日本と中国それぞれの大手ICT(情報通信技術)メーカーは、お互いの市場を開拓する動きを活発化している。富士通(山本正已社長)は、中国での販売体制を統合し、地場企業に対するソリューション提案に力を入れる。時期は未定だが、中国ビジネスの売り上げを現在の1000億円強から、5000億円に引き上げることを目指す。一方、華為技術の日本法人であるファーウェイ・ジャパン(エン・リダ社長)は、日本の法人向けICT市場の開拓を目指し、販売パートナーの獲得に動いている。法人向け事業をエンジンとして、2017年12月期をめどに、日本市場での売り上げを5億ドル(約500億円)に拡大する計画だ。国内のIT販社には、日中ICTメーカーの動きから目を離さず、新しい商流に対処することが求められるだろう。(ゼンフ ミシャ)

富士通
森 隆士
執行役員常務 富士通は中国で47支社を展開し、約2万人の従業員を抱えている。販売体制の再編でこれらのリソースを有効活用し、さらに日本からヒトとカネを投入することによって、中国地場市場の開拓に乗り出す。
中国事業を統括する中国・グローバルビジネス支援部門長の森隆士・執行役員常務は「One Fujitsu」を方針に掲げて、現在、これまで個々に動いていた中国の各部隊の統合を急ピッチで進めている。森常務は、中国に駐在せず、オフィスを本社に置いて、本社と富士通中国の連携の強化を図る。連携強化を踏まえて、「当社の全製品を中国に投入し、政府、国営企業、民間企業に提案していく」という。
富士通はこれまで、中国での47支社が連携し合うことがなく、各支社の担当領域が限られていたことが、中国ビジネスを拡大するうえでのネックになっていた。例えば、スキャナの販売を行う部隊は、スキャナを銀行に提案し受注したが、スキャナ担当のみだから、顧客データ管理など、スキャナの延長線にある他の製品は提案できなかった。単品販売だから受注金額が小さいだけでなく、顧客との継続的な関係を築くことも難しかった。
森常務は、今後、全47支社が緊密に連携し合い、すべての製品を提案することができる体制をつくることによって、単品販売からソリューション提案への転換を急ぐ。国内と同じように、中国でも政府・企業の課題を解決し、「価値の提供」を切り口とする提案活動に力を注ぐ。時期は定めていないというが、中国での売り上げを「現在の1000億円強から5000億円に伸ばす」と意気込みを示す。
富士通は、開始したばかりのソリューション提案に手応えを感じているようだ。このほど、中国地場の石油会社から、液体輸送盗難防止のソリューションを受注したという。このソリューションは、タンクローリーの運転手が輸送の途中で石油の一部を抜き取って販売するという不祥事を防止するために、富士通の運送追跡監視ツールに、地場の電磁バルブ機器メーカーと共同で開発したバルブロックの仕組みを追加したもの。運転手が許可された地点に到着したら、ネットワーク経由でロックを解除し、途中での抜き取り販売を防ぐという仕組みだ。
富士通中国の伊藤均董事は、「現在、案件を展開中で、完了したら、相当大きな金額が入ると見込んでいる」と喜ぶ。
富士通をはじめ、日本の大手ICTメーカーが中国の市場開拓を進める一方で、中国の大手ICTメーカーは日本市場の開拓に意欲を示している。中国・深センに本社を置く華為技術の日本法人、ファーウェイ・ジャパンは、法人向け事業の拡大を目指し、直近では、ICT構築に強い販売パートナーの獲得に力を注いでいる。

ファーウェイ・ジャパン
鐘開生
専務執行役員 ファーウェイ・ジャパンは、サーバー/ストレージやIPネットワーク、ユニファイド・コミュニケーション(UC)など「各分野で限られた数の製品を提供し、販売パートナーとともに日本市場のニーズを掘り起こしていく」(法人ビジネス事業本部長の鐘開生・専務執行役員)という戦略を取っている。現在は日商エレクトロニクスなど3社と提携して、サーバー/ストレージを中心に製品を展開している。今後は、ビデオ会議システムなどを投入、ポートフォリオを拡充し、販売体制の強化に取り組む。
鐘専務は、「販売パートナーの数を絞り、グローバルで展開するマーケティング用のファンドを使って、手厚く支援したい」としている。法人向け事業の拡大を柱の一つとして、「2017年12月期までに日本の売り上げを5億ドル(約500億円)に引き上げたい」と目標を語る。500億円は富士通が中国で目指している5000億円の10分の1だが、日本と中国のICT市場の規模の違いを考えると、ファーウェイ・ジャパンも相当の勢いで日本市場の開拓を推進していくことがわかる。
記者の眼
中国に出ていく日本のICTメーカー、国内に入ってくる中国プレーヤー。日本のインテグレータは、こうしてできつつある新しい商流への対応を急ぐことが求められる。富士通など大手メーカー系は、これからどんどん海外(中国)で稼ぐ体制を築いている。日本のインテグレータも海外展開に踏み切り、大手メーカーを海外でサポートできる準備を進める必要がある。
一方、中国メーカーの日本上陸は、国内ビジネスの新しい可能性を生み出す。高品質で、米国製のIT機器に比べて価格が安い中国メーカーの製品は、日本のインテグレータにとって魅力的な商材になるはずだ。経済力があり、技術力も高まっている中国。日本のインテグレータは海外にしても国内にしても、「中国」をビジネスプランに入れなければ、事業拡大が難しい時代になったようだ。