大手ITベンダーの第2四半期(上半期)決算が出そろった。民間企業や公共分野のIT投資増加に伴い、全体的に各社の業績は好調といえそうだ。富士通(山本正已社長)は、7月予想時に営業利益を赤字と見積もっていたが、108億円の黒字を達成。前年同期比で増収増益となった。一方で、NEC(遠藤信博社長)は前年同期比で減収減益。携帯電話関連の事業が大きく足を引っ張ったのは両社共通であるにもかかわらず、両社の業績は明暗を分けたようにみえる。大手SIerの決算状況も合わせ、情報サービス産業の今を展望した。(本多和幸、安藤章司)
増収増益の富士通、減収減益のNEC

NEC
遠藤信博社長 7月時点で、上半期(2013年4~9月期)100億円の営業赤字を想定していた富士通は、人員整理の効果もあり、結果的に営業利益を前年同期に比べて64億円増の108億円まで押し上げ、売上高も前年同期比797億円増の2兆1516億円となった。これを受けて2013年度通期の売上高を700億円上方修正し、4兆6200億円とした。ただし、為替の影響を考慮すると、前年同期比3%の減収になるとも発表しており、40%に迫る海外売上比率の高さにより、円安の追い風を享受することになったともいえそうだ。
携帯電話事業を抱える「ユビキタスソリューション」が減収減益となったほかは、すべてのセグメントで増収増益を果たした。主力であるSI・サービスやシステムプラットフォーム、ネットワークの事業セグメント「テクノロジーソリューション」の堅調な伸びは、やはり大きなポイントだ。とくに、国内の金融や公共向けを中心としたIT投資の拡大などでSIが増収し、増益につながった。
一方でNECは、売上高が前年同期比647億円減の1兆3831億円、営業利益は同470億円減の4億円という結果になった。1年前と比べると、両社の業績は逆転したようにもみえる。通信キャリア向け事業の「テレコムキャリア」のほか、サーバー、企業向けPC、企業向けネットワーク製品を含む「システムプラットフォーム」、そして携帯電話を抱える「その他」の三つのセグメントで減収減益。企業向けのITソリューションのセグメント「エンタープライズ」も、増収は果たしたものの、減益となった。今回、増収増益を達成したのは、公共向けITソリューションの「パブリック」だけ。しかも、不採算案件を抱えたことや、事業拡大に向けた先行投資増などの影響で、増益幅はわずか1億円にとどまった。
両社共通の課題も
しかし、決算発表の場に登場した遠藤社長は、「スマートフォンからの撤退を発表したことで携帯電話事業の出荷台数減につながり、NECモバイリングを非連結化したこともあって、『その他』セグメントは確かに大きく落ち込んだ。前年に大型案件があった『システムプラットフォーム』も減収減益だった。ただ、売上高は計画比では上振れ。非連結化の影響を除けば、ほぼ前年並みを確保している。通期で売上高3兆円という計画は変更しない」と、織り込み済みの状況であることを強調した。高収益体質に完全に移行できているとはいい難いITソリューションについても、先行投資の回収による原価低減で不採算案件減、売上増を図る方針。今後の収益性向上には手応えを感じているという。
一方で、携帯電話事業は富士通とNECに共通するアキレス腱だが、それを横に置いても、デバイスを含むハードウェアビジネスの成長率の低さ、不安定さは際立っている。基幹システム向けの製品などは大型案件の有無に業績が左右される傾向が強く、新規案件が豊富にあるわけではない。ハード製品単体での収益性も年々下がっている。また、両社ともWindows XPのマイグレーション需要の影響によりビジネスPCは好調で、下期も引き続き売上増を見込んでいるが、これはいわば特需であり、継続的な需要ではない。来年度以降の市場にどう対応するのか、明確なビジョンはまだみえない。
いずれにしても、両社の事業構成がITサービスによりシフトしたものになってきているのは間違いない。ハードウェアをどの程度自社で持ち続けるのか、そしてそれをITサービス、ソリューションと組み合わせてどれだけ収益性を高められるかが、全社の業績にも直結するはずだ。
大手SIerはおおむね好調
ハードウェア商材をもたない主要SIerは、おおむね好調に推移している。NTTデータの第2四半期累計(2013年4~9月期)の連結受注高は、すべての事業セグメントで前年同期を上回った。ただ、収益構造は水面下で大きく変化している。まず挙げられるのがソフトウェア生産体制の刷新だ。NTTデータは設計や開発、テスト、現行システムの分析のすべての工程において自動化を推進するなど生産革新に全力で取り組むとともに、受注するシステムも「これまであまり手がけたことのない」(岩本敏男社長)タイプの新規案件を積極的に獲りに行っている。
しかし、これが仇となって不採算案件が主要なものだけで金融と産業分野で6件ほど発生して、今年度(14年3月期)連結営業利益の見通しを250億円も引き下げることになった。全力でこれ以上の悪化を防ぐ取り組みを行う一方で、「チャレンジをやめるつもりはない」(岩本社長)と、踏み込んだアクセルを緩めることはしない考えだ。同時にNTTデータは海外M&A(企業の合併と買収)も積極的に行っている。
また、野村総合研究所(NRI)の第2四半期累計は連結売上高ベースで前年同期比4.7%増、営業利益は同13.1%増。ITホールディングス(ITHD)の連結売上高は同0.5%増、営業利益で同5.5%増と案件は比較的潤沢にある様子がうかがえる。
NRIの嶋本正社長は「顧客から『もっといい提案をもってこい』というような、前向きな引き合いが増えている」として、顧客が予算を用意してまとまったIT投資を行う感触を得ていると話す。
表層深層

富士通
加藤和彦
取締役 一見、明暗が分かれたようにみえる富士通とNECの2013年度上期決算だが、細かく分析すると、両社とも順風満帆とはいえず、ハードウェアへの対応を中心に、課題は大きいといえる。ただし、スマートフォンについては、富士通の加藤和彦・取締役執行役員専務が決算発表会見で、「これからどうなるかわからない市場。いま勝っているメーカーが勝ち続けるとは限らない」と話し、富士通は撤退しないと明言した。ここに、両社の現時点での基礎体力の違いが現れているとみることもできる。
大手SIerは、収益構造の変化に取り組み、結果は必ずしも良好とはいえないものの、業績は保っている。ハードウェアを抱えていることが、果たしてこれからのITサービス市場でメリットとなり得るのか。コモディティ化したハードウェアを躊躇なく切り捨てていくIBMの戦略などを横目に、富士通やNECの厳しい戦いは続く。(本多和幸)