メーカーならではのソリューション展開で勝負 大手3社は市場開拓に意欲
前項では、中国で奮闘している日本のSIerやISVの売れ筋商材にスポットを当てた。では、ハードやソフトを開発・販売し、包括的なソリューション展開ができる大手総合ITメーカーは、どのような商材に力を入れて、中国ビジネスの拡大を図っているのか。この項では、日立、NEC、富士通の中国での直近の取り組みを紹介する。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
●【日立中国】
金融機関向けサービスが有望商材 信頼関係を強みに 
日立中国
金融系統部
波多野敬司
総経理 1950年代にソビエト連邦が建設を支援した建物で、大型イベントの開催に使われる北京展覧館。9月上旬、金融機関向けのハードウェアやサービスを披露する「2013中国国際金融展」がここを会場として開かれた。
毎年、この展示会に出展し、今年は入り口近くの大きなブースで存在感をアピールした日立中国は、金融機関の業務を効率化するソリューションの事業拡大に取り組んでいる。同社はここ数年、入出金ができるATMや現金の引き出し機能のみを備えたキャッシュディスペンサー(CD)の展開に力を入れている。2012年、ATMとCDを合わせて2万5000台を出荷し、高いシェアを獲得している。
日立中国はハードウェア提供の実績を踏まえて、ATMに紐づけるかたちで、周辺サービスのポートフォリオを拡充してきた。スマートフォンやタブレットを使って遠隔からATMの稼働率や故障発生などを把握したり、ATM使用の過去データを分析して、どこのATMに何枚の紙幣を入れるべきかを予測したりするものだ。管理作業の改善につながる幅広いメニューを揃えている。
「2013中国国際金融展」のブース内に、各サービスを丁寧に説明し、デモも行うVIPルームを設けて、銀行の幹部たちに日立の商材を訴求した。

9月上旬、北京展覧館で開かれた「2013中国国際金融展」に来場者が殺到。4日間の開催期間に、中国全土から10万人以上が集まった 中国の経済が成長し、中国四大銀行と呼ばれる中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行を中心に、金融機関は活発にビジネスを伸ばしている。しかしその一方で、ATMの管理など、日常の業務を手作業で行うことがまだ多い。そんななかにあって、手作業を減らしてコストを下げるとともに、正確性を高めることが金融機関にとっての喫緊の課題になっている。

