米マイクロソフト(スティーブ・バルマーCEO)は、パートナー向け年次イベント「Worldwide Partner Conference 2012(WPC 2012)」をカナダ・トロントで7月9~12日(現地時間)に開催した。135か国から集まった1万6000人のパートナーの前で、「Windows 8」の発売日やクラウドの新販売プログラム「Microsoft Office 365 Open」などを発表。例年以上に内容が濃かった。今回のカンファレンスを振り返るとともに、パートナーが語るマイクロソフトの評価と協業のメリットをまとめた。(取材・文/木村剛士)
バルマーCEOほか幹部陣勢揃い
●「Windows 8」の発売日など
主力製品の新情報を立て続けに発表  |
| 日本のパートナー戦略の立案・推進のキーパーソンである日本マイクロソフトの佐藤恭平業務執行役員 |
「WPC」は、米マイクロソフトの全世界のパートナー向けに開催する毎年恒例のイベント。同社の経営幹部がチャネル事業の新戦略を発表する場であり、新製品・サービスを初披露することもある。毎年、全世界から多くのパートナーが参集するが、今年は過去最多の1万6000人が集まった。日本からの参加者も過去最多で、126社、243人のパートナーがトロントまで足を運んだ。日本マイクロソフトのスタッフも、これまでで一番多い人数が現地入り。日本マイクロソフトの樋口泰行社長はイベント後半から参加し、佐藤恭平・業務執行役員やマイケル・ダイクス業務執行役員、川原俊哉・業務執行役員といった日本の中堅・中小企業(SMB)向けチャネル事業の責任者は、初日から参加していた。
今回は、例年の「WPC」よりも多くの情報が発信された印象が強い。初日のキーノートスピーチでは、新パソコンOS「Windows 8」の発売日と、クラウドサービス「Office 365」の新販売プログラム「Office 365 Open」を発表し、タッチ操作が可能な大型パネルを開発・販売する米パーセプティブピクセルの買収を明らかにした。3日目には、「Windows Server 2012」の発売日も発表。自社開発のタブレット端末「Surface」については一切言及がなかったので、肩すかしをくらった感はあったが、総じて例年よりも内容は濃かった。
佐藤業務執行役員は、「今年度(2013年6月期)は『Windows 8』や『Windows Server 2012』など、多くの製品を発売する重要な年になる。今回のイベントで発表した内容をしっかりと日本のパートナービジネスに生かす」と語った。今回のイベントの目玉である「Office 365 Open」の具体的な展開時期を「現段階では未定」(佐藤業務執行役員)としたが、このクラウドを販売するITベンダーはすでに約1200社に達しているだけに、早急に詳細を詰めてくるはずだ。
●経営幹部が続々と登場
他社との違いを強烈にアピール イベントは、米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOやケビン・ターナーCOOなどの経営幹部が次々と登場するキーノートスピーチが3回開催され、各製品・サービスごとのセッションを複数設けるかたちで、4日間続いた。

