大手ディストリビュータであるシネックスインフォテック(シネックスインフォ、松本芳武社長&CEO)の事業改革が進んでいる。米シネックス創業者で前社長のロバート・ファン会長と日本ヒューレット・パッカード(HP)出身の松本社長の経営体制下で、営業担当者の提案力強化やモバイル営業化に着手。企業向け事業を伸ばし、2012年度に2ケタ成長を目指す。(信澤健太)
高付加価値サービスで勝負
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| 松本芳武社長&CEO |
大手ディストリビュータであるシネックスインフォテックの社長交代は、国内では異色のケースとして話題を呼んだ。日本ヒューレット・パッカード(HP)のようなメーカー出身者が大手ディストリビュータの社長に就任するのは初のケースだからである。
米国でシネックスが取り扱っている製品の3分の1程度はHP製品。シネックスによるHPとの関係強化が社長就任劇の背景にある。ただし、それだけではない重要なポイントがある。
ファン会長の改革を引き継いだ松本社長は、日本HPでエンタープライズ・ストレージサーバー事業統括執行役員やエンタープライズビジネス営業ストラテジック・プロジェクト担当を務めた人物だ。松本社長は、「当社は、コンシューマ製品ビジネスは非常によくやっているが、企業向けサーバーやストレージ、ネットワークビジネスはまだまだ大きく伸ばす余地がある。ここで、前職での実績を役立てることができると思っている。パートナーもそこに期待しているのではないか」と説明。手薄だった企業向け事業のてこ入れに乗り出したことを明らかにした。具体的には、専門性を備えた営業活動の展開や米国で提供しているサービスの採用を進めている。
力を注いでいる人材の教育・研修は、その一環だ。営業の提案能力や製品知識の向上を目指す。松本社長は、「従来のディストリビューションはPick/Pack/Ship、つまり棚から製品をピックアップして梱包し、出荷するのが主な業務だという印象がある。それだけにとどまらず、例えば、このサーバーとこのストレージの組み合わせで、さらにこのソフトを搭載して仮想化技術を使えば最適である、といった提案ができるように、全社的に専門性を身につけるようにしたい」と構想を語る。
米国では、マネージド・プリントサービスや保守契約更新の代行などのビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)サービス、ヘルスケア市場向けソリューション公共市場などの特定業界向けソリューションなどを提供しており、日本でも付加価値サービスとしてそれらの一部を展開する意向だ。
あわせて、モバイル営業化を推進する。「地方営業では、なるべく客先に滞在する時間を長くするために、タッチダウンオフィスは残すけれども、机はなしにする」(松本社長)。12月5日、インサイドセールスセンターを本社内に新設し、見積もり業務と受注業務はすべて東京に集約した。モバイル営業化を進めることで営業担当者の訪問件数を増やし、一部業務の集約でコストメリットを創出。そのメリットをパートナーに還元していく。
このほか、シネックスとファン会長が出資する投資会社、グローバルBPOが買収したスリープログループとの連携に含みをもたせている。スリープロは、コールセンターやフィールドインストレーションなどのサービスを提供している企業だ。松本社長は、「スリープロとは直接のつながりがなく、親会社のシネックスが投資している関係にある。それに、スリープロは上場していてやや立場は異なるが、親が一緒。ベンダーから相談があったときに、お互いに連携しながら提案する機会があるのは確かだ」と説明する。
2010年度(10年11月期)のシネックスの売上高は86億1414万1000米ドル(連結)だった。シネックスインフォの同年度の売上高は連結に含まれず、丸紅インフォテックとして601億2400万円(8か月決算)だった。以降の四半期決算で連結対象となっている。
12年度は、一連の改革を推し進め、2ケタ成長を目指す。松本社長は、「時間軸でいうと、まずはファン会長が進めてきた改革を定着させて、早い時期に成果を出したい。物流の内製化は大きな効果が現れていて、今はERP(統合基幹業務システム)の導入を進めている。損益を明確化するレポーティングシステムはすでに使い始めている」と語る。
ファン会長が公言していた年商2000億円の目標については、「日本の市場規模からすれば、北米の2割くらいは稼いでもまったく不思議ではない。であれば、ファン会長のいう2000億円は、現状のシネックスインフォからすれば、数年の間に達成できるのではないか」(松本社長)という。
松本社長は約30年間HPに身を置いていたことから、ベンダーの戦略や施策を理解しやすい立場にあるといえる。パートナーであるベンダーや販売店にとって、強力な援軍となる可能性がある。
表層深層
2011年8月、ロバート・ファン氏が社長の座を日本HP出身の松本芳武氏に譲り、自身は代表権のある会長に就いた。メーカー出身者が大手ディストリビュータを率いることになるのは初めてのことだ。松本社長は、「迷いがなかったといえば嘘になる。決め手は、米国のCEOに会って、非常に信頼できる方だと思ったこと」だと明かす。「ベンダーの戦略や施策を理解して、リセラーやSIerに商材を届けられる」ベンダー出身者ならではの経験を生かせるという。
ファン氏の主な実績は、オペレーションコストの削減だった。松本社長は、ファン氏の改革を引き継ぎながら専門性を身につけた営業担当者の育成やモバイル営業化などに着手した。米国のノウハウやサービスも積極的に採用していく意向だ。
社長就任当時は、パートナーから期待と懸念の入り交じった意見が寄せられたという。米シネックスのベストプラクティスを日本に持ち込んでくるという期待と、短期間で取引を整理するのではないかという懸念である。「短期的には社内のインフラ体制をきちんと構築して、まず足場を固めることを優先したうえで、シネックスの特色を打ち出す活動をしていくことを説明した」。パートナーであるベンダーと販売店との関係重視も強調したそうだ。
ある大手サーバーベンダーの幹部は、「正直にいえば、取扱い量はさほど大きくないので(松本社長就任の)影響はない」と話すが、企業向け事業の本格化は緒についたばかり。真価が問われるのはこれからだろう。