調査会社IDC Japanの最新データに基づいて、国内IT市場の直近の状況を読む。2012年からは、従業員数1000人以上の大企業を中心にユーザー企業のIT投資の回復が進んでいく。有望商材は、パブリッククラウドサービス。PaaS(サービス型プラットフォーム)がけん引するかたちで、パブリッククラウドサービス市場は2016年に、2011年の5倍以上の規模に拡大することが見込まれている。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「規模」を読む
2012年は13兆円強、2016年まで横ばいで推移
調査会社のIDC Japanは、2012年の国内IT市場の規模を13兆4691億円とみている。東日本大震災によって日本経済が大きなダメージを受けた2011年と比べて、2.3%の成長を示した。また、ITに通信サービスを追加した2012年の国内ICT(情報通信技術)市場は、24兆8874億円に拡大した。前年比成長率は1.3%。IDC Japanは、日本のIT市場は今後、ほぼ横ばいで推移する見込みだ。2016年に、IT市場は13兆6463億円(前年比成長率0.7%)、ICT市場は24兆9410億円(同0.3%)の規模になるという。日本のIT/ICT市場は、GDP(国内総生産)のおよそ5%前後を占めており、米国や欧州と比べて、GDPと比例して規模が小さいといわれている。今後は、クラウドコンピューティングやモバイル端末の普及、ITを駆使して大量情報を分析・活用するビッグデータ時代の到来などを受け、これら企業の経営改善を図る新しいITツールの登場によって、国内のIT市場はさらに伸びる余地があるともみられる。
国内IT市場規模の予測
figure 2 「リーダー」を読む
東日本大震災でトップ5社はマイナス成長
IT市場のプレーヤーは、機器やソフトウェアを製造するメーカー系と、それらの製品の販売を手がけ、インテグレーションを行う販社系で構成される。富士通やNEC、日本IBMなど、売上規模で国内IT市場を率いるトッププレーヤーは、製品づくりと自社/他社製品の販売の両方を事業としているのが特徴だ。彼ら総合ベンダー以外に、ソフトウェアベンダーとしては日本マイクロソフトやSAPジャパン、システムインテグレータ(SIer)としてはNTTデータやITホールディングスなどが有力プレーヤーとなっている。
IDC Japanによると、NTTデータを除き、富士通、NEC、日立製作所、日本IBM、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の総合ベンダー5社は、日本IT市場の2011年上半期の売上高上位を占めた。しかし、東日本大震災によって大きな打撃を受け、売上高合計で前年同期比マイナス6.0%と下降を余儀なくされた。
国内IT市場の総合ITベンダー5社
2011年上半期の売上高と前年同期比成長率
figure 3 「成長度合い」を読む
大企業はIT投資が回復、SMBは2013年以降
ITベンダーはターゲット戦略にあたって、製品の提案先を大きく二つに分けることが多い。従業員数1000人以上の大企業と、従業員数999人以下の中堅・中小企業(SMB)がその区分だ。大手企業は、会社数は少ないものの、各案件の規模が大きいので、ITベンダーにとって有望なターゲットとなる。しかし、リーマン・ショック以降、大型案件が激減するなど、リスクも高いことから、ここ数年は、ITベンダーの多くはターゲットを転換して、SMB市場の開拓に力を入れる傾向が出てきている。
IDC Japanは、大企業の2012年のIT支出額を6兆720億円(前年比成長率1.7%)、SMBの2012年のIT支出額を3兆5687億円(同マイナス0.6%)とみている。この数字からすれば、大企業はSMBより早くIT投資の回復が進んでおり、話題となっている商材の「モバイル」や「クラウド」に関して、IT予算にある程度の余裕をもつ大企業に向けたビジネス展開には新たな商機があるといえる。一方、IDC Japanによると、2013年あたりにSMBのIT支出額のマイナス推移が止まって、業績の回復が遅れているSMBも、微増ながらも来年以降はIT投資を増やしていく兆しがみえてきている。
国内IT市場企業規模別の前年比成長率の推移
figure 4 「旬の商材」を読む
パブリッククラウド、PaaSがけん引役
ハードやソフトなど、ITリソースをサービス型で提供するクラウドコンピューティングの市場は、本格成長が始まっている。インフラストラクチャ(IaaS)、ミドルウェアを含めたプラットフォーム(PaaS)、応用ソフトであるアプリケーション(AaaS)で構成される国内パブリッククラウドサービス市場は、IDC Japan調べでは2011年の662億円から、2016年には年平均成長率38.8%で3412億円に拡大することが予測されている。2011年比で、5.2倍の規模に上るわけだ。成長の理由として、外資系・国産ともに、パブリッククラウドを本格的に提供するベンダーが増え、サービス内容の拡充が急速に進んでいることや、企業の間でパブリッククラウド利用によってコストを削減しようとする動きが高まることが挙げられる。
IDC Japanによると、パブリッククラウドサービスのなかでも、PaaS(グラフではオレンジ色の部分)が本格的に普及し、パブリッククラウド市場の成長を促進するとみられる。同社の松本聡・ITサービス リサーチマネージャーは、「メリットの訴求だけではなく、クラウドを導入した後の課題と解決策を提示することがベンダーに対する信頼を高め、競争力の強化につながる」と指摘している。
国内パブリッククラウドサービス市場
セグメント別の売上高推移