NECの東西地域SE会社に格差が広がっている。NECソフトは首都圏を中心とするITソリューション事業の回復と連動するかたちで業績が伸びる一方、大阪に本社を置くNECシステムテクノロジーは、地場の大手電機・電子メーカーの業績不振に象徴される関西経済の地盤沈下で、東京のNECソフトほどの伸びは難しい状況だ。しかし、スマートデバイスやセンサ技術を活用した新ビジネスへの挑戦は、むしろ西のNECシステムテクノロジーのほうが活発。SEの稼働率を引き上げて収益力を高めるNECソフトと、貪欲に新ビジネスに取り組むNECシステムテクノロジーの姿勢の違いが明確になっている。(安藤章司)
厳しい構造改革のただ中にあるNECだが、ITソリューションセグメントについては、「久々の快挙の年になりそうだ」(NECソフトの古道義成社長)と、回復に手応えを感じている。NECソフトの今期(2013年3月期)連結売上高は約1240億円と、3期連続で約6%増を達成できる見通し。SE会社である同社の売り上げがNEC全社の売り上げの伸び率よりも高いということは、ここ数年の内製化率が高まっていることを示しており、これがNECグループ全体のITソリューション事業の利益を押し上げる原動力の一つになっている。
一方で、大阪に本社を置き、主に西日本のシステム案件を担当しているNECシステムテクノロジーの昨年度売上高は前年度比1.7%増の788億円と、NECソフトの同約6%増とは差が出ている。関西系の大手電機・電子メーカーの業績不振が地元のすそ野産業全体へ悪影響を及ぼしており、「厳しい事業環境だ」(NECシステムテクノロジーの富山卓二社長)と嘆息する。同社は組み込みソフトに強いことで有名だが、かつて“組み込み三種の神器”といわれた従来型携帯電話、テレビに代表されるデジタル家電、カーナビなど車載機器のいずれもが不振であることも、事態を一段と厳しいものにしている。
しかし、ピンチはチャンスといわんばかりに、NECシステムテクノロジーは、果敢に新規ビジネスの立ち上げに取り組んでいる。例えば、Android OSのタブレット端末「LifeTouch」をはじめとするスマートデバイス活用型のビジネスでは、パソコン用の既存の業務アプリケーションをタブレット端末に呼び出して使えるようにしたり、半透明のキーボードやマウスをタブレットの画面に表示し、入力操作を格段に改善するなどの独自の取り組みを強化。今期のスマートデバイス活用型のビジネスは、関連するSIやサービスを含めて前年度比1.5倍ほどに伸びる見通しだ。これを受けて、2012年10月にはスマートデバイス・ソリューションセンターを開設するなど事業拡大に拍車をかける。
ほかにも、流通・小売業において大量の商品を瞬時に識別する画像認識技術や、見えにくい場所にある商品の有無を検知するセンシング技術を組み合わせるなどして在庫管理に役立てるといった、NECグループが強みとするキーテクノロジーを活用した新ビジネスへの取り組みを加速する。富山社長は、「逆境にあってもアイデア次第でビジネスを伸ばす余地は依然として大きい」と、闘志をみせる。
業績好調のNECソフトも、従来型携帯電話関連の事業規模はピーク時の約5分の1まで縮小しているが、その分、通信キャリアが積極的に投資を行っている無線高速通信網のLTE基地局関連のSIに人員をシフトするなどで、収益構造は大きく変わった。NECソフトはNEC本体のITサービスビジネスユニット(BU)に属するが、通信キャリア向けのキャリアネットワークBUや社会インフラソリューションBUなどとも連携を深めることで、「NECグループの強みである通信や社会インフラ関連ビジネスのSI案件獲得につなげたことも、業績を伸ばしている要因の一つ」(NECソフトの古道社長)と話す。
SEの稼働率が高水準で推移するNECソフトは、内製化の効果をさらに高めていくための生産革新やソフト開発、テスト工程の自動化に意欲的に取り組むのに対し、西のNECシステムテクノロジーは、新ビジネスの立ち上げに活路を見出す。スマートデバイス市場の火つけ役となったかつての米アップルがそうであったように、追い詰められた状況だからこそ、これまでにないイノベーションが生まれるケースは決して少なくない。
表層深層
東西の二大地域SE会社にもグローバル化の波は着実に押し寄せている。NECソフトは中国済南に、NECシステムテクノロジーは杭州にそれぞれオフショア開発拠点をもつが、NECソフトは2012年10月に、青島開発センターを新設。人件費高騰が著しい沿岸部に新拠点をあえて開設した背景には、中国地場のビジネス拡大を視野に入れたものにほかならない。NECソフトの古道義成社長は、「青島は単なるオフショア拠点にはならない」と、NECグループの中国での営業部門と密接に連携を図りながら地場ビジネスを拡大し、向こう3年で200人規模にしていく方針を示す。NECシステムテクノロジーは、杭州に流通・サービス業に強いSEチームを組織するなど、業種ノウハウで付加価値増に取り組む。
両社はグローバルでみれば、受注や生産性を競い合う、いい意味でのライバル関係にある。「西日本はアジア成長市場と距離的に近い関係にあり、グローバルITサポートのニーズは高い」(NECシステムテクノロジーの富山社長)とし、NECソフトは「グローバル関連ビジネスは向こう3年で倍増を目指す」(古道社長)と重点分野に位置づける。今期のグローバル関連ビジネスの売り上げは50億円ほどの見通しで、これをさらに100億円へと倍増を狙う。
NECの海外事業はハードウェアの販売比率が依然として高いとされ、東西SE会社の競争力を活用して海外におけるITソリューション事業を伸ばしていくことが求められている。