ここ10年の間に、多くの外資系SaaSベンダーが日本市場に参入してきた。だが、その事業進捗の状況をみると、明暗が分かれている。“勝ち組”の外資系ベンダーは、何を成長のエンジンとしてきたのか──。(取材・文/信澤健太)
<参入から10年~>
外資系SaaSの代表格 徹底した“ローカライズ”が奏功
調査会社のミック経済研究所によると、国内SaaS市場は、2013年度まで2ケタ成長が続く見込みだ。成長著しいのは情報系SaaS市場で、2010年度から14年度までの年平均成長率(CAGR)を20%弱と予測している。
近年は国内ベンダーが続々とSaaSアプリの開発に乗り出しているが、先行しているのは外資系SaaSベンダーだ。その外資系SaaSベンダーの代表格として、セールスフォース・ドットコムを挙げても異論はないだろう。米オラクルの幹部だったマーク・ベニオフ氏が、1999年3月8日に設立。翌年4月に日本法人を立ち上げ、営業支援(SFA)、顧客関係管理(CRM)アプリケーションのSaaSベンダーとして実績を伸ばしてきた。
近年は、日本郵政や損保ジャパンなどの大型ユーザーを抱え、2000万人規模の利用を想定した政府のエコポイント制度のためのインターネット申請システムを、わずか3週間で構築した。PaaSの「Force.com」上でカスタムアプリを構築する事例が増えており、PaaSベンダーである米Herokuの買収や「Database.com」の発表なども通じて、単にCRMだけではなく、プラットフォームを提供するビジネスモデルに変貌を遂げている。
セールスフォースにとって、とくに成長のエンジンとなったのが、パートナー企業を介した日本専用チャネルビジネスを育ててきたことだ。宇陀栄次社長は、2006年の「週刊BCN」インタビューでこう答えている。「アライアンスメーカーや販売代理店と共存共栄のパートナーシップを組むことが重要です。SIerにとって成長のカギはメーカー次第、という関係は打破したい。それには、当社のサービスだけを“単に提供”するのではなく、各パートナーの得意とする製品やサービスを含めて提供できるサイクルを構築したい」。パートナー企業向けの教育と営業サポートを手厚くし、日本特有の多彩な商流を最大限に活用してきたことが、現在の実績に結びついた。
VAR(付加価値再販パートナー)やISV(独立系ソフトウェアベンダー)パートナープログラム、OEMパートナープログラムは、パートナー企業の心をわしづかみにした。
ISVやSIerは、独自サービスをSaaSアプリのマーケットプレイス「AppExchange」で販売することができる。OEMパートナープログラムでは、CRM機能を除き、アプリ開発に必要な「Force.com」のプラットフォーム機能のすべてを無償で用意。パートナー企業は、「Force.com」の機能を自社のアプリケーションに組み込んで、独自の料金体系でリリースする。ポイントは、日本の商慣習に適合した制度を提供している点。「Force.com」上でアプリを開発・販売したら、売上高の20%をセールスフォースに支払う仕組みとなっている。
米国の場合、オンラインセールスやテレセールス、企業による独力でのサービス導入が主流だ。日本市場に参入して、商慣習・文化にどこまで対応するのかを、業務アプリベンダーは留意すべきだ。
次ページからは、日本市場に参入してから3年以上経過した外資系SaaSベンダーと、新興の外資系SaaSベンダーを取り上げる。提供サービスの特性によって、置かれている状況は異なるが、外資系SaaSが日本で受け入れられる要因として考えられるものは共通している。
2000年代に入って、多くのSaaSベンダーが日本市場に参入した。だが、セールスフォース・ドットコムのように日本に根づいたベンダーが多いとは言い難い。外資系SaaSが日本で受け入れられる要因として考えられるものを、取材をもとに【図1】にまとめた。
複雑系アプリの場合は、(1)現地に合わせたローカライゼーション、(2)マーケティング投資、(3)製品以外のナレッジコンテンツなどの日本語化、ウェビナー(ウェブカンファレンス)の開催、コミュニティの形成、(4)パートナー企業の育成が挙げられる。また、シンブルなアプリの場合は、(1)日本語化のようなローカライゼーション、(2)マーケティング投資の二つが重要だ。
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