10月下旬、千葉県の幕張メッセで開催された「第3回 クラウドコンピューティング EXPO 秋」。ここで注目を集めるほど多くの参加者を集めたITベンダーがある。お笑いタレントを巧みに使う宣伝を行ったブランドダイアログだ。タレントの出番ではない製品説明の場面でも、一時は100人以上がブースを取り囲み、一人勝ちの状態だった。周辺の出展社がうらやむほど多くの参加者を集め、話題をさらった。2009年に設立して間もない、大手がひしめく成熟市場に参入したグループウェア/SFA(営業支援)のベンチャー。なぜ、ブランドダイアログが受けるのか──。(取材・文/谷畑良胤)
「日本の市場には、米国発のコラボレーション製品しかない」。ブランドダイアログの社長兼CEOである稲葉雄一は、クラウド型と銘打った無償版の企業向けグループウェア「GRIDY」を投入した時、「日本人なりの使い方があるはず」と考えた。グループウェア市場は、完全に成熟していた。競合がしのぎを削るなかでの参入に、IT業界関係者は誰もが「無謀」とみた。
だが、有償版の「Knowledge Suite」を投入して、通信キャリアのKDDIなどと販売提携し、出資を得た頃から状況は一変する。「GRIDY」のターゲットは中小企業や部門単位の小規模導入がメインだったが、「Knowledge Suite」を出してからは、中堅・大手企業からの引き合いが増えた。「外資系大手とのコンペに勝っている」。3年前のIT業界を知らない頃とは違う。稲葉のメガネの奥の目がきらりと光る。設立時の投資回収はまだ途中で、プロモーション費は出し続ける。
前述の「クラウド EXPO 秋」では、お笑いタレントの長州小力を招いた。開発責任者であるソリューション本部取締役本部長の飯岡晃樹を「大力」として起用し、小力と大力の“両氏”でコラボした。どうしても、このイベントで国内で競合する某大手ベンダーに勝ちたかった。社長兼CEOの稲葉は、元電通マン。昔取った杵柄だ。微に入り細にわたり、陣頭指揮を執って演出を考えた。「完全に勝った」。稲葉が製品説明をする時には、120人以上の聴衆が集まった。

「クラウド EXPO 秋」で、数多くの参加者を集めたブランドダイアログのブース。タレントの長州小力と“大力”の役目をする飯岡晃樹取締役が製品を説明した。(囲み内は、聴衆が120人を超えた稲葉雄一社長兼CEOのブース内でのプレゼンテーション)
ブースの前では、長州小力の声で「Knowledge Suite」の宣伝が連呼される。聞いたことのある特徴的な声と小太りの体型。誰もが足を止め、ブース内に引き寄せられる。ブースでは、「Knowledge Suite」を代理販売する販売会社が待ち構える。代理店はそこで顧客リードを得る。
最近では、数万ユーザー単位の大企業案件が決まり始めている。競合相手はセールスフォース・ドットコムやマイクロソフト、Googleなどだ。稲葉の信頼できる“友達”にだけ許されたFacebookでは、社名は出ないが、戦いの苦悩の様子が語られている。「某外資系大手にコンペで勝った負けた」が綴られている。とにかく顧客層を広げる。あと数年は投資を続ける覚悟だ。
ただ、将来にわたって勝ち続ける保証はない。稲葉は言う。「企業内個々人のナレッジが暗黙知でしかなく、蓄積されていない。企業内にビッグデータは点在する。この暗黙知を入れる“インプットメディア”が『Knowledge Suite』だ」。そもそものコンセプトが米国発のコラボ製品とは違う。というよりは、コラボ製品を超えてビッグデータをうまく利用するツールへと進化させようとしているのだ。[敬称略]