国内の有力ソフトウェアベンダーが集結する「Made In Japan Software Consortium(MIJS)」の新理事長に、2012年4月1日付で現理事であるエイジアの美濃和男社長が就任する。現理事長であるウイングアーク テクノロジーズの内野弘幸社長の意を引き継ぎ、既存の委員会活動に磨きをかけるなど、MIJS創設時の「理念」の実現に向けた活動を推進する。美濃・新理事長のキャッチフレーズは「世界にMIJSあり!」。今後の国内ソフトウェア市場の構造改革に向けた取り組みや海外展開などについて新旧理事長に熱い思いを聞いた。(聞き手●谷畑良胤<『週刊BCN』編集長>)

これまでの3年間
「理念」の実現に委員会を創設 海外展開はいまだかなわず

 MIJSは2006年8月、パッケージ製品を中心に事業展開する国産有力ソフトウェアベンダーが集結して設立された。国内トップクラスの製品群を相互連携し高付加価値で競争力の高いソリューションに仕上げて、国内外の顧客の要求に応える「ナショナルブランド」を確立することを「理念」としている。その代表者として内野理事長が就任したのは09年4月だ。MIJSは3年間、この「理念」の実現に向けて何を成し遂げることができたのか。内野理事長は「海外で成功することはかなわなかった」と反省の弁を述べる一方で、次のように成果を語る。

 「MIJSの根底にある目的は、日本の冠たるソフトが世界に出て利益を上げることだ。しかし、私が前任者から理事長を引き継いだ時、もう一度、国内で各ベンダー同士が技量を磨いて連携を深める必要性を感じた。従来は、ベンダー代表者からなる理事がコンソーシアム全体の企画立案・運営・実行を手がけていた。だが、他の中堅メンバーを含めて加盟各社のメンバーが相互に意見を出し合い、MIJSの目的(理念)に沿って具体的な活動をすべきだと感じ、委員会組織をつくった」

 3年前、内野理事長は目的別に三つの委員会を立ち上げた。根底の目標である海外進出について検討する「海外展開委員会」、クラウドコンピューティングやスマートデバイスなど新しい技術の習得を目指す「製品技術強化委員会」、ソフト製品の利用促進や販売力などを強化してマーケティング力の向上を図る「プロダクトビジネス推進委員会」がそれだ。これまで加盟ソフトベンダーの社長クラスの理事がコンソーシアムをけん引する体制を改め、委員会中心の活動に変更したわけだ。内野理事長は、この方針転換をこう振り返る。

 「国内のトップベンダーが連携して国内市場を活性化するために、外資系ベンダーと比べて決定的に劣っているマーケティングの強化が必要だった。理事長就任時に最初に組織化したのは『プロダクトビジネス推進委員会』で、ここで具体策を練ってもらうことにした。この委員会に限らず、すべての委員会で一定の成果が出た。正会員と準会員の加盟社数で、この3年間に14社から65社へと4.6倍に増えた。委員会活動の先進性に興味を抱き、自らの研鑽の場としてMIJSを選んでくれたことの結晶だ」

委員会活動の成果と課題
受託開発主流の日本に、課題山積
パッケージ普及の啓発強化

 この「プロダクトビジネス推進委員会」を委員長として、委員会活動の活性化に力を尽くしてしてきたのが、12年4月に着任する美濃・新理事長である。美濃氏は、これまでの委員会活動について、次のように語る。

 「『プロダクトビジネス推進委員会』が立ち上がった当時、私は副委員長兼ワーキンググループ(WG)の代表者を務めていた。活動が一定の成果を上げ始めた翌年度は、WG代表は中堅クラスのメンバーに交代した。MIJSの理念を広める活動として『普及啓発WG』では、ユーザー企業やシステムインテグレータ(SIer)を集めて年数回のセミナーを開催。このセミナーでは、MIJS加盟ベンダーが自社製品・サービスを説明することを含めて、MIJSの理念を広く世の中に啓発することに重きが置かれた。これについても、一定の成果が出ている」

 プロダクトビジネス推進委員会のセミナーは、毎回100人前後を集客し、クラウドや事業継続計画(BCP)などテーマ別に実施した。美濃氏がこれらセミナーを通じて訴求したかったのは、すぐれた製品・サービスを紹介することだけではない。日本は受託ソフト開発が多く、パッケージの普及率が世界に比べて低い。高いシェアを誇るMIJS加盟社のパッケージを使えば、安価で効率よく導入することができ、労働生産性や業務効率などを高められる。そういう受託ソフト開発に対する“アンチテーゼ”の場だった。また、美濃氏は、委員会で次のような動きが生まれたことも成果の一つに挙げる。

