BCP(事業継続計画)、DR(災害復旧)ニーズの追い風を受けるかたちで、旧来型のオンプレミス(客先設置)システムからのクラウドマイグレーションビジネスが大きく伸びている。こうした需要は少なくとも向こう3年は続く安定収益源として、有力SIerがこぞって受注獲得に力を注いでいる。(取材・文/安藤章司)
クラウドマイグレーションに直結
BCPやDRの枠を越えたビジネスに
BCP(事業継続計画)とDR(災害復旧)をテコに、新しい収益モデルの構築につなげようとする動きが活発化している。従来型のオンプレミス(客先設置)システムを、災害に強いデータセンター(DC)へ移設するタイミングで、クラウド方式へとマイグレーションしたり、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)として周辺業務も一括で請け負うなど、これまでのBCP、DRの枠にとらわれないビジネスに発展する傾向がみられる。
DC活用型サービスへ移行  |
インフォコム 吉川実 担当部長 |
BCP、DRを単体で商談しても、大きな金額の受注には結びつきにくいといわれている。理由は明確で、ユーザー企業にとって、BCPやDRは直接自社の売り上げや利益の増大につながりにくいからだ。販売管理や市場分析系のシステムなら、収益機会を増やすツールということでユーザー企業の投資を導き出しやすいが、BCP、DRはどうしてもコスト増の要因と捉えられてしまう傾向がある。
実際、東日本大震災の後に高まったBCPとDRの需要も、時間が経つにつれて沈静化しているようにみえる。だが、ここへきてBCPやDRを関連ビジネスのフックと位置づけることで、クラウドマイグレーションやDCを活用したアウトソーシングサービス、さらにはクライアント端末まで取り込んだデスクトップサービス(DaaS)の商談につなげる動きが活発化している。
有力SIerのインフォコムは、2011年末からユーザー企業先に設置してあるデータをインフォコムのDCにバックアップする「お手軽DRサービス オフィス版」を提供している。月額費用は7万5000円からで、一見すると何の変哲もないDRサービスに思える。だが、このサービスのポイントは、インフォコムのDCに預かるデータを、いざという場合にDC内にあるクラウドリソースで起動し、そのまま本番稼働できる設計になっていることにある。
通常は、ダウンしたユーザーの本番機を復旧し、その後、DR先に預けているデータを呼び戻して復旧するのだが、インフォコムは客先にある本番機の復旧を待たずに、自社のDCにあるサーバーで本稼働を実現する。ユーザーは自らの本番機を修復せずとも、インフォコムのDCで復旧したシステムをそのまま使えるわけだ。
DR先で本番稼働が可能に なぜ、このようなインフォコムにとってコスト増になる仕組みを採用したのかといえば、「DCで当社のITリソースを活用してシステムを動かしても、従来の客先設置型のシステムと何ら変わらない使い勝手であることを、ユーザーに体感してもらうためだ」と、吉川実・サービス事業推進担当部長は理由を述べる。
例えば、ユーザー先のシステムで何らかのハードウェア障害が発生してシステムが止まったとする。すぐさまインフォコムのDCで代替機が稼働するわけだが、実は、これをそのまま本番機として使い続けられるようになっている。契約の切り替えは必要だが、この瞬間、インフォコムはユーザー企業のクラウドマイグレーション案件を受注することになる。ユーザーにとっては、クラウド化によるコスト削減効果とBCP、DRのメリットが取得できる一石二鳥の仕組みなのだ。
インフォコムは、定期的に自社DCでシステムを本番稼働して、ユーザーとともに災害復旧の訓練を行うオプションサービスのメニューを用意している。この機会を捉えて、さりげなく「DCで本番稼働しても問題ないことを体感してもらっている」(同)という。さらには、インフォコムの首都圏にある主力DCに収納したシステムは、新たなDR先として業務提携先の大阪ガスグループのSIerであるオージス総研が運営する関西のDCに待避するメニューを用意している。万が一、首都圏が被災したときに、関西のDCで本番稼働する体制をとっているのだ。
ITシステムのBCPやDRで最もぜい弱なのは、中小規模ユーザーの電算室に機器を設置するケースだといわれている。大規模災害が起きなくても、福島の原発事故以来続いている電力事情の悪化は、夏季にいつ停電になっても不思議ではない綱渡り状態にある。東日本大震災後に首都圏が味わった計画停電では、非常用発電機をもたない中小規模ユーザーの電算室はお手上げになった。この点、DCは電算室とは比較にならないほど堅牢で、BCPとDRは、SIerの多くが重視しているDC活用型ビジネスへの橋渡しの役割を果たす。
IT調査会社のミック経済研究所は、DR関連のシステムやサービスの国内市場規模は年率10%増で推移し、2016年度には2800億円市場に拡大すると予測している。ユーザー企業が自前のDR環境を構築する「SI構築型DR」と、DCを活用する「DC活用型DR」とに分けており、昨年の震災を契機にユーザーの自前主義の見直しが進み、SI構築型の伸びは徐々に鈍化して、DC活用型に需要がシフトすると分析している。DC活用型の関連ビジネスにどう結びつけていくのかが、BCPやDRビジネスの肝になる。次ページからは、関連ビジネスの発展の方向性をみる。
[次のページ]