日立は入り口近くの見やすい所にブースを設置。ATMの最新機種など、金融機関向けのIT商材をアピールした これは、ITベンダーにとって大きな商機にみえるが、実は市場開拓はそう簡単ではない。なぜなら、四大銀行は、膨大な人数のエンジニアを集めたシステム部門を自社で抱えていて、システムを自前で開発する考えが深く根づいているからだ。そのような状況にあって、日立中国が武器にしようとしているのは、ハードウェアの提供を通じて、銀行と信頼関係を築いてきた実績である。
日立中国 金融系統部の波多野敬司・総経理は、「銀行へのサービス提案にあたって欠かせないのは、構築・運用に強いソリューションパートナーの獲得だ」と考えている。ITソリューションの展開を手がける情報・通信システム部門との連携を強化し、情報・通信システム部門の既存パートナーに、金融機関向けサービスを取り扱ってもらおうと交渉を進めている。
中国には、十数社のATMベンダーが存在しており、日立中国にとっては、サービス提供で付加価値をつけて差異化を図ることが急務だ。日立の技術力を活用したサービスを商材にして、自前開発という高いハードルを越え、2015年3月期までに、金融機関向けサービス展開の売り上げとして6億元(約100億円)を目指している。
●【NEC中国】
自動車メーカーにマーケティングツールを提供 北京の市政府に展開中 
NEC中国
日下清文
総裁 NEC中国が本社を置くのは、大学や研究所がひしめく北京の北部だ。現地の大学と密に連携し、中国独特のニーズに応えようと、研究活動を行っている。「こうして手を振ると、後ろの扉が開きます」。NEC中国の日下清文総裁は、センサやディスプレイを使って、自動車をバーチャルで体感することができるソリューションを案内してくれた。
この仕組みは、現物を置けない市街地のショールームで車の特徴をリアルに伝えるツールとして、自動車メーカーに提供している。アウディやベンツなど、海外の高級車メーカーが中国市場の開拓に拍車をかけているなかにあって、提案に確かな手応えを感じているという。成長市場の中国でカギを握るのは、派手さを好む中国の消費者に自社製品をゴージャスにアピールできるマーケティングツールだ。「自動車を体感できる仕組みを、ユーザー企業の情報システム部門ではなく、マーケティング部門に提案し、受注につなげている」(日下総裁)という。
映像系のハードウェアを活用したソリューションのほかに、NEC中国が注力商材とするのは、ICT(情報通信技術)で都市を管理するスマートシティだ。昼間に北京市内をタクシーで移動すると、渋滞に巻き込まれる確率が高い。タクシーの窓の向こうにそびえ立つ巨大なオフィスビルを見れば、照明や空調にいかにたくさんのエネルギーを要するかが想像できる。交通やエネルギー供給の効率化は、中国の各都市の大きな課題だ。
NEC中国は現在、北京の市政府にスマートシティの案件を提案している。建物の電力設備などを監視制御し、節電につながるビルエネルギー管理システム(BEMS)に、交通管理システムを組み合わせて、エネルギーと交通の両面で改善を図る仕組みだ。日下総裁は、「今のところ、5億~10億円の受注金額を見込んでいるが、将来、この案件をもっと大きく育てたい」と意気込む。
スマートシティは中国語で「智慧城市(知恵都市)」という。スマートシティの先駆者であるIBM中国が定着させ、「IBMの積極的なマーケティングのおかげで、中国のほとんどのお客様に通じる言葉だ」(NEC中国 企画部)そうだ。NEC中国は、各地の市政府はスマートシティに関心が高いと捉えて、「スマートシティを柱として、中国事業を現在の約750億円から、2015年度までに、1000億円に伸ばしたい」(日下総裁)としている。
●【富士通中国】
お客様の商品に付加価値をつける 現地ニーズをかたちに 
富士通
中国・グローバルビジネス
支援部門長
森隆士
執行役員常務 「富士通フォーラムを中国で開催します」。富士通で中国ビジネスを率いる森隆士執行役員常務(中国・グローバルビジネス支援部門長)は、そう決断した。富士通の多様な製品をパートナーやユーザー企業に披露し、これまで日本と欧州で開催してきた大型イベントの富士通フォーラムを、今年11月から来年1月をめどに、初めて中国でも開く。マーケティングへの投資を増やし、中国で富士通の知名度を高める狙いだ。
富士通が中国で勝負をかけるのは、ソリューション商材の展開だ。医療機器や部品、モーターといった提案先の商品に富士通のICTを追加し、クラウドやデータ活用の仕組みと連携させることによって、「お客様の商品に付加価値をつけ、お客様の先のお客様の満足度を高める」(森常務)ことを目指す。富士通中国は2012年4月に中国初となる自社所有のデータセンターを開設し、これをソリューション展開の基盤としている。
中国の市場は、中国ならではの発想をもって開拓しなければならない。「日本では考えにくいが、中国では石油を運搬するタンクローリーの運転士が、途中で石油の一部を抜き取って不正販売することがある。そして、それを隠すために、減った分を水で補い、その結果、石油の質が劣化してしまう」。富士通中国の伊藤均董事は、ローカル事情に精通していることを営業活動に活用する。このほど、大手の石油会社に液体輸送盗難防止システムを提案し、受注にこぎ着けた。

富士通中国
伊藤均 董事 この案件では、中国のバルブメーカーと協業し、石油の注入口に設置するロック用の電磁式バルブに、リモート指示によってロック解除ができるツールを追加した。運転士が契約ガソリンスタンドに到着したら、センターからロックを解除し、それ以外の場所ではロックを解除しないことで、石油の不正販売を防ぐ。まさに、現地のニーズをかたちにしたソリューションだ。
森常務は、「このようなソリューションを中核商材として政府や地場企業に提案し、中国事業の売り上げを現在の1000億円強から、5000億円に引き上げたい」と、目標を高く設定する。
【記者の眼】中国の文化にも商機
富士通の森隆士常務は、先日、江蘇省蘇州市にキャンパスを構える蘇州大学に足を運んだ。中国古文書の卓越したコレクションを誇る同大学の図書館担当に、非接触型のスキャナを使い、傷がつきやすい紙に触れることなく、古文書をデジタル化することができるソリューションを訴求した。図書館担当は、正式な提案を受けたわけではないが、富士通の技術に高い関心を示したそうだ。
中国は社会や環境といった側面だけではなく、文化に関してもICT活用のニーズが高まりつつある。中国では、すぐれた商材をもつことはもちろんのこと、その商材をいかに生かしてユーザーの課題を解決するかという提案の手法がとても重要になる。ローカルのニーズを吸収し、ソリューションに反映して、積極的に提案活動を行いたいものだ。
[次のページ]