スマートデバイス関連市場が急速に成長している。法人がスマートデバイスを活用するケースも徐々に増えてきた。モバイルビジネスに本格参入した業務アプリケーションベンダーは、アプリストアや開発プラットフォーム、販売パートナー支援制度の整備などに着手。スマートデバイス向け業務アプリも充実しつつある。ユーザーの活用シナリオを十分に理解し、業種・業態ごとに固有のニーズに応じることがビジネス成功のカギを握る。(文/信澤健太)
figure 1 「デバイスの普及」を読む
スマートデバイスの法人比率は2016年度に12.6%へ
スマートデバイス向け業務アプリケーション(アプリ)への注目は高まる一方だ。スマートデバイスの出荷台数の急激な伸びは、業務アプリベンダーのモバイルビジネス参入を否応なしに促している。ただし、従来型携帯電話やパソコンに比べて、スマートデバイスは法人への導入が進んでいない。調査会社のICT総研によると、2011年度の国内出荷台数に占める法人向け比率は4.9%の129万台に過ぎず、セキュリティ面の不安や通信コストの高さが壁となっている。とはいえ、ユーザー自身のデバイスをオフィスに持ち込んで仕事に利用するBYOD(Bring Your Own Device)の広がりは無視できない。ICT総研は、スマートデバイス向け業務アプリも充実しつつあり、ノートパソコンの一部をタブレットなどに置き換える動きもみられる、と指摘する。2012年度は前年比1.8倍強の242万台、2013年度は同1.4倍の343万台、2016年度には530万台が出荷されると予測する。2016年度の法人出荷台数比率は12.6%にまで向上するとみる。
スマートデバイスの国内出荷台数予測
figure 2 「商材」を読む
利用が進む営業・顧客管理系と情報系
調査会社のガートナーによると、スマートデバイス向けのアプリは、個人向けの生産性向上ツールにとどまらず、経営の意思決定などに活躍する業務用途のツールとしての可能性が広がっているという。
ガートナーは、有望とするスマートデバイス向け業務アプリとして、(1)セールス・オートメーション・システム、(2)BI(ビジネス・インテリジェンス)、(3)コンテナ化された電子メール、(4)ミーティング用のコラボレーション・アプリケーション、(5)ファイル・ユーティリティ、(6)エンタープライズ・アプリケーション、(7)医療支援システム、(8)ホスティング形式の仮想デスクトップ・エージェント、(9)ソーシャル・ネットワーキング・アプリケーション、(10)役員向け資料──を挙げている。このうち、比較的利用が進んでいるのが、営業・顧客管理系と情報系のセールス・オートメーション・システムやファイル・ユーティリティ、コラボレーション・アプリケーションなどである。
ガートナーが有望とするスマートデバイス向け業務アプリ
figure 3 「活用実態」を読む
ニーズに応じた活用シナリオを用意することが必要
スマートデバイス向けの業務アプリの選択肢は多くなってきてはいるが、スマートデバイスの多彩な機能を生かし切れず、外出先でのメールやスケジュールの確認にとどまるケースが少なくない。導入されている業務アプリの種類も乏しい。調査会社のノークリサーチのレポートによると、「スマートデバイスを社内向けに活用しない要因」をたずねた結果、企業規模が小さくなるにつれて「自社業務のなかで必要となる場面がない」という回答の割合が多くなっていることが判明した。「画面の見やすさ」や「入力のしやすさ」では、ノートパソコンとの差異化が難しい。既存のデバイスとは異なる観点で、新たな導入メリットを考える必要がある。
ノークリサーチは、ニーズに応じたシナリオ──(1)情報共有アプリの活用、(2)各拠点における在庫などの発生源入力、(3)自社商品のデモや事例紹介、(4)プレゼンテーションでの利用、(5)ペーパーレス化──を用意したうえで、例えば情報共有アプリの活用については、「単に情報を参照するだけでなく、『出張時の営業報告書の作成』や『交通費の自動計算』といった『発生時点でのデータ入力』も加わると、企業規模が小さくても導入効果をものにするケースが増えてくる」と分析する。ITベンダーは、ユーザー企業が描いている活用シナリオを十分に理解することが重要となる。
社内向けスマートデバイスの活用状況
figure 4 「将来」を読む
モバイルビジネスで求められるテクノロジー対応と協業
ガートナーは、スマートデバイス向けのモバイルアプリの開発プロジェクトは2015年までにネイティブPCプロジェクトを上回り、その比率は4対1になると予測する。アプリストアからのモバイル・アプリケーションのダウンロード数は、2014年までに年間700億を超える見込みだ。ITベンダーが展開するアプリストアが成長し、コンシューマ向けだけでなく、企業向けのモバイルアプリの種類や数が増加していく。こうしたなかで、UI(ユーザーインターフェース)環境は、ウィンドウ、アイコン、メニューなどからタッチや検索、音声、ビデオなどに重点が置かれるようになるという。
だが、業務システムの開発、導入を手がけてきたメーカーやSIerなどのITベンダーにとって、モバイルビジネスに関連する開発ノウハウや知見は乏しい。個人市場の技術やサービスが法人市場に大きな影響を与えるコンシューマライゼ―ションの波が訪れるなかで、モバイルはもちろん、ソーシャル、クラウド、ビッグデータを捉えた広範な協業が求められている。すでに本格的にモバイル事業に参入し始めた業務アプリベンダーは、モバイルアプリの開発プラットフォームの展開やパートナー制度の立ちあげ、開発・販売体制の構築に着手している。
先進テクノロジーのハイプ・サイクル(一部抜粋)