日本貿易振興機構(JETRO)が実施した2012年3月時点の調査によれば、JETRO加盟企業のうち、海外拠点をもつ企業は51.5%に達している。海外拠点所在地の上位3国は、多い順に中国、米国、タイとなっている。今年に入って、タイへの工場や事業所の移設や新規開設がさらに増加しているようだ。現地システムインテグレータ(SIer)の話を総合すると、タイに事業所を置く日系企業はおよそ7000社あるといわれている。洪水の復旧が本格化するにつれてIT需要も高まっている。そのなかで、日本人が1991年10月に創業したMaterial Automation Thailand(MAT)は、現地日系企業のITを支える代表的なSIerとして急成長を遂げている。(取材・文/谷畑良胤)
在庫管理・原価管理を強化する動き

Material Automation
Thailand(MAT)
青木正敏 社長 MATは本社をタイ・バンコク、支社をベトナム・ハノイ、支店をタイのシラチャ、コラート、プラチンブリに置いている。同社は、日系企業の現地法人ではなく、タイに本社を置く純粋な現地企業だ。東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G、石田壽典社長)のタイ現地法人である東洋ビジネスエンジニアリング・タイランドは、MATと合弁で設立された。
MATの従業員は全体で170人。職種別の構成でみると、営業と開発の担当者が半々。ほとんどがタイ人で、日本人は23人だけだ。2012年度(12年12月期)の業績は、製造業を中心とする日系企業の進出が増えた影響で、売上高が前年度比150%以上と急成長している。
B-EN-Gの製品である生産管理・販売管理・原価管理システムを構築する製造業向けERP(統合基幹業務システム)の「MCFrame」と、海外拠点向け会計ERP(統合基幹業務システム)パッケージ「A.S.I.A.(エイジア)GP」の販売を開始したのは5年ほど前だ。最近は工場進出が相次いでいる。こうした動きが追い風となって、「MCFrame」と「A.S.I.A. GP」の引き合いが増えている。
MATによれば、タイに進出していた大手製造業でさえ、生産関係の処理をExcelで処理しているケースが少なくない。だが、タイに置く工場の重要度が増し、「一昨年の洪水後は復旧が進み、各社でERPを含めITインフラの投資を増やしてきている」(青木正敏社長)という。そんな事情で、B-EN-Gの両製品に対する引き合いは、増える一方だ。
長期的なサポートを求める傾向

サイアム・
オリエント・
エレクトリック(SOE)
小平幸彦
マネージング
ディレクター 独立系SIerでは、タイ国内で唯一、ITインフラまわりをワンストップで対応できるのがMATだ。最近では、タイの洪水被害が収束しはじめた頃から、B-EN-Gなどのソフトウェアだけでなく、サーバーなどインフラまわりの案件も増えている。
B-EN-Gの両製品に関していえば、「日本本社、中国を含めたアジア拠点などを結んで業務を標準化する動きが活発になって、案件が生まれている」(青木社長)ようだ。長期にわたってシステムを変更する可能性があることから、「長期的なサポートを求めてくる顧客が多くなっている」とも青木社長は言う。ワンストップで対応できないSIerは、顧客の要求に100%応えることができないほど、現地日系企業のITが高度化している。このためMATでも、業務知識が豊富なコンサルタントのような人材の養成が急務と捉えている。
そんなMATが支援した一例が、工業用端子台などを主力とする春日電機の製品を生産するサイアム・オリエント・エレクトリック(SOE、春日電機の子会社)だ。
B-EN-Gの両製品を要件定義から約9か月で本稼働にこぎ着けた。SOEの小平幸彦・マネージングディレクターは「導入コストが安く完成度が高いという点に加え、タイ現地で継続してサポートが受けられることで、B-EN-Gの製品をMATから導入した」と話す。SOEは、現在、親会社に頼らずにタイからASEAN地域への販売拡大を狙っている。各拠点で両製品が使えるよう、クラウド化を検討しているところだ。
中国に進出した日系企業がそうであるように、タイ現地法人のトップマネジメント層にタイ人が就き、業務全般を動かす可能性は高い。ITシステムを検討して導入を決める担当者が日本人ではなくなり、共通言語がタイ語になることも視野に入れておく必要がある。
タイに進出する日系企業が増えるにしたがって、日本の大手SIerや通信キャリアの進出が相次いでいる。タイにSIerが進出する際は、現地の法制度や税制、現地拠点を設置する際の投資優遇制度(The Board of Investment of Thailand=BOI)などを習得するとともに、日本の本社とも連携して日系企業のニーズを踏まえた人員・開発体制を組む必要がある。