ネットワーク製品は、クラウドコンピューティングやモバイル端末の普及を受けて、需要が高まる傾向にある。しかし中期的にみれば、イーサネットスイッチなど、市場が縮小する製品と、ロードバランサをはじめ、市場が成長する製品があって、それぞれで推移が大きく異なる。ここでは、イーサネットスイッチ、ルータ、ロードバランサ、ネットワーク管理ソフトウェアの四つの分野に分けて、主要ネットワーク製品の国内市場の動きをみる。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「イーサネットスイッチ」を読む
2012年から売上額ベースでは縮小に
ネットワークを構成する際のコア製品で、関連機器のなかで最もマーケット規模が大きいイーサネットスイッチの市場は、2012年を境として、売上額ベースで縮小傾向に転じている。2011~12年は、スマートフォンの普及によるトラフィック増大によって、ネットワークインフラの強化に取り組むモバイル通信事業者向けビジネスが活発になっている。調査会社のIDC Japanによると、2011年の市場の売上規模は約1563億円で、2012年には微増ながら成長する見通しだ。しかし、IDC Japanは、イーサネットスイッチを積極的に増設するモバイル通信事業者の投資活動は中期的にみれば鈍化し、これまで市場を支えてきたモバイル通信事業者向け需要が減少に転じるとみている。モバイル通信事業者向け需要の減少と、機器の低価格化が進行することを主な要因として、国内イーサネットスイッチ市場は、2012年の約1600億円から2016年までに1500億円に縮小すると見込まれている。
国内イーサネットスイッチ市場の推移
figure 2 「ルータ」を読む
2015年まで成長、通信事業者向けがエンジン
スマートフォンが普及し、モバイル通信事業者がネットワークインフラを強化する動きは、ネットワーク上を流れるデータを他のネットワークに伝える役割を担うルータの市場にも刺激を与えている。IDC Japanの調べによれば、2011年の通信事業者向けルータの市場規模は、売上ベースで前年比15.4%増と大きく伸び、891億円7300万円となった。法人向けルータ市場全体で、7割以上を占めている。ルータの通信事業者向け市場は、イーサネットスイッチと同様、モバイルインフラの強化によって旺盛になった需要は中期的には鈍化するが、その一方で、今年後半から固定系通信サービスの次世代ネットワーク構築に向けた投資が活発化し、全体としてはわずかながら成長を続ける見込みだ。また、企業向けルータ市場も、置き換え需要などによってポテンシャルが高まっているという。これらを背景に、国内の法人向けルータ市場全体は、2015年まで拡大し続け、2015年、売上規模で1300億円弱に上ると予測されている。
国内ルータ市場のエンドユーザー売上額推移
figure 3 「ロードバランサ」を読む
勢いよく拡大中、2016年までに350億円強に
イーサネットスイッチが縮小してルータが微増と、この二つの分野の機器は大きな伸びは期待できないようだ。これに対して、アクセスを分散して複数のサーバーに振り分けるロードバランサ(L4/L7スイッチとも)の市場は、母数はイーサネットスイッチやルータに比べて小さいが、急速に成長することが見込まれている。IDC Japanによると、2011年の国内ロードバランサ市場の規模は、前年比で17.1%の大幅増で238億円に拡大した。ロードバランサ市場は今後も勢いよく伸び続け、2016年までに350億円強のレベルに達する見込みだ。成長の背景には、インターネット利用の拡大やクラウドコンピューティングの普及がある。ロードバランサの主なターゲットであるインターネットサービスの提供事業者やクラウドベンダー、データセンター事業者が設備を強化するために継続的に投資を行い、サービス提供用設備としてロードバランサ需要がネットワーク製品市場をけん引する見込みだ。
IDC Japanによると、2011年のメーカーシェアは、F5ネットワークスジャパンが8年連続で首位を獲得している。事業拡大に積極的なA10ネットワークスがシェアを伸ばし、2011年、初めて売上ベースで2位にランクインした。
国内ロードバランサ市場のエンドユーザー売上額推移
figure 4 「管理ソフト」を読む
運用プロセスの効率化で需要が活発化
ロードバランサに加え、もう一つ、成長が見込まれているネットワーク製品群がある。仮想環境向けの自動化ソフトウェアやネットワークの稼働監視ツールなどから構成されるネットワーク管理ソフトウェアだ。IDC Japanによると、2011年の国内システム/ネットワーク管理ソフトウェア市場は、東日本大震災による一時的な投資抑制があったものの、前年比でプラス成長となり、売上高ベースで2800億円弱の規模に伸びた。2012年は、前年比2.4%増で2857億1100万円になる見込みだ。今後、ハードウェアとソフトウェアのIT資産を統合管理したり、複雑化するシステム/ネットワークを可視化したりするニーズが高まることがカンフル剤となって、システム/ネットワーク管理ソフトウェアは成長を続ける。2016年には3155億円に達するという。
ソフトウェア&セキュリティを担当するIDC Japanの入谷光浩シニアマーケットアナリストは、「ユーザー企業が着目しているのは、運用管理にかかるムダの排除だ。仮想化技術を活用した自動化によって運用プロセスを効率化するために、システム/ネットワーク管理ソフトウェアを活用したソリューションでユーザー企業を支援することが、これからのITベンダーに課せられた使命だ」とコメントする。
国内システム/ネットワーク管理ソフトウェア市場の売上額推移