調査会社のインテージは、インターネット調査システムをクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」へ移行した。システム移行を担当したのは、クラウドインテグレータで、AWSのアドバンストコンサルティングパートナーでもあるサーバーワークスだ。移行規模は仮想サーバー(VM)ベースで最大およそ230台。クラウドの特性を生かしたさまざまな新規性の高い取り組みに挑戦しつつ、大規模VMの移行を実質数か月という短期間で成し遂げた。
ユーザー企業:インテージ
各種調査を事業の柱としている。同社の2013年3月期の連結売上高は前年度比8.9%増の399億円、営業利益は14.7%増の33億円。インターネット調査におけるスマートフォン対応に力を入れている。
サービス提供会社:サーバーワークス
サービス名:Amazon Web Services(AWS)移行支援
【課題と決断】アクセスのピークが読みにくいスマートフォン
インテージは、近年、爆発的に普及した「スマートフォンから気軽にアンケートに回答できる仕組みづくりが急務だ」(饗庭忍・テクノロジー本部副本部長)と捉えていた。同社は、都内にデータセンター(DC)を自社で運営しているが、「最短期間でスマートフォン対応システムを立ち上げるには、外部のパブリッククラウドを使うのが合理的」(酒井和子・テクノロジー本部副本部長)と、早い段階でパブリッククラウドの活用、そのなかでもAWSに目をつけていた。
インテージは、2007年頃から都内の自社DC内でサーバー仮想化を進めて、クラウドの中核技術であるVM化による有効性を確認している。また、スマートフォンは、従来のパソコンや表現力の乏しいケータイとは異なり、パソコンに匹敵する操作性と表現力をもつと同時に、時間や場所に制約されない特性がある。
システム運営側からみれば、「いつ、どれくらいのアクセスが来るのかが読みにくく、アンケートに対する反応速度も速い」(渡利直幸・開発2部第2グループマネージャー)と、ピーク時対応が難しいこともパブリッククラウドへの移行を後押しした。そこでAWS側に依頼をかけたところ、3社のAWSビジネスパートナーを紹介された。
このときインテージは既存の大手SIerではなく、クラウドに特化したクラウドインテグレータ(CIer)を紹介してほしいと注文をつけた。調査システムはすでにでき上がったものがあるので、システム構築(SI)よりも、AWSへの移行と運用に長けたCIerのノウハウを求めていたからだ。

写真左からサーバーワークスの舘岡守・グループ長代理、インテージの酒井和子・テクノロジー本部副本部長、渡利直幸・第2グループマネージャー、饗庭忍・テクノロジー本部副本部長、サーバーワークスの大石良代表取締役【解決】仮想サーバー約230台をAWS上で稼働
AWSから紹介されたCIer3社のうち1社はインテージのライバル会社のシステム構築を受注していたことから除外し、もう1社は「納期が短すぎる」と辞退されてしまった。こうしたなかで「当社なら問題なくやれる」と手を挙げたのが、AWSのアドバンストコンサルティングパートナーであるサーバーワークスの大石良代表取締役だった。
スマートフォン対応のアンケートシステムに使う仮想サーバー数は最大でざっと230台。これを物理サーバーで揃えようとすればコストと手間がかかるので、一般的にはサーバーを統合して、1台のサーバーに複数の機能をもたせて物理台数を減らす。しかし、VMは物理的な制約がないため、「できるだけ1VM1機能に絞り、もし障害が起きてもほかに波及しないよう、数で勝負する」(サーバーワークスの舘岡守・テクニカルグループ長代理)と、クラウドならではのダメージコントロール手法で臨んだ。
とはいえ、あまりに数が多すぎて、移行途中に「あれ、この213番目のVMは何に使うんだったっけ?」と混乱することもしばしばだったと舘岡氏は苦笑いする。こうした混乱と課題を解決するため、サーバーワークスでは、「VM番付表」なるものを独自に作成している。この「VM番付表」をもとに処理負荷が大きい部分には処理パワーのある「横綱級」のVMを配置し、繁閑の差が大きいアンケート受付部分には、VMあたりのパワーは低いが数を揃えられる「小結・前頭級」を充てるというように、効率的な配置をしている。
「VM番付表」で管理することで、2012年9月に移行プロジェクトをスタートさせて、その年の12月にはテスト稼働までこぎ着けた。その後、数か月の本番準拠の試験運転を経て、2013年4月、当初の予定通り、AWS上でスマートフォン完全対応のインターネット調査システムを稼働させることに成功した。(安藤章司)
3つのpoint
スピード重視でパブリッククラウドを活用
スマートフォンの普及でユーザー環境が激変
クラウドインテグレータを指名