クラウドサービスは「積み上げ算だ」。サイバーソリューションズ社長の秋田健太郎は、「いまさらの参入は遅い」と、最近のクラウドブームを冷ややかな目でみている。クラウドコンピューティングという言葉が、まだバズワードに過ぎなかった2009年1月、主力のメールシステム「CYBERMAIL」をSaaS型で提供した。その当時でさえ、「参入が遅すぎた」と感じていた。だがフタを開けてみると、たった半年でサービス単体で黒字化を果たした。(取材・文/谷畑良胤)
「顧客を積み上げた量で、クラウドサービス市場で勝てる確率が高まる」。秋田は、そう言いたかったのだろう。「PCAクラウド」を早期に提供し、会計システムの領域で先鞭をつけたピー・シー・エー(PCA)社長の水谷学は、競合がクラウドサービスで参入しても、「いくらでも安くできる」(
『週刊BCN』2012年11月19日号で既報)と語っていたが、これと同じケースだ。
クラウドサービスの提供には、施設の先行投資がついて回る。投資を回収するまでは、単体として赤字が残る。だが、顧客が増えるごとにストックが積み上がる。黒字化してしまえば、競合が参入しても、新規投資が微少で済むので、価格競争で対抗できる──。この筋書きができているからこそ、両社には余裕がある。現段階でベースがゼロならば、クラウドサービスの開始には大きな参入障壁が待ち構えているというわけだ。
クラウドサービスを開始する前、秋田は「人件費を含めて、1年で単体黒字化する」と決めていた。「遅すぎた」という冒頭の発言は、「Google Apps」や、当時はまだ見えぬマイクロソフトの「Office 365」など、競合となる可能性のあるプレーヤーを視野に入れての発言だ。半年で実利を得るために「ニワトリとタマゴにたとえるなら、ニワトリになろう」(秋田)と、即断した。
短期決戦で成果を上げるために、市場リサーチなどの事前作業を省き、施設への投資を急いだ。ITベンチャーならではの身軽さがなせる業でもある。それでも、スタートが半年遅れた。大型投資はできない。そこで、「顧客のサイズに応じて、サイジングするかたちでクラウドサービスに必要な設備を順次増強する」(秋田)。既存のパッケージを使うユーザーがクラウドに移行するかどうかを見極め、ミニマムスタートで開始。顧客を増やしながら、増加分の“受け皿”を順次用意して、クラウドサービスの経験値を高める。このやり方で、メールシステムのクラウドで、一定の市場シェアを確保した。

サイバーソリューションズが2012年5月に開催したパートナー総会で、「No!Email vs Yes!Email 打倒G!激論バトル」と題し、パネルディスカッションを開いた。(写真右が同社の秋田健太郎社長、司会を務める『週刊BCN』の谷畑良胤編集長<当時>、サイボウズの青野慶久社長) 同社のクラウド型メールシステムの「CYBERMAIL Σ(サイバーメールシグマ)」などを提供し始めてから、顧客規模は、徐々に大型化。パッケージシステムは、国内500社以上(OEM供給を含めれば1万社程度)に導入されているが、平均すると従業員4000人程度の企業が中心だ。クラウドサービスでは、2万人規模の企業からの問い合わせが増えた。秋田いわく、「大手企業からの要望は、クラウドありきだ」。大企業は、パッケージとクラウドの両方を選択の俎上に載せて決めるやり方をとるという。
ただ、秋田は次なる戦略の必要性を感じ始めている。「CYBERMAIL Σ」は、パブリッククラウド型での提供だが、メールシステムだけに企業規模が大きくなるほど、情報漏えいの対策が厳格化する。そのため、プライベートクラウド型でのサービス形態にし、カスタマイズも含めシステムインテグレータ(SIer)経由での販売を増やす。[敬称略]