スティーブ・バルマーCEOは、終始自信満々で講演した
経営幹部の講演のなかで強いインパクトを与えたのは、3日目のキーノートスピーチに登場したケビン・ターナーCOOだった。ターナーCOOは、およそ1時間の講演のなかで、競合他社への対抗心をむき出しにした。仮想化ではヴイエムウェア、データベースではオラクルとIBM、CRMではセールスフォース・ドットコム、検索エンジンではグーグルといったかたちで、各製品・サービスのライバルと比較して、マイクロソフトが機能と価格で勝っている点を資料を交えながらアピールした。
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| ケビン・ターナーCOOは、競合他社と比べて勝っている点を熱弁した |
ターナーCOOは、「私は手ごわい競争相手と戦うのが大好きだ。ライバルを尊敬はしている。だが、恐れない。私たちは常に攻撃的であることで、パートナーとともに勝利を勝ち取りたい」と額の汗をぬぐおうともせずに熱弁してスピーチを締めくくった。会場からは拍手が起こり、パートナーの士気が高まったことをうかがわせた。
「WPC」は、技術情報の提供というよりもマイクロソフトの事業戦略を披露する場。日本のパートナーは、「最新のマイクロソフトの戦略を肌で感じることができる。自社の事業戦略を立てるうえで欠かせない」(ステップワイズの長谷川誠代表取締役)という声もあれば、「技術情報が少ない」とか「具体的な計画をもっと教えてほしい」という声もあり、意見は分かれる。ただ、パートナーは、一部の招待企業を除いて、決して安価ではない参加料金を負担してイベントに参加している。参加者が過去最多だったことは、パートナーが例年以上にマイクロソフトに期待している証だろう。
パートナーが本音で語る協業のメリット
●【ソフト開発ベンチャー】ステップワイズ
必要不可欠なビジネスパートナー  |
ステップワイズ 長谷川誠代表取締役 |
販売管理システム「VENTA for Silverlight」などを開発するステップワイズ(本社・愛知県)は、2005年設立直後から日本マイクロソフトと協業している。マイクロソフト製品を活用したソフト開発を安価に構築することができる日本マイクロソフトのITベンチャー育成支援制度を活用した。長谷川代表取締役は「創業間もないベンチャーにとって、日本マイクロソフトの支援はありがたかった。ステップワイズの全売り上げのうち、92%はマイクロソフトのテクノロジーを使ったビジネス。最重要パートナーであることは間違いない」と話している。また、「1社の技術に依存していることはリスクになる可能性がある。だが、マイクロソフトと同等の技術と製品ラインアップ、パートナーの支援制度をもっているITベンダーはいないはずだ。他社の動きは当然チェックするが、今後も日本マイクロソフトの製品・サービスを使った事業を中心に据えていくことは間違いない」と信頼をおいており、今後はとくに「Office 365」の拡販に力を入れる姿勢を示している。
●【総合ITサービス事業者】SBテクノロジー
マイクロソフトの元社長がトップに就任し協業加速  |
SBテクノロジー 淡海功二統括部長 |
ソフトバンクグループでSIやウェブマーケティング支援などを手がけるソフトバンク・テクノロジー(SBテクノロジー)は今年6月1日に、日本マイクロソフトの元社長・阿多親市氏が社長に就任したことをきっかけとして、日本マイクロソフトとの協業関係を深めているパートナーだ。SBテクノロジーは、「Exchange Server」を10年以上前からユーザーとして利用しており、そのノウハウを生かしてマイクロソフト製品のSI事業を得意にしている。クラウド「Office 365」の販売パートナーでもあり、全売上高に占めるマイクロソフト関連事業のボリュームは10%程度。だが、今後はこの比率を一気に高めようとしている。7月1日に、マイクロソフト関連の技術者と営業担当者を集めた専門部隊を、約400人体制で組織。この部門を中心にマイクロソフト製品を活用したビジネスを強化する考えだ。淡海功二・クラウドソリューション事業部ソリューション技術統括部統括部長は、「日本マイクロソフト関連の事業を1年半後には2倍にしたい」と構想している。
●【日本のトップ販社】大塚商会
No.1の称号得るも支援内容には厳しい意見  |
大塚商会 田中修主席執行役員 |
「WPC 2012」では、優秀な成績を収めたパートナーを表彰する式典を開催している。そのなかで、国ごとにマイクロソフトのビジネスに最も貢献した企業に贈られる「Country Partner of the Year」に、日本からは大塚商会が選ばれた。田中修・主席執行役員LA事業部事業部長は、「この賞を獲得するのはそう簡単なことではない。今回の賞が、ビジネスに好材料になることは間違いない」と話している。ただ、その一方で厳しい意見も口にする。「大塚商会は、マイクロソフトの製品を売るためにかなりの努力をしている。『Office 365』については、約2000人の営業担当者が販売できるように徹底的に教育した。その割には、マイクロソフトの優遇措置が乏しいような気がする」。
田中主席執行役員は、「マイクロソフトのソリューションがコアな存在であることは間違いない」という思いをもっており、日本マイクロソフトに対する期待値は高い。それだけに、辛口の意見が多かったようだ。

No.1と認められた受賞企業の担当者は、「WPC 2012」で自国の国旗を持ってステージに上がり、喝采を浴びた
●【総合ITメーカー】富士通
蜜月関係変わらずもデバイスに不満?  |
富士通 松下香織 シニアディレクター |
富士通は、国内のコンピュータメーカーのなかでマイクロソフトとの結びつきが最も強い。20年以上前から協業関係を築き、02年にはグローバルの戦略的協業を発表し、2010年には、クラウド基盤「Windows Azure」で協業することを明らかにした。富士通は「Windows Azure」を自社のDCで運用する唯一のパートナーでもある。
プロダクトマーケティング本部アライアンス統括部の松下香織・シニアディレクター兼PFソフト事業本部Windows統括部統括部長付は、今年の「WPC」を振り返って「2010年はクラウドを強く印象づけ、11年はパブリッククラウドに対する強いメッセージを感じた。そして、今年はハイブリッドクラウドを押し出していた。オンプレミス型システムとクラウドの組み合わせは、富士通のビジネスでも重要な要素。関係を深めていきたい」とした。ただ、「スマートデバイスについては(マイクロソフトの力が)弱い気がする。マイクロソフト製品を選ぶ必要性が感じられない。この分野で巻き返してくるはず」と期待している。

「WPC 2012」で配られたオリジナルバッグ。パートナーのロゴが刻まれていたのは富士通だけだった
現地取材を振り返って
「WPC 2012」では、最終日、日本のパートナー関係者と日本マイクロソフトのスタッフが集まった懇親会が開かれた。会場には約300人が詰めかけ、樋口社長も参加。樋口社長の前には名刺交換を求めるパートナーの行列ができた。樋口社長は「今回は『Windows 8』など、新製品が続々と登場する年度。パートナーの期待を強く感じる」と、満足気な表情で話した。日本マイクロソフトは、直近の過去3期連続で増収増益を果たしている。米本社からは、2年連続で先進5か国(ドイツ、イギリス、フランス、カナダ、日本)のなかで最も優秀な成績を収めた現地法人として表彰されている。過去最多のパートナーがイベントに参加し、業績は好調。新製品も続々と登場。グーグルやアップルなどの競合に押されているイメージはあるが、日本マイクロソフトの力を改めて印象づけた。

日本マイクロソフトは、米本社から、昨年度、先進5か国で最も優秀な成績を収めたとして表彰された。トロフィーをもつ日本マイクロソフトの樋口社長(左から2番目)と米本社の幹部陣