 「プロダクトビジネス推進委員会では、マーケティングの勉強会も積極的に行った。委員会のWGでは、自社のビジネスモデルを加盟各社にプレゼンテーションし、それに対して第三者の立場から意見を発表する場を設けた。他社の成功事例を自社のプロダクトやビジネスモデルに生かす動きが高まったと実感している」

 MIJSの活動が国内IT業界で一目置かれるのは、ソフトベンダーの代表者同士だけでなく、次の世代を担う中堅クラスや若手クラスも、会社の壁を越えて同じテーブルで対等に議論を交わすことができるところだ。内野理事長はこの3年間で、こうしたメンバー間の交流をより深めることに成功したといえる。では、なぜここまで、幅広い層の人間が集まり、積極的な活動が展開できているのか。内野理事長は、こう断言する。

 「社長から一般社員まで、あるいはソフトベンダーの壁を越え、対等に議論できる。それは、MIJSには明確な目的があり、みんなが目的に向けた活動をしているからだ。パッケージの普及を通じて、受託ソフト開発中心のIT産業の構造を自分たちの手で変えるという『理念』や『思い』が一致しているからこそ、目標に向けて地道に活動ができる」

これからの3年間
新技術を取り込んで製品を強化
ワークショップは拡充へ

 MIJSの他の委員会はどんな活動を展開したのか。技術面ではMIJS創設当時に加盟各社の製品・サービスをデータ連携し、マスターを共通化する開発が動いていた。共通プラットフォーム上でSaaSなどを提供する壮大な計画。これらについて内野理事長はこう語る。

 「共通プラットフォーム化するとなると、その基盤を支える経費や人的問題が浮上してきた。この構想は断念したが、無駄ではなかった。現在、『製品技術強化委員会』では、クラウドやスマートデバイスなど、目の前にある課題解決に動いている。具体的には、Amazon、Google、Azureの各クラウド環境で実際にソフト開発し、各基盤の長所・短所を研究したり、スマートデバイスのアプリケーション開発も実施した。実際に手を動かして検証するところがMIJSのすごさだ」

 最大の懸案事項である「海外展開委員会」の活動についてはどうだったのか。この委員会は、中国を中心に東アジアに目を向けて具体策を講じてきた。2年前からは、BCNと共催して中国・上海市で日系ITベンダー・ユーザー企業と中国のローカルベンダー・企業を対象にしたセミナーを開催してきたが、内野理事長はこの動きについてこう話す。

 「海外で大きな利益を上げている国産ソフトベンダーは、今のところ見当たらない。外資系ベンダーに比べて、人的リソースや資金、マーケティング力で劣る。外資系ベンダーは、神経質なまでに自社ブランドに対する取り組みができている」

 海外展開に関していえば、これら課題は次の美濃・新理事長に引き継がれる。これまでの活動を踏まえ、美濃・新理事長はどんな舵取りをするのか。

 「うまく循環している物事については継承することを基本に据えている。活動内容を大きく変更することはない。課題として残っている海外展開やマーケティング、ビジネスモデル、新技術に対する取り組みをより一層深める。なかでも、2年前に全国巡回の第一弾として和歌山から始めた『ワークショップ』は、これまで、岐阜、大阪、沖縄で開催したが、開催数を増やすことも検討したい。ソフト産業は首都圏をはじめ一部地域に集中している。だが、私のこだわりとして、ソフトは人の頭と手でしかつくれない。工場があれば製品を製造できる他の製造業とは異なる。各地域にソフト産業が根づき、産業全体の底上げができれば日本は元気になる。そんな熱い思いを全国に届けたい。海外展開については、内野理事長が言う通り、MIJS加盟社のなかから成功モデルをつくりたい。それを参考に海外展開するソフトベンダーを多く輩出したい。そのためには、外資系ベンダーに対抗できるマーケティング力が重要だ。『プロダクトビジネス委員会』を中心に再度、研鑽を深める。相互に切磋琢磨しながら、一方でライバルとしても成長するための団体として、より活動を活発化する。キャッチフレーズは『世界にMIJSあり!』だ」

(左から)現理事長 ウイングアーク テクノロジーズ 内野弘幸 社長、新理事長 エイジア 美濃和男 社長

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