乳酸菌やビフィズス菌などを使ったプロバイオティクス製品で実績をもつ東亜薬品工業。群馬県館林市に製造拠点を置く、中堅の製薬会社だ。従来、販売管理は会計を含むERPで行っていたが、生産管理、原価管理のシステムとはまったくリンクしておらず、業務の現場のデータを経営に生かすことができるシステムにはなっていなかった。同社は、製薬メーカーとしての競争力向上に役立つ生産基幹システムを整備する目的で、新たなIT投資に踏み切った。
ユーザー企業:東亜薬品工業
生菌整腸剤の「ビオスリーH」シリーズのほか、子宮収縮抑制剤などの医療用医薬品、さらには動物用の医薬品、混合飼料も手がける製薬会社。本社は東京、製造拠点は群馬県館林市。社員数は123人。
システム提供会社:インテック
システム名:製薬業向け生産・販売管理システム、原価管理システム
【課題】リンクしない複数のシステムが乱立
「生産まわりのシステムの刷新を検討しよう」という声が経営陣から上がったのは、2009年秋のことだった。
従来のシステムは、生産計画や購買計画、試験計画、在庫情報、品質情報などの生産管理情報が一元化されておらず、販売管理はERPで対応し、原価管理はスクラッチ開発したシステムを導入しているという状況で、サイロ化した複数のシステムが乱立していた。それぞれのデータはリンクしていないので、計画変更への対応がしづらく、原材料の発注漏れなどの原因になっていた。さらに、原価管理の精度が低く、データをコストダウンのために活用することもできていなかった。
また、業務効率の観点からも、「販売管理と原価管理で、同じデータを両方のシステムに別々に入力しなければならないなどの不便があって、現場からも改善を望む声が上がっていた」と、経営管理部システム管理課の山科健一係長は振り返る。
会社の事情もあった。プロバイオティクスのニーズの高まりに対応して、2013年までに館林工場敷地内に新培養工場を建設する方針が固まっていて、経営戦略上、ITシステムへの大規模な投資はその前にやっておいたほうがいいと判断。すぐに新システム選定のための調査・検討を開始した。山中竹博経営管理部長は、「生産と販売が一体になっているシステムを導入して課題を解決し、最終的には、製造業として発展するための基盤となるようなシステムインフラを構築しようという構想だった」と話す。
調査・選定を開始してからおよそ1年後の2010年秋、インテックが提案した、東洋ビジネスエンジニアリングの製薬業向け生産・販売管理システム「MCFrame/Pharma」と原価管理システム「MCFrame CS 原価管理」の採用を決めた。「MCFrame/Pharma」にはインテックの製薬ビジネステンプレートを、「MCFrame CS 原価管理」には同じくインテックの帳票ツール「スグレポ」を付加した。

左から、山科健一・東亜薬品工業経営管理部システム管理課係長、永島洋行・同経営管理部生産管理課長、山中竹博・同経営管理部長、インテックビジネスソリューション事業本部I-MCF事業推進部・吉田宗司氏【決断と解決】医薬業界での実績・ノウハウを評価
東亜薬品工業が採用の決め手としたのは、「MCFrame」のパッケージとしての実績や豊富な機能と、製薬業に精通したインテックのSI技術の高さだった。山科係長は、「『MCFrame』は費目別、工程別に細かく原価分析できることが決定打になった」と説明する。
また、インテックは、独自のテンプレートによって各種の製造業向け機能を「MCFrame/Pharma」に盛り込んだほか、「スグレポ」を導入することで、原価管理システムに集約されたデータを、バンドル済みの帳票テンプレートを使って手軽に分析できるようにした。さらに、生産計画・生産状況の調整・確認用のインターフェースとして、ガントチャートツールを作成してビジュアルな操作を実現したほか、ハンディターミナルやモバイルプリンタも生産管理システムと連携させ、製造現場の業務改善を提案した。インテックのビジネスソリューション事業本部I-MCF事業推進部の吉田宗司氏は、「インテックにとっても大きなチャレンジだったが、カスタマイズ性にすぐれた『MCFrame』の長所と、医薬業界で培った当社の提案力を生かすことができた」と自負する。
2012年4月に新たなシステムが本格稼働し、すでに明確な効果が現れている。生産現場での業務効率化の底上げが図られたことはもちろん、生産ロットごとの原料資材の必要量が自動計算され、発注までつながるようになったため、発注漏れがなくなった。また、原価管理の精度も従来に比べて大幅に向上し、その分析結果も多様なかたちで表現できるようになった。経営管理部生産管理課の永島洋行課長は、「生産管理、原価管理システムからいろいろな情報を取得できるようになり、経営陣からもレポートの要求が増えた」と手応えを語っている。(本多和幸)
3つのpoint
・パッケージシステムの完成度
・医薬業界に精通したSIの技術力
・ユーザーニーズの隙間を埋める商材