米マイクロソフト(スティーブ・バルマーCEO)が、パートナー向けイベント「Worldwide Partner Conference 2012(WPC 2012)」で発表したクラウドサービス「Microsoft Office 365」の新販売プログラム「Microsoft Office 365 Open」。日本では、この新プログラムへのパートナーの評価が分かれている。歓迎の声がある一方で、否定的なコメントを口にするパートナーもいる。「Office 365」の再販の仕組みを改めて説明するとともに、パートナーたちの受け止め方を3回の短期連載で紹介する。(木村剛士)
鳴り物入りの戦略クラウド
「Microsoft Office 365」は、ブラウザで利用する「Microsoft Office」と、メールやグループウェア、ウェブ会議など、複数のコミュニケーションツールを組み合わせたクラウドサービス。米国で2011年6月27日に発売され、日本では2日後の29日に売り出された。「Microsoft Office」という世界で最も普及しているアプリケーションソフトをクラウドで使うことができ、さらに仕事に役立つさまざまなツールを備えて、月額600円から――。「機能・価格とも魅力的」と、ユーザー企業や販売パートナーは高く評価している。
マイクロソフトは、複数ジャンルのソフトをもつが、今もパソコン向けOS「Windows」と「Office」のライセンスの売上ボリュームは大きく、この二つが業績を下支えしている状況は変わっていない。その意味で、「Office」をクラウド化して低価格で提供することは、マイクロソフトにとっては諸刃の剣だった。それでも、「Google Apps」などの競合サービスが台頭してユーザーのクラウドを求める声が日増しに増える状況から、「待ったなし」と決断したのだろう。2年ほど前まで、同社はオンプレミス型システム向けソフトとクラウドの協調を訴えたキャッチフレーズ「Software+Service」を頻繁に使っていたが、今、この言葉を使う経営陣はほとんどいない。
マイクロソフトの「Office 365」への傾注ぶりが伝わってくるのが、今年6月27日に発表したプレスリリースだ。「Office 365:提供開始から1年」というタイトルで、世界の有名企業が「Office 365」を採用していることを訴えている。米国のグリーティングカードメーカーであるホールマーク、ハンバーガーチェーンのバーガーキング、ブラジルの大手百貨店レナー、そして日本では日本航空(JAL)。JALの事例では、2万人の従業員が使うIT基盤として「Office 365」を導入したことを紹介している。

国内で「Office」ビジネスを仕切るキーマンである日本マイクロソフトのロアン・カン・業務執行役員Officeビジネス本部本部長ライセンス販売とは異なる再販の仕組み
「Office 365」では、もう一つ見逃せないポイントがある。それは再販制度だ。「Office 365」は、これまでのソフトのライセンス販売とは異なる再販の仕組みを採っている。
マイクロソフトのソフトライセンスを販売する際、パートナーはライセンスを仕入れて、マイクロソフトに代金を支払う。仕入れたライセンスは、利益を乗せて、自社サービスを組み合わせてユーザー企業に販売する。ユーザー企業の契約先はパートナーであり、ユーザー企業に対する料金の請求・徴収もパートナーが行う。これが、これまでの一般的な再販の仕組みだった。
しかし「Office 365」では、これとは異なる仕組みを採用している。パートナーは「Office 365」を販売したとき、販売額に応じてマイクロソフトから営業代行料を得る。ユーザー企業の契約先はマイクロソフトで、販売パートナーは自社で料金を徴収できず、自社製品・サービスを加えて販売することが難しくなる。現在、日本に約1200社いる「Office 365」の販売パートナーは、一部のパートナーを除いて、この「営業代行料モデル」の枠組みのなかで再販している。
しかし、すべてのパートナーがこの販売モデルではない。特別待遇のパートナーが存在しているのだ。これのパートナーは1200社と異なり、一般ソフトのライセンス販売のように、ユーザー企業と直接契約を結んで「Office 365」を販売でき、料金の請求・徴収を自社で行うことができる。また、「Office 365」を自社のオリジナルブランド名に変更して、他のサービスと組み合わせて販売することもできる。日本の場合、NTTコミュニケーションズ、大塚商会、リコージャパンの3社が、この特別待遇のパートナーにあたる。
新販売制度「Office 365 Open」で変わるビジネスの幅
この「Office 365」の販売の仕組みが、「Office 365 Open」で変わる。この制度では、約1200社のパートナーも料金請求・徴収ができ、自社・他社製品サービスとの組み合わせて販売できるようになる。自らのブランド名に変更はできないものの、営業代行料モデルとはビジネスの幅が違う。

「Office 365 Open」は、世界各国のパートナー約1万6000人が集まった「WPC 2012」の初日に発表された 日本マイクロソフトのパートナーソリューション営業統括本部統括本部長兼パートナー戦略統括本部統括本部長の佐藤恭平業務執行役員は、「自社で料金請求・徴収することができない仕組みに対して、世界のパートナーから不満の声が上がっていた。『Office 365 Open』で、この問題を解決することができる」とコメントしている。

日本マイクロソフトの佐藤恭平業務執行役員 別の日本マイクロソフトの幹部は、「販売に弾みがつく」とみる。日本での展開時期は未定だが、今後早急に詳細を詰めてくるだろう。では、パートナーの受け止め方はどうか。そこには、賛否両論の声があった。次回以降、その声を詳しく紹介することにしよう。(つづく)