富士通とNECは、ITサービスを中心とする事業構成にシフトすることが喫緊の課題となっている。2012年、大幅赤字を抱えて1万人規模の人員削減を実施したNECに続き、ここにきて富士通も業績が落ち込んでいる。半導体ビジネスの不振が主な原因という。両社は打開策として、クラウドやビッグデータにリソースを集中するなど、収益性の高いITサービスの強化に取り組んでいる。大手2社のITサービス事業者への変貌が明確になりつつある。

富士通
山本正已社長 富士通は、2月7日、2012年度第3四半期(2012年10~12月)の業績を発表した。半導体ビジネスが不振に陥って、四半期の売上高は1兆482億円(2.9%減)に減少し、営業損益は41億円の赤字となった。12年度通期では、950億円の大幅赤字を見込んでいる。
同日、東京・汐留本社で開いた記者会見は、事前に赤字見通しが報じられたこともあって、メディア関係者が殺到。報道陣は、今後の事業方針について、山本正已社長を問い詰めた。収益性の低いデバイスを抱える現状のビジネスモデルでいいのか、と。
山本社長は、厳しい質問にも表情を変えなかった。「ソフト・サービスだけでは、すぐにはビジネスが成り立たない」「一気にというより、段取りを踏んで変貌を進めていきたい」。淡々と語りながら、ITサービス事業を中心とするビジネスモデルへのシフトを着実に推進していく方針を示した。
富士通は緊急対策として、半導体ビジネスを再編する。統合新会社を設立し、パナソニックに半導体事業を譲渡する予定だ。これに伴い従業員約4500人が転籍するほか、転進支援策などによって国内外でスタッフを5000人程度削減することを明らかにしている。
山本社長は「こうした取り組みを、今後のビジネス方針を明確するための第一歩と捉えてもらいたい」と述べる。1年ほど前のNECと同じように、人員削減を中心とする構造改革を決断し、直近での業績改善を図る。中期的には、クラウドやビッグデータなどITサービスの成長分野にリソースを集中し、2015年度(2016年3月期)に、2000億円以上の営業利益を目標に掲げている。
一方、NECはグループ会社を含めて1万人規模の人員を削減する施策が完了した。その結果、業績が回復してきている。2012年度第3四半期の売上高は7220億円(7.9%増)に上り、営業利益は244億円となった。
構造改革をキーワードに掲げ、1年のタイムラグをもって同じ行動(リストラ)に出た富士通とNEC。ITサービス事業にスポットを当てて業績をみてみると、両社とも順調であることがわかる(図参照)。全体で赤字になった富士通も、システム構築とインフラサービスで構成する「サービス」分野では3.8%の営業利益を上げている。全分野のなかで最も高い利益率だ。
2011年、パソコン事業を大胆に切り離そうとして失敗した米ヒューレット・パッカードの事例が示しているように、ITサービス事業者への変貌を実現するためには時間が必要だ。しかし、人員を大幅に削減しないことには業績が改善しない富士通とNECは、もはや従来のビジネスモデルの限界に達している。
両社は今年4月に、新しい中期経営計画の開始を予定している。それをきっかけにビジネスのあり方を根本的に見直し、ITサービス中心へのシフトを加速化することを迫られている。(ゼンフ ミシャ)