長野中央病院(山本博昭院長)は、シスコシステムズ(シスコ)のサーバーやスイッチを使い、電子カルテシステムを運用するための仮想基盤を構築した。仮想化によって「止まらないインフラ」を実現し、医療環境の改善に結びつけた。今後、この仮想基盤を活用して、医療データの分析に取り組み、病院運営の改善に生かす。患者向けのサービスを充実させ、他病院との差異を明確にすることが要求される時代に、ITの現場から経営陣を支えている。
【今回の事例内容】
<導入企業> 長野中央病院長野県長野市にある病床数322床の総合病院。長野医療生活協同組合が運営する。専門医療に力を入れ、独自性を打ち出す。院長は山本博昭氏
<決断した人> 長野中央病院システム室
中西 晃 氏構築会社のユニアデックスと連携しながら、シスコ製品を活用した仮想環境の導入をリードした
<課題>仮想化技術を活用した高可用性の電子カルテシステムが構築できておらず、安定運用に不安があった
<対策>仮想基盤の採用を決め、ITとネットワーク機器を同じメーカーで揃えることで、トラブルの原因を容易に究明できるシステムを構築
<効果>システムの安定稼働のほか、プラットフォームを生かしたデータ分析に取り組む
<今回の事例から学ぶポイント>システム構築の現場が、患者や経営陣にどのようなニーズがあるのかを考えて構築することが大切
ITとネットワークをワンストップで
仮想基盤の稼働開始を予定した当日、最後のプログラミングを行うソフト開発会社の担当者が腰を痛めて歩けなくなった。数週間にわたって汗をかいて、やっとこの日を迎えたというのに……。
「電話で何とか来てもらうようにお願いした。痛みで顔をしかめながらタクシーから降りてきた担当者を、玄関に備えつけの車イスに乗せて、開発現場まで押していき、痛み止めを飲ませてプログラミングをしてもらった。ここが病院で本当によかった」。システムの導入をリードした長野中央病院・システム室の中西晃氏が、苦笑まじりでエピソードを披露する。
長野中央病院は、このほどシスコの高性能サーバー「Cisco UCS(UCS)」とスイッチ「Cisco Nexusシリーズ(Nexus)」を組み合わせ、同じメーカーのITとネットワークの機器を使って構築した仮想基盤を稼働させた。システム構築は、日本ユニシスグループの一社で、シスコの有力販社であるユニアデックスが手がけた。長野中央病院は、仮想環境を利用して、電子カルテシステムの安定した運用につなげている。

年間の救急車搬入は2000台以上という長野中央病院。
今年中に病院内のWi-Fi環境を整え、入院患者の利便性を高める「攻めのIT活用」で患者数を確保
やや高価で、中堅規模のユーザーが採用をためらいがちなシスコのUCSを入れたのは、なぜか。中西氏は、「サーバーとスイッチのメーカーが同じであれば、トラブルが発生した際に、原因はどこかをすぐに把握することができるからだ」と語る。「本当は、メーカーごとにスペックがそれほど大きく変わらないサーバーは、シスコ以外の製品でもよかった。私はむしろスイッチの『Nexus』の性能を評価して、『だったら、サーバーも同じシスコ製のものを採用しよう』と考えて、『UCS』に決めた。ドル建て決済で、割と安く手に入ることが、決断の追い風になった」という。
病床数322床の長野中央病院は、専門医療に力を入れる中規模病院として、県下の患者からの信頼を得ている。しかし、最近は患者のサービス