【北京発】外資系の大手ITベンダーは、数年前から中国ビジネスの本格展開に取り組んでいる。現地での販売網を構築し、政府との太いパイプを築いてきた。直近では、中国の環境・社会問題を解決するために、“スマート”なIT活用を自治体に提案する活動を加速している。中国での事業展開を必死に拡大しようとしている日本ITベンダーの先輩にあたる大手外資系ベンダー。彼らの動きに必ずヒントがあるはずだ。IBM、SAP、シマンテックの最新の取り組みを取材した。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
【IBM】
ビッグデータ市場をものにする

IBM中国
范宇
グローバル副総裁
<ここがポイント>
・全国拠点展開で存在感を強く押し出す
・中国の「社会問題」の解決を支援
・現地販社の収益を確保する協業関係
IBM中国が本社を構えるのは北京の「Pangu Plaza」。著名建築家の李祖原氏が手がけた首都の新ランドマークだ。IBM中国は現在、全国の69か所で拠点を展開している。「お客様がいる場所にオフィスを構える」(范宇グローバル副総裁)ことを方針に掲げて、今後も拠点の数を積極的に増やすという。各地の企業や自治体に対して、IBM中国の存在感をアピールし、案件を獲得しやすくすることを狙いとしている。
IBMは1934年に中国へ進出。社会主義国家の建国後、79年に中国ビジネスを本格再開した。ここ10年の間は、「ITベンダーとして中国の経済成長を支え、中国側に『価値』を提供する」(范グローバル副総裁)ことに力を注いできた。環境汚染や水不足など、中国が抱える「社会問題」を解決するために、政府にIT活用を提案。地場のローカルキングのITベンダーと提携し、販売は現地パートナーを通じて行っている。
IBM中国の注力分野は、市政府に提案する「スマートシティ」だ。江蘇省南京市に2年前に、交通整理を“賢く”するためのソリューションを納入した。南京は2014年、大型の国際スポーツ大会「ユースオリンピック」を開催する。開催時に交通を効率よくさばくことを目標として、ITの活用に取り組んでいる。
IBM中国にとってスマートシティの提案は、市政府に入り込むための入り口にもなる。同社は、交通整理ソリューションの提供によってパイプを築くことができた南京市に対して、現在、情報システムを統合する大口案件を提案中だ。スマートシティと連動して、垂直統合型システム「PureSystems」などを活用する大量データ処理ソリューションを提供することによって、市を全面的に支援することを目指している。
范グローバル副総裁は、「政府だけではなく、金融や製造などの企業も、ビッグデータ処理に対する需要が旺盛だ。市場のポテンシャルを素早くものにしたい」と意気込む。

本社は北京のランドマーク。IBM中国は事業戦略の一環として存在感をアピールする
【SAP】
「HANA」で食材の安全を確保

SAP中国
クラース・ノイマン
グローバル副総裁
<ここがポイント>
・研究開発は中国現地で行う
・大学と協力して優秀な人材を確保
・政府に業務の効率化を提案する
中国の農村部では、栽培した野菜を電気洗濯機で洗う農家が多いそうだ。ある家電メーカーはそれをビジネスチャンスと捉えて、ネズミが洗濯機に入らない仕組みを備えた農民向け機種を開発。大成功した。
このエピソードを語るのは、SAP中国のクラース・ノイマン グローバル副総裁だ。「中国の各地域でどのようなニーズがあるかを分析し、それに適した製品を提供すれば、成功する可能性が高い」と強調する。ドイツに本社を置くソフトウェア開発大手のSAPは、「中国現地でイノベーションを創出する」(ノイマン・グローバル副総裁)ことを中国ビジネスの基盤としている。
中国政府は、都市化を進めるとともに、農業の現代化を方針に掲げている。都市で暮らす人々に十分な量の食材を供給するためには、農業生産の効率化が不可欠だ。SAP中国は中国政府に、独自のビッグデータ処理技術を駆使し、農場からスーパーマーケットまでの流通を管理し、食材の安全性を確保するソリューションを提案している。インメモリデータベースソフトウェア「HANA」を中心とする「スマート農業」の事業展開の一環だ。
SAP中国は上海で、現地のニーズを吸収し、製品開発に反映する研究所「SAP Labs」を運営している。1998年に設立して、中国でしか実現することができない政府・企業向けソリューションを数多く開発してきた。SAP中国は自社の研究所を展開するほかに、IT研究に強い復旦大学(上海市楊浦区)と共同の開発プロジェクトも進めている。
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