国内企業の2012年度のIT投資意欲は、回復に向けた変化が現れ、明るい兆しがみえている。とくに中堅企業の投資回復が早く、BCP(事業継続計画)/DR(災害復旧対策)への投資拡大が見込める。震災による意識の変化が、スマートフォンやクラウドサービスの利用拡大に結びつく可能性がある。ITベンダーには、製品やソリューションがユーザー企業の収益増加に貢献するものであることを明確にする訴求方法が求められている。(文/信澤健太)
figure 1 「IT投資意欲」を読む
中堅企業を中心に明るい兆し
調査会社のIDC Japanによると、国内企業の2012年度のIT投資意欲は、大きな高まりは期待できないものの、回復に向けた変化が現れている。回答した企業のうち、「増加させる」とする企業は15.5%で、「減少させる」とする企業は19.8%だった。前年度と比べると、「増加させる」の回答比率が4.8ポイント増加した一方で、「減少させる」回答が0.2ポイント減少したことが明らかになった。一部で、前年度に比べてIT投資を「増加させる」とする回答が「減少させる」とする回答を上回った。(文/信澤健太)
企業規模別にみると、「増加させる」回答の比率が最も伸びた(7.5ポイント)のが、従業員数100~999人の中堅企業だった。「増加させる」企業が25.9%で、「減少させる」企業の21.2%を上回った。「減少させる」回答の比率は、大手から中小規模の企業にかけて前年度よりもおしなべて減少したが、企業規模が大きくなるにつれてその比率が高まる傾向が顕著に現れている。
国内企業のIT投資増減傾向
figure 2 「世界との比較」を読む
世界は先端テクノロジに高い関心、日本はクラウドが低迷
調査会社のガートナー ジャパンによると、世界が重視するビジネス戦略では、コストを削減する一方で、「成長を加速する」「新規顧客を獲得・維持する」という強い姿勢がみられる。日本でもこの傾向は共通しているが、「IT人材の確保・育成」「新規市場や地域への業務拡大」が上位にランクインした。世界が優先するテクノロジは、アナリティクスとBI(ビジネス・インテリジェンス)、モバイル・テクノロジ、SaaS/PaaS/IaaS(クラウド・コンピューティング)、コラボレーション・テクノロジ(ワークフロー)がそれぞれ1位から4位に入った。一方、日本では、3位にERP(エンタープライズ・アプリケーション)がランクインし、SaaS/PaaS/IaaSは9位(2011年は1位)に低迷する結果となった。ビジネス面でのITの貢献度に関しては、世界では「顧客経験価値」「企業の学習と成長」「顧客エンゲージメント」の順であったのに対して、日本では「生産/サービスの創造」が圧倒的で、「企業の学習と成長」は最下位という結果だった。
2012年におけるテクノロジ面の優先度
figure 3 「IT投資領域」を読む
SMBによるBCP/DRへの投資が拡大
IDC Japanによると、「ビジネス継続性/災害対策」を2012年度(計画)のIT投資領域とする企業の割合が、東日本大震災直後に実施した2011年調査よりも高まった。企業セグメント別では、中堅・中小企業(SMB)におけるBCP(事業継続計画)/DR(災害復旧対策)への投資拡大を見込めるとみる。一方で、「ネットワーク/施設/ハードのセキュリティ強化」や「情報漏えい対策」などを投資領域とする企業は減少傾向がみられる。
SMBを対象としたノークリサーチの調査レポートでは、「従来とほぼ同程度の費用が必要」という企業が最も多く、「以前に想定していたよりも高額の費用が必要」とする回答も、中堅企業から中小企業にかけて20%弱~30%程度に達した。その理由として、「自然災害だけでなく、停電や節電に関する対策を講じる必要があるから」や「データ保護だけでなく、個々の社員が遠隔でアクセスできる手段が必要となるから」が多く挙げられた。一方で、「平常時に得られるメリットがないため、予算を確保しづらい」という意見が最も多くを占めており、BCP/DRを進めるうえでの障壁は低くはないようだ。震災直後の段階でも、SMBの多くは「平常時のメリット」の必要性を強く望んでいることがわかる。
IT投資領域(計画)の変化
figure 4 「課題」を読む
企業収益に貢献する製品であることを訴求
「『災害関連のキーワードで注目を集めて単発の商材を手早く売る』という発想ではなく、『事業継続を広い視点で捉え、平常時のメリットも享受できるソリューションをユーザ企業と共につくり上げていく』といった姿勢が求められてくると考えられる」──ノークリサーチがこう分析するように、BCP/DRへの投資拡大という見方は注意して受け止める必要がある。
IDC Japanによると、震災による意識変化は、スマートフォンやクラウドサービスの利用拡大に結びつく可能性がある。ただし、これらもITベンダーは“儲けの種”として手放しで喜ぶことはできない。コスト削減や効率化の単なる道具としてではなく、競争優位性を生み出し、企業収益の増加につながる手段として、モバイル、ソーシャル、クラウド、BIを活用する機運が十分に高まっていないという指摘がある。ガートナー ジャパンは、日本について、「先端テクノロジや変化に対して総じて慎重で、ERPへの優先度が高いといったように、アジア圏などの新興成長市場におけるビジネスを支援するためのグローバル・ロールアウトが急務になっている傾向がみられる。また、日本では製品/サービスそのものに対する指向が依然として強く、顧客経験価値や学習と成長への指向が相対的に弱い」としている。
BCP/DRを進めるうえで最も大きな障壁となっている事柄