、「Office 365」を販売したパートナーが、販売額に応じた営業代行料をマイクロソフトから得るという独特のものだった。ユーザー企業の契約先はマイクロソフトで、料金徴収も行う。パートナーが得る利益は、最初は販売額の18%で、その後は販売実績に応じてポイントが上がり、最大23%になる。
日本マイクロソフトのパートナーで、ソフト開発ベンチャーのステップワイズの長谷川誠代表取締役は、この旧再販モデルについて、こう本音を漏らした。「『Office 365』は、機能・価格ともに商品として魅力的。ただ、月額数百円、数千円の『Office 365』を販売し、その額の数%を得るだけでは、大企業に販売したときはいいが、中小企業では利益は微々たるもの。正直言ってモチベーションは上がらない」。

ステップワイズの長谷川誠代表取締役
さらに、「現在の販売モデルでは、自社で料金徴収することができず、自社のサービスを組み合わせたソリューション展開も難しい。単純に再販するだけでは、競合他社と差異化を図ることができない。マイクロソフトの製品は、単なる再販ではなく、自社の付加価値をつけて販売することにビジネスメリットがある。『Office 365』ではそれが困難」と打ち明けた。
日本マイクロソフトのキーマンも、パートナーから多くの不満の声があったことを認める。パートナーソリューション営業統括本部統括本部長兼パートナー戦略統括本部統括本部長を務める佐藤恭平業務執行役員は、「今の仕組みには、日本だけでなく、世界のパートナーから不満の声があった」。そのうえで、「『Office 365 Open』で、この問題を解決することができる」と、新制度「Office 365 Open」がパートナーにとってメリットがある制度だと強調した。

日本マイクロソフトの佐藤恭平業務執行役員
新販売制度を高く評価し拡販に意欲、日本での開始を待ち望む声
「Office 365 Open」では、通常のソフトライセンスのように、マイクロソフトからサービスを調達し、自社の付加価値を加えた形での再販が可能になる。価格もパートナーが自由に設定することができる。
長谷川代表取締役は、「Office 365 Open」の発表を受けて、「ようやくこのときが来たと思った。衝撃的な内容だった。『Office 365』は、ユーザーにクラウドのメリットを最初に体感してもらうのに最適なサービス。これまでの再販モデルでは積極的に提案しにくかったが、『Office 365 Open』が始まれば、ビジネスの幅が広がる」と早くも意欲的だ。
ステップワイズと同じく日本マイクロソフトのパートナーでITベンチャーのセカンドファクトリーの大関興治代表取締役は、「Office 365 Open」を発表したマイクロソフトの姿勢を高く評価している。「マイクロソフトほど、パートナーとのリレーションを大事にしているITベンダーはいない。『Office 365 Open』の登場は、パートナーのビジネスを重視している姿勢の表れだ」と話し、マイクロソフトの支援内容・体制に満足している。

セカンドファクトリーの大関興治代表取締役
SIやクラウドを手がけるソフトバンクテクノロジーのクラウドソリューション事業部の淡海功二ソリューション技術統括部統括部長も、「Office 365 Open」を歓迎する。「日本での具体的な展開方法と開始時期が未定なので何ともいえないが」と前置きしながらも、「(『Office 365』の前身である)『BPOS』に比べると、『Office 365』は予想以上に実績を積み上げることができている。今回の『Office365 Open』の仕組みはどの程度のインパクトがあるか、まだ計り知れないが、少なくとも好材料になるのは確かだ」と期待を述べる。
ソフトバンクテクノロジーは、今年6月に日本マイクロソフトの元社長、阿多親市氏が社長に就任。「マイクロソフト関連事業をもっと伸ばせと言われている」と、クラウドソリューション事業部の興梠陽介エンタープライズ営業統括部第3営業部長は苦笑いする。今後、マイクロソフト製品を活用したソリューション事業を伸ばす策を講じるのは必至で、その中核製品として「Office 365」を位置づける可能性が高い。

ソフトバンクテクノロジーの淡海功二統括部長(左)と興梠陽介部長
利幅が少なく、付加価値を見出しにくい現在の再販モデルが、「Office365 Open」で変わる――。パートナーの多くには歓迎ムードが漂う。日本での展開時期は未定だが、パートナーの期待の声を考えると、日本マイクロソフトは早急に詳細を詰めてくるだろう。しかし、「Office 365 Open」を迎えるパートナーたちのなかには、逆の見方をするところもある。一部のパートナーから、不満の声が聞こえてくるのだ。(つづく)