第一勧業銀行(現みずほ銀行)に在籍していた当時、「バブル崩壊」を目の当たりにし、今はメール配信システム大手、エイジアの社長を務める美濃和男。バブルが崩壊した時、米国に比べて落ち込みが激しい日本経済を自分なりに検証した。彼が出した結論は、「ITベンチャーの勢いの差」。当時の米国では、ITベンチャーがベンチャーキャピタル(VC)の投資を受けて急速に成長し、一気に巨大化した。ソフトウェアの開発力は日本が上。だが、資金力とアイデアを生み出す頭脳に遅れをとっている。(取材・文/谷畑良胤)
第一勧銀を退職した美濃は、日本証券業協会が行っている非上場企業の株式を売買する「グリーンシート」関連の証券会社の設立に加わった。「銀行の融資システムは限界にきている」。そう感じた美濃が思案の末にたどり着いたビジネスモデルだった。だが、思惑通りに株式が売れない。そこで、市場を活性化する目的で、競合となる同種の証券会社を二人で立ち上げた。この会社をわずか2年で退職し、グリーンシート(のちにマザーズに上場)の営業先であったエイジアに入社することとなった。
ベンチャー企業が日本で育ちにくい状況をみてきた。立ち上がったベンチャー企業が長もちしない日本経済の問題点もみえてきた。といって外資系に負けたくない。そんな美濃だからこそ、エイジアでは、資金調達で足下を固めることに重点を置いた。その次に勝つための手段は何か──。年商7億円強のITベンチャーとしての「勝利の方程式」を模索し始めたのだ。
エイジアの社長就任時に「10年以内に、年商100億円にする」と宣言したことは前号で触れた通りだ。その内訳を聞くと、「3分の1は海外で売り上げる」と美濃は断言した。実際、主力製品のメール配信システム「WEB CAS」シリーズは、日本語や中国語(簡体字/繁体字)に加え、英語、スペイン語、タイ語の多言語に対応済みだ。現在、EC(電子商取引)サイトが頻繁に立ち上がる中国やタイ、ベトナムなど東アジアを中心に海外顧客を増やしている。
今のエイジアのスローガンはこうだ。「メールアプリケーションのエイジアからeコマース売上UPソリューションを世界に提供するエイジアへ」。各国の市場拡大に応えようと必死なECサイトからの投資の呼び込みに邁進する。「WEB CAS」の特徴は、顧客に応じたカスタマイズを丁寧に迅速に行うことだ。だが、海外向けに関しては、ASP/SaaS型での提供をメインに、「ストックを得る方式」が主流だ。ただ、国内を含めて「クラウド型もカスタマイズします」(美濃)ということを大々的にアピールし、多くの顧客の支持を得ている。

エイジアの美濃和男社長は、MIJSの理事長として国内ソフト産業の活性化に向けた活動を強化した(2012年10月にMIJSが開催した「MIJS土佐ワークショップ」で挨拶する美濃理事長)
美濃は、2012年度、前任理事長である1stホールディングス社長の内野弘幸の後を継ぎ、メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS)の理事長に就任した。国産の有力独立系ソフトウェアベンダー(ISV)が集まる団体の長として発した第一声は「世界にMIJSあり」。願望も含めてだが、美濃は海外で実績を残すことこそ自らの使命と捉えている。
それでも、「日本市場を軽視してはいけない」と戒める。ピーター・ドラッカーの名著『現代の経営』を傍らに置き、マクロ、ミクロで市場を俯瞰することに努力をいとわない。メール配信システムなど情報系システムは、国内で“黒船”の影響を色濃く受ける。この領域で生き残るには、まず国内を制覇しなければならない。ネオジャパン取締役の狩野英樹が、この連載で語った「国内重視」という言葉と符号する。[敬称略]