IT製品・サービスの大手流通卸、シネックスインフォテック(松本芳武社長)は、新たなユーザ(パートナー)会「Varnex Japan(バーネックス・ジャパン)」を組織する。米本社のSYNNEXグループが米国とカナダで展開するプログラムを日本の実状に合わせて導入。シネックスインフォテックをメイン取引先として、地域特化で事業展開する販売パートナーを募り、9月12日の総会では30社程度が参加して正式スタートする。同社からはビジネス、マーケティング、人材育成を支援し、販売会社同士の接点を増やすことによって利益の最大化を狙う。地域に根を張る販社と連携を密にし、物量や人員などで勝る競合の大手流通卸を追撃する。(谷畑良胤)
シネックスインフォテックによると、「Varnex Japan」は「シネックスインフォテックをメインの取引先とし、全国各地域に根づいたビジネスを展開する販売パートナーを募って組織したユーザ会」。この組織に入るには、将来的に同社からの総購入額(仕入額)を全体の50%以上にするという条件がある。2013年度(13年11月期)は30社程度からスタートし、将来的に営業エリアが競合しない販社を募り、60社程度に増やす。来年度以降には、5社程度の幹事会社を置き、シネックスが提供する支援策などを地場に浸透させるほか、「Varnex Japan」参加販社の意見を集約し、シネックスや取扱品メーカーなどへ要望を出す。
シネックスは、「Varnex Japan」の参加販社に対して会員専用セールスや見積優先サービスなど「基本サービス」に加え、ビジネス、マーケティング、人材育成の3カテゴリで支援策を講じる。松本社長によれば「各販社専用の特典プログラムを作成するセミオーダー式のプログラムだ。外資系企業の強みを生かして、米国などのメーカーと連携して付加価値製品をいち早く提供できる」という。販社の多くは、新人教育に手が回らず、新規市場開拓に悩んでいる。また、取引量が少ない場合は、他の大手流通卸経由で製品・サービスを仕入れる際に、見積依頼などで待たされる不都合な待遇を余儀なくされている。シネックスは、これら販社の悩みごとを解決し、顧客接点を増やすことで、販社ビジネスの拡大を支援できるとしている。

シネックスインフォテックの松本芳武社長は新組織で新たな市場開拓に自信をみせる シネックスが提供する支援策として、具体的には人材育成では名刺の差し出し方や電話対応など基本的な研修からSWOT分析やロールプレイングなどを用いたセールス研修、見込客の取り込みや次のアクションに向けたテレセールスなどを行う。また、日本ヒューレット・パッカードやレノボ・ジャパン、日本マイクロソフトなど外資系メーカーやOKIデータなどと連携し、「ベンダーオリジナルプログラム」と題した製品やセールスなどに関連する研修も提供する。
このほか、ビジネス支援として従来の検索・発注システム「BEACON(ビーコン)」を改築して「ECNex」を新たに設け、会員販社専用サイトや販社同士の交流SNS、メルマガなどを提供するだけでなく、特別価格や早期見積り、サーバー案件ではシネックスの専門技術者の無料同行を実施するなど、営業上で有利に働く特典サービスを提供する。マーケティング支援では、シネックス、メーカー、販社で技術交流や勉強会を実施するほか、ネット上でのセールス支援や地域に応じた共同セミナーなどを開催する。
今後は従来強化してきたパソコンやサーバー、プリンタなどの機器に加え、マイクロソフトやアドビ システムズなどのクラウドサービスやスマートデバイスに関連した品揃えを増やしていく。松本社長は、「マイクロソフトのOffice 365やアドビ システムズのCreative Cloudなど、世界的にみればクラウドサービスのトップディストリビュータだ」とし、世界展開する同社のノウハウを生かして、日本国内にクラウドサービスを多く投入する。
参加表明した販社からは「新人教育はできているが、シネックス側と育てたい人材をすり合わせて一緒に育成することに魅力を感じる」とか、「合同セミナーの開催や、システムエンジニアや営業職に対するトレーニング支援は助かる」などと好意的な意見が出ている。シネックスでは、各販社のこうした意見を踏まえ、セミオーダー式のプログラムを個々に提供する。
表層深層
シネックスは、2010年12月に前身である丸紅子会社の丸紅インフォテックから米シネックスグループが事業を譲り受けて、シネックス傘下で日本国内事業の立て直しを図ってきた。譲渡時に就任した米本社社長のロバート・ファン社長(現会長)が陣頭指揮を執り、国内の物流・倉庫や取扱製品・サービスの組み替えをはじめ、サプライチェーン全体をシネックスグループの方式に改める改革を断行してきた。
「Varnex Japan」は、この戦略の最終仕上げとして、販社網を再構築するために、米国とカナダで成功しているモデルを国内に投入。同社は、競合のダイワボウ情報システム(DIS)などに比べ、法人向けで遅れをとっていた。
物量と営業人員などに勝るDISなどに対抗するためには、製品・サービスのラインアップを増やして卸し先を開拓する一方、サプライチェーンを改革することで固定費を削減する必要があった。ただ、物量で競合に対抗するには時間を要するので、米国などで成功しているモデルを使って販売パートナー同士や販社と顧客の接点を増やし、より付加価値の高い製品・サービスを、特定のエリアで地域特有の状況に詳しい販社と共に販売する方向にシフトした。販社の営業上の悩みを解決し、大手流通卸に対する不満を的確に吸収すれば、市場を切り開く可能性は大きい。(谷畑良胤)