ジャパン・ディストリビューションシステム(JDS)
会社概要:JDSは、音楽や映像、ゲームといったパッケージソフトを小売店などに配送する共同物流システムを運営している。主要なレコード会社が株主に名を連ね、直近では27社が同社のシステムを利用している。
システム提供会社:日本情報産業(NII)
システム名:音楽共同物流システム
音楽共同物流システムのレガシーマイグレーション
レコード会社などが出資し、音楽・映像パッケージの共同物流システムの運営管理を行うジャパン・ディストリビューションシステム(JDS)は、IBMのメインフレーム「IBM System z」をベースにレガシーマイグレーションを行った。Linux OSベースのオープン化からおよそ3年、システムの不具合がほとんど起こっていないことから、「本稼働から5年でマイグレーション費用を回収できるめどが立った」(JDSの長山節夫・ソリューション開発部長)と、オープン化によるコスト削減効果に手応えを感じている。
JDSはソニー・ミュージックエンタテインメントやキングレコード、ポニーキャニオンなど、主要なレコード会社などが出資する会社である。音楽・映像業界では、CDやBDといった音楽・映像パッケージ製品を小売店などに配送・流通するシステムの共同利用が早くから実用化されており、JDSはこのシステムの運営を担っている。1980年代には、今のIBMメインフレームをベースとしたシステムへ移行。COBOL言語をベースとしたシステムで運用してきたが、JDSの長山部長は「OS/390などのライセンスや保守費用がかさみ、オープン化したほうが運用コストを削減できる」と判断して、2009年10月にレガシーマイグレーションに踏み切った。
JDSの音楽共同物流システムの開発と運用を80年代から請け負ってきた有力SIerの日本情報産業(NII)は、JDSのオープン化の方針に従い、まずは2004年にフロントエンド部分をLinux OSへと置き換えた。メインフレームのインターフェースではなく、汎用性の高いウェブに対応させることで操作性を高め、次の段階として基幹業務システムのOSを、すでに旧式となったOS/390からLinuxへと置き換えることにした。コンピュータ言語はCOBOLからJavaへと変わるので、「ほぼゼロベースからプログラムをつくり直す」(NIIの櫻井伸朗・横浜支社システム部主席)という作業だった。およそ四半世紀もの間、音楽共同物流システムを運営してきたNIIは、高いレベルで業務ノウハウを蓄積しており、開発は順調に進むかにみえた。
不具合が表面化したのは最新鋭の「IBM System z」の導入直後だった。「当初、計画してきた処理速度が出ない」(NIIの松本浩之・第一システムインテグレーション部第三課長)ことが判明した。謎のスローダウンは、製造元でないとわからない部分も多く、IBMの協力の下、解決に臨んだ。これと同時に、NIIが開発を手がけたアプリケーション部分でも「旧ハードと新ハードの処理タイミングの違いや、データベース(DC)構造の違いから細かな数字の差異が出る」(NIIの松本課長)という症状が出た。NIIは、現行システムと新システムを並行稼働させ、帳票1枚単位で両システムの差異を確認する作業に追われた。
新旧システムでの処理タイミングの違いなどから生じる“正しい間違い=正常差異”も多く含まれ、本当の不具合との見極めに手間取った。本番稼働は大事をとって1か月延期。「別途作成した誤差検出プログラムの活用や、JDS側の全面的な協力もあって、最後の1か月で、正常差異も含めて、またたく間に数字が合うようになった」(NIIの櫻井主席)。「IBM System z」の謎のスローダウンもパッチを当てることで解決し、本番稼働からおよそ3年経ったが、非常に信頼性の高いシステムに仕上がった。安定稼働とオープン化によるコストダウン効果で、「レガシーマイグレーションにかかった費用は、稼働から5年で回収できる見込み」(JDSの長山部長)と満足げな表情だ。(安藤章司)
写真左から日本情報産業(NII)の櫻井伸朗主席、ジャパン・ディストリビューションシステム(JDS)の長山節夫部長、NIIの松本浩之課長3つのpoint
・業務を熟知するSIerと組み、大きなトラブルを避ける
・使い慣れたハードプラットフォームを最大限に生かす
・安定稼働により当初計画通りのコスト削減効果を得る