東芝(佐々木則夫社長)は、東芝の企業向けPCと日本IBMの管理ソフトウェア「IBM Tivoli EndpointManager(TEM)」とを連携し、堅牢なセキュリティや省電力などを実現したクライアント管理ツール「東芝スマートクライアントマネージャー(TSCM)」を、9月に発売する。利用企業には、BIOSを自社開発する東芝と、世界で高いシェアを誇るIBMのソフトの連携で、PC使用者に過度な負担をかけず、労働生産性を維持しながら消費電力の大幅な削減に応える。このところの節電意識の高まりや、持ち出しができないデスクトップPCからノートPCに入れ替える動きが活発になる状況にあって、新しく開発した「TSCM」を前面に打ち出して、法人向けPC市場を攻略する。(取材・文/谷畑良胤)
理論値でなく実測値で電力消費を算出
今回発売するソリューション「東芝スマートクライアントマネージャー(TSCM)」は、東芝と日本IBMが共同開発し、企業のオフィスでの検証を経て製品化したもので、東芝情報機器(TIE、影山岳志社長)などで販売する。事前検証では、「TSCM」を導入することで、平日の午前9時から午後8時のPCの消費電力を約47%削減することができた。「TSCM」は、東芝のノートPCに対し、ネットワーク経由で省電力設定やピークシフト設定制御などができる。東芝の企業向け薄型ノートPC「dynabook R732」や「dynabook Satellite B452」など6機種にプリインストールして提供する。

B2B事業推進室
開発部長
中村憲政 氏 「TSCM」には、消費電力管理機能(節電機能)とセキュリティ運用管理が備わっている。前者の機能として特徴的なのは、PCの消費電力を理論値から算出するのではなく、実測して管理できることだ。企業の管理者は、想定消費電力値をPCの端末ごとに定義する必要がなく、消費電力量を正確に把握できる。今年7月に新設されたB2B事業推進室の中村憲政・開発部長は、「サーバー側から直接BIOSと通信してPCのもつセンサで消費電力を計測するので、リアルタイムにモニタリングできる」と説明する。
また、PC単体やユーザーグループ単位で消費電力量を正確に把握し、電力の消費状況を調べ、利用傾向に応じた節電設定やピークシフト設定などの高度な省電力管理ができる。例えば、管理業務が多い内勤者のPCを積極的に省電力設定し、一方で画像解析など技術用PCのディスプレイの輝度を上げる。CAD作業中に同時に仕様書などの確認に用いるPCには、スリープに移行するまでの時間を長めにとり、処理速度や輝度を低めに設定するなど、多様な利用法が可能になる。中村部長は「他社製品は、一方的に省電力設定のプロファイルを一斉に送る形式なので、PCの利用状況に応じた設定ができない。例えば消費電力のピーク時には一斉に全PCの画面を暗くするといった措置しかとれない。またその効果も理論値でしか算出できない」と、TSCMの優位性をアピールする。
外出中の不正利用も防止
一方、セキュリティ運用管理機能については、「TSCM」の電源制御機能で起動の許可や禁止をPC端末ごとに設定することが可能となる。例えば、PC起動時にネットワーク認証しなければ起動できないように設定すれば、非認証中のPCは使えない。盗難や紛失時などの不正利用や情報漏えいを防止できる。

デジタルプロダクツ&サービス第一事業部
国内マーケティング部長
守屋文彦 氏 とくに注目に値するのは、BIOSを自社開発する東芝ならではの機能を搭載していることだ。デジタルプロダクツ&サービス第一事業部の守屋文彦・国内マーケティング部長は、「『TSCM』は、ソフトによる起動制御だけにとどまらず、ソフトと当社開発のBIOSを組み合わせた当社のノートPCならではの起動制御ができる」と、特色を説明する。例えば、仮にノートPCのOSを改ざんして不正利用をしようとしても、ハードウェアが起動制御して不正利用を防ぐ。さらに、「状況に応じた企業のセキュリティポリシーの設定が可能で、USBメモリやネットワークドライブへのアクセス禁止、印刷不可など、きめ細かい運用ができる」(同)という。
東芝では、TIEや同社の販売パートナーを中心に「TSCM」の提供を開始するが、「自社BIOSを搭載した『dynabook』ならではのクライアント管理ツールとしてメリットを紹介していき、Tivoli導入企業をはじめとして、積極的に提案していく」(守屋部長)という。
東日本大震災後の節電の影響で、デスクトップPCからノートPCへの移行が進み、さらにはワークスタイルが変革するにつれてモバイルデバイスのユーザーが増えた。東芝は、ノートPCやモバイルデバイスの需要が旺盛になっている機会を捉えて、差異化ソリューションの「TSCM」を武器にさらなる売上拡大を図る。ノートPCを主戦場とする東芝が、どこまで企業向けPC市場でシェアを拡大するかが注目点だ。