クラウドサービスベンダーの販売チャネル整備が、急ピッチで進んでいる。市場が本格的な拡大期に入り、競争が激化するなかでシェアを伸ばしていくには、販路開拓が欠かせない要素となる。クラウドサービスベンダーのカテゴライズや、それぞれのカテゴリに属するベンダーがどのような相関関係にあって、どのように販売チャネルを開拓しようとしているのかを俯瞰した。(文/安藤章司)
figure 1 「主要プレーヤー」を読む
ベンダーの得意分野で棲み分けが進む
主なクラウドサービスベンダーを分類すると、世界でサービスを展開するグローバル系と、国内メインのホスティング系、プロバイダ/通信系、SIer系、メーカー系の五つに分けられる。グローバル系は、世界7地域にデータセンター(DC)を展開し、パブリッククラウドサービスをリードするAmazon Web Services(AWS)を筆頭に、これを猛追するMicrosoftのWindows Azureなどが挙げられる。KVHやEquinixは従来型のホスティングも手がける一方、外資系だけあって、グローバルに対応したクラウドサービスに強みをもつ。対する国内ベンダーは、ソーシャルメディアや情報共有システムといった情報系システムを対象としたサービスと、ミッションクリティカルな基幹系システムを対象としたサービスとに大別できる。ホスティング系やプロバイダ/通信系は全般的に情報系システムを得意とし、SIer系やメーカー系は大規模な基幹業務システムをメインターゲットに位置づける傾向が強い。
主なクラウドサービスベンダーのカテゴリ
figure 2 「販社との関係」を読む
ビジネスパートナーを募る動きが活発化
クラウドサービスベンダーのうち、ユーザー企業に最も近いところに位置するSIer以外は、独自に販売チャネルを構築していく必要がある。メーカー系は系列販社を含め、これまでのコンピュータの販売チャネルがそのままクラウドサービスの販路になるケースが多いが、グローバル系、ホスティング系、プロバイダ/通信系は、クラウドサービスを販売するノウハウや営業力があるSIerなどのビジネスパートナーを新たに募る動きが活発化している。
売り手となるSIerは、ユーザー企業がどのようなクラウドサービスを求めているかに合わせてサービスラインアップを揃える。このため、ユーザー企業がグローバルサービスを必要としているのであればグローバル系ベンダーのビジネスパートナーとなり、何かあったときにすぐにDCに駆けつけることができるという安心感を求めるのであれば、国内ホスティング系やプロバイダ/通信系のサービスを担ぐパターンが増えるものとみられる。
クラウドサービスベンダーと販売パートナーの位置づけ
figure 3 「Microsoft」を読む
パートナー重視の施策で遅れを取り戻す
Microsoftのクラウドサービスは、AWSなど先行ベンダーを追い上げるポジションにある。Microsoftは、得意とするビジネスパートナー戦略に力を入れることで遅れを取り戻す考えだ。同社が直営するパブリッククラウドサービスの「Windows Azure」とは別に、Microsoftが開発してきたクラウド技術をビジネスパートナーに提供し、パートナーがクラウドサービスを提供する「パートナークラウド」を積極的に展開する。
パートナークラウドでは、例えば富士通に「Windows Azure」の技術を供与。富士通は独自に「FGCP/A5Powered by Windows Azure」サービスを開発している。また、プライベートクラウド管理ソフトのパッケージスイート「System Center 2012」を広くDC事業者やSIerに提供することで、“Windows Azureライク”なサービスをビジネスパートナー自身が開発できる環境整備を急ピッチで進めている。仮想化環境やシステム構成管理や稼働監視といったクラウド管理に必要なソフトウェア群をパッケージスイート化するのは、今春製品化した「System Center 2012」が初めてだ。DC事業者がこのスイートで構築したクラウド環境を、販売パートナーであるSIerが売るという販売モデルが想定できる。
日本マイクロソフトのクラウド関連サービスの主要販売チャネル
figure 4 「販売モデル」を読む
複数形態の販売チャネルを並行して開拓
売り手であるSIer系や、既存の販売チャネルを自身がもっているメーカー系以外のクラウドサービスベンダーは、さまざまな形態の販売チャネルの整備を進めている。ニフティクラウドは、販売パートナーが付加価値をつけて販売するモデルやOEM(相手先のブランドによる供給)方式、一般の販売パートナー経由での販売など複数形態を展開。直近ではプロバイダ事業などを手がけるケイ・オプティコムと組んで付加価値販売型の「ニフティクラウド for KOPT」を始めたり、同じくプロバイダのソネットエンタテインメント向けにOEM方式の「So-net クラウド」をスタートさせている。
ビットアイルは、先述のMicrosoft「System Center 2012」を国内で最も早く採用。Windows Server環境に最適化した「CLOUD CENTER for Windows」サービスを始めている。今回の「CLOUD CENTER for Windows」の投入によって、Windows環境に精通した多くのビジネスパートナーに集まってもらい、販売チャネルの拡充に弾みをつける。同社はSIerやISVに向けた総合的なパートナー支援制度「ビットアイルクラウドパートナープログラム」を整備するなど、チャネル開拓に余念がない。
クラウドサービスベンダーの販売チャネルモデルの一例