システム開発のスピードは、経営のスピードと切っても切り離せない──。今年8月、ITベンダー13社で設立した「超高速開発コミュニティ」に参画したインフォテリア社長の平野洋一郎は、設立に際してこのような論旨を寄稿した。このコミュニティは、ユーザー企業側の開発スタイルを根本から変えるために、競合同士でチームを組んだ。開発のスピード化の問題は、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)の経営にも降りかかる。最先端の技術を使い、「超高速」で製品を世に出し続ける重要性が高まっているからだ。(取材・文/谷畑良胤)
「超高速開発コミュニティ」の設立趣旨には、もっと開発ツールを使ってほしい、という業界の思惑が透けてみえる。しかし、「ソフト開発の自動生成やノンプログラミング開発というアプローチが提案されてきたが、主流になることはなかった」──コニュニティに参加した沖縄県にあるジャスミンソフト社長の贄良則は、自社ブログ「ジャスミンソフト日記」でそう記している。人月単価で発注し、労働集約型のスクラッチ(手組み)でソフト開発したほうが、ユーザー企業側も人員を維持でき、ITベンダー側は多額の売り上げを得ることができるという状況がある。
「銀の弾などない」。ソフト工学者のフレデリック・ブルックス氏が1986年に著した論文「Silver Bullet」を日本語にしたものだ。魔法のようにすぐ役立ってプログラムの生産性を倍増させる技術や“特効薬”は、今後10年現れない、という趣旨だ。ところが、今はアジャイル開発のような、生産性を高める技術が登場した。だが、この開発手法を使えば、ユーザー企業の開発者は職を失い、ITベンダーの単価下落を招く。
ユーザー企業側でカスタマイズ・ゼロのソフトをつくることは、不可能ではないにしてもかなり難しい。そのカスタマイズ部分を超高速開発ツールが省力化してくれる。一方、パッケージソフトを開発するISVは、よりカスタマイズを伴わない汎用的なソフトを開発する時代に突入した。キーワードはクラウドコンピューティングだ。ライセンス方式でオンプレミスで使われる時代から、サービス課金でソフトが使われるようになる。ユーザー企業では、カスタマイズするなら、その部分を別のサービスで補うようになるからだ。
インフォテリア社長の平野は、この連載でこう苦言を呈している。「多くのISVは、クラウドに対して真剣ではない」。世の中の流れに敏感になり、次の手を迅速に打つこと。流行に目を背ければ、身を滅ぼすというわけだ。従来のように数年をかけてソフトを開発し、製品発売するという手法では、競合他社に勝てなくなる。開発期間中に世界で同じアイデアの製品が出てきてしまうからだ。開発速度を「超高速」にして、製品販売は仮説検証のためにやるぐらいの覚悟で仮説検証を繰り返してこそ、ユーザー企業に使われるサービスが生まれる。

国内IT業界を活性化するための試行錯誤は続く(本文と写真は関係ありません) この連載では、中堅中小の国内ISVを中心に「ISVの勝ち残り」を検証してきた。そこからみえてきたのは、(1)参入障壁の高い領域に存在していることと障壁の高い領域に自社製品をもっていくこと(2)海外展開を視野にマーケット戦略を打ち出すこと(3)先端技術を使うことと開発速度を高めること──。仮に参入障壁の低い領域で製品・サービスを展開していた場合は、技術力やビジネスモデルで競合他社と勝負する。その際、勝負する相手は米国を含めた世界のISVだということだ。
国内IT市場は成熟期に入ったといわれる。しかし、見渡せばITを利活用できていない領域はまだ多いし、新しい使い方も出てきた。世界で勝っている国内ISVはまだ少ない。国内で市場を創出して、その実績を海外で生かすエコシステムが早く築かれることを願う。[敬称略](おわり)