NEC(遠藤信博社長)と富士通(山本正已社長)は、クラウドやビッグデータを中心とする次世代ICT(情報通信技術)の新しい提案先として、情報システム以外の部門を攻めようとしている。予算が潤沢なマーケティング部門や開発部門に、ICTをビジネス成長につながるツールとして訴求し、案件の獲得を狙う。日本を含めて、先進国ではユーザー企業のIT予算の大きな伸びが期待できない状況にあり、ITベンダーは新しい提案先の開拓に必死だ。先駆けて動き出したIBMやオラクルなど外資系に加え、ここにきて大手国産ベンダーも取り組みを加速している。NECは、全社規模で営業とシステムエンジニア(SE)の部隊を統合。一方、富士通は営業・SEを分割するかたちで、営業リソースの増強を決めた。(ゼンフ ミシャ)

NEC
庄司信一
執行役員常務 大手ITベンダーは、サーバーやストレージを組み合わせて提供する垂直統合型システムや、それらを基盤とするビッグデータ活用ソリューションといった次世代ICTの商材を揃えつつある。
ビッグデータを活用すれば、情報解析によって顧客ニーズを正確に把握して製品開発に反映することができるので、ICTの提案先は広がることになる。従来のようにユーザー企業の情報システム部門に提案するのではなく、マーケティングや営業、製品開発など業務系のトップ層に、事業改善のツールとして訴求することが可能になるのだ。
IBMやオラクルは、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)をはじめ、予算を握っている業務系トップ層に接近しており、新しいバイヤー(買い手)を発掘している。IT予算が伸びない状況にあっても、他部門の予算をICT導入に使ってもらうことによって、調査会社が見込んでいるIT市場の成長率を上回るほどの事業拡大を期待できる。
「このところ、システムの置き換え提案で『導入コストを低減する』とアピールするだけでは、なかなか買ってもらえない。直販にしても、パートナー販売にしても、従来の提案では商談が決まらないケースが多くなっている」。プラットフォーム事業を統括するNECの庄司信一執行役員常務は、厳しい状況を語る。
事業を維持・拡大するために、提案先や提案の仕方の見直しを余儀なくされているなかにあって、NECなど国産の大手ベンダーも新しいカテゴリのバイヤーの開拓に本腰を入れている。
NECは4月1日付で、組織を大きく再編した。ユーザー企業の業務部門にアプローチし、迅速に提案を行うことを目指して、全ビジネスユニットで、これまで別々だった営業部隊とSE部隊を統合した。従来は、ソリューションを提案する際に複数の部隊が動いていたので対応に時間がかかったが、新体制を整えたことによって、「提案をワンストップ・短時間で行うことができるようにする」(庄司常務)という。
クラウドやビッグデータなど、次世代ICTの登場がもたらす売り方の変革。ITベンダーは、製品面というよりも、営業スタイルを工夫して、売り方によって他社との差異化を図ることが重要になっている。

富士通
阪井洋之
統合商品戦略本部長 富士通は、NECと逆の体制を構築して動いている。それまで統合していた営業・SEを1年ほど前に分割して、「営業担当は『売り』に、エンジニアは『開発』に特化したかたちで、情報システム以外の部門へのアプローチに力を入れている」とマーケティング部門の阪井洋之・統合商品戦略本部長は組織改変後の状況を語る。
同社は、基盤系の提案に強いが、スマートデバイス活用やCRM(顧客管理)などフロント系に弱い部分があると認識して、急ピッチでフロント系の営業リソースを増強している。ユーザー企業の業務部門を訪問し、ニーズを吸収するプリセールス部隊を、現在の約700人から、1000人弱に増やす方針だ。富士通が力を入れているパブリッククラウドサービス「FGCP/S5」は、2012年度、業務部門での利用が情報システム部門での利用をすでに超えている(図参照)。今後は、ほかの分野でも業務部門から注文を受ける案件をどれほど増やすかが、次世代ICTの売り方を成功させるうえでのポイントとなる。
表層深層
ユーザー企業の業務部門に向けた提案に欠かせない要素は、スピード感だ。マーケティングや製品開発のトップ層はすぐにICTを利用したいと欲しているので、提案に時間がかかれば、他社の製品を選んでしまう。ICTはインフラではなく経営ツールであると捉えれば、一日も早く提供されることが求められる。この点も、従来の情報システム部門向け提案との大きな違いだ。
NECは「今後も個別SI(システム構築)にこだわりつつも、ソリューションを業種ごとにパターン化し、迅速に提案することができるようにする」(庄司信一執行役員常務)という。販売パートナーは、NECの方針を受けてビジネスモデルへのテコ入れを求められるだろう。アプリケーション開発に注力し、「パターン」に「カスタマイズ」をつけ加えることに商機があるとみられる。
次世代ICTの活用によって、ビジネスを改善する提案の延長線に、自治体に都市管理の改善を訴えるスマートシティの提案がある。スマートシティも、新しいバイヤーを探すのがポイントとなる。自治体のIT予算が足りなければ、福祉予算を使うことも考えられる。スマートシティは、都市生活を快適にすることをコンセプトにしているので、提案の仕方によっては、バイヤーはIT部門に限らない。
「新しいタイプの提案の失敗事例が知りたい」。NECのある販売パートナーはこう求めた。メーカーと販社の間、売り方についての密な情報共有が問われる。