【北京発】中国市場で、日本のプリンタ会社の市場争奪戦が激しさを増している。中国の政権交代を前にして、買い控えの傾向がみられるものの、カラー機を中心に市場が急成長している。こうした状況を肌で感じようと、北京に事務機販売の現地法人を置くキヤノンとOKIデータを取材した。(取材・文/谷畑良胤)
【キヤノン 現地法人 佳能(中国)】
拠点を強化しカラー率を高める 今秋、事務機イベントを開催

渡辺秀一
高級副社長 キヤノン(御手洗冨士夫会長兼社長CEO)の中国現地法人で、小澤秀樹総裁が率いる佳能(中国)は、中国全土でコピー・プリンタを中心とする事務機器販売を強化している。その一環として、今年度(2012年12月期)中には、新たに10拠点の営業事務所を設置する計画で、現地スタッフの採用など、整備を進めている。現地法人設立15周年に関連して、交通広告や主要都市での製品・技術展示会の開催をはじめ、大々的にカラー使用率を高めるプロモーションも展開中だ。
佳能(中国)は、中国市場でキヤノン製品の販売を手がけている。販売製品に占める割合は、約8割がカメラで、コピー・プリンタなど事務機器は残り2割だ。同社の商務影像方案本部大幅面打印机産品本部の渡辺秀一高級副社長によれば、「世界の製品比率に比べて、中国市場では事務機の比率は小さい」という。「中国の市場規模を勘案すれば、事務機を伸ばす余地はまだまだ大きい」と判断して、今年1月に就任した渡辺高級副社長を中心に、市場拡大に向けた強化策を打ち出した。
同社の中国拠点は、昨年まで、1級都市を中心に21拠点を構えていた。その拠点を中心にディーラー網を築き、現在は、コピーの複合機を含む事務機を販売する地場の契約店が約300社、日本でいう小規模なOAディーラーでネットワーク店と呼ぶ販社が1000社以上ある。今年度中には、拠点網を整備してディーラー網を拡充するため、3級・4級都市に新たに10拠点を設けることを計画している。
プロモーション施策としては、ブランドの認知度向上とカラー利用率を上げる取り組みを実行中だ。9~12月には北京や杭州などで事務機の製品・技術展示会を開催する。中国のコピー・プリンタは、依然としてモノクロ機が主流で、カラー率が10%以下といわれる。経済発展とともにカラー率も急速に拡大している動きに乗じて製品販売を伸ばす考えだ。同社では「ミッドレンジ(中堅)、印刷速度の高速化、カラー化率アップを意味する『MHC』の製品と低価格製品の両面で、市場拡大を狙う」(渡辺高級副社長)という戦略で、前年度比30%増の売上高伸長を目指す。
【OKIデータ 現地法人 日冲商業(北京)】
総代理店体制を見直し 重点チャネル再構築で営業見える化
OKIデータ(平本隆夫社長)の北京にあるプリンタ販売子会社、日冲商業(北京)は今年度(2013年3月期)から、LED(発光ダイオード)プリンタの中国内での販売チャネルを大幅に見直した。今年3月までは、中国大手ディーラーの1社を「全国総代理店」にして、中国全土の代理店網を構築していた。だが、昨年10月1日付で現地法人の代表者に就任した深野文夫董事長は、「この1社に任せてきたものの、営業機能が十分でなく、販売が伸び悩んだ」と判断し、OKI製品を主体に販売する「重点代理店」18社と提携し、主にこの18社を通じて拡販する体制に変更。同社と代理店の目標と実績を共有できる体制にし、OKIデータで策定した各国別の中期計画以上の実績を上げることを狙う。
日冲商業(北京)のシングルファンクションと複合機のLEDプリンタの販売チャネルは、昨年度まで「全国総代理店」が在庫を抱えて全国の中国ローカルのディーラーを束ねていた。しかし、「販売アイデアやサポートの仕方などが当社に上がってこないだけでなく、ユーザーの導入環境もつかめなかった」という状況で、深野董事長は就任早々の段階で懸念していた。
昨年までは、総代理店の下に「核心代理店」と呼ぶ全国のディーラーが約70社あり、これとは別にシステムインテグレータ(SIer)数社のチャネルも築かれていた。今年度に入ってからは、総代理店体制を廃止して、「核心代理店」がOKI製品を主体に販売・サポートする体制に改め、日冲商業(北京)側で直接営業支援できる代理店18社を「重点代理店」として契約した。重点代理店の選択基準は、家電量販店に販路を築いており、法人の固定客を多く抱えて、政府・行政系や医療など、日冲商業(北京)の注力分野に強いディーラーとしたという。
深野董事長は、「特定ディーラーとタッグを組み、目標と実績を『見える化』する。ディーラーとは常時交流してユーザー環境を把握し、既存顧客だけでなく、主に新規顧客を獲得する」ことを狙う。特定の代理店と強固な関係性を築くことで、トナーなどのサプライ品を拡大できるとも判断している。中国市場では、プリンタのトナーや部品などのサードパーティー製品が堂々と店頭などで売られている。そのため、多くのプリンタ会社の収益の柱となる「アフタービジネス」が成り立っていない。日冲商業(北京)は、この代理店改革に伴って、重点ターゲットの政府系の営業を強化するために、社内に「特販部」も新設している。
調査会社IDCによれば、中国のコピー・プリンタ市場は、ドットインパクトプリンタ(SIDM)を含め、販売台数が年率20%以上の成長ぶりを示している。OKI製品に限っていえば、ここ数年は「販売台数比率で8割を占めるSIDMは成熟し、代わって、カラー複合機が40%増、カラーのシングル機が20%増と伸びている」(小谷清副総経理)という状況で、とくに、ローエンドのカラー機の品揃えを増やすなどで、全体の販売増を目指す方針だ。
深野文夫董事長(左)と小谷清副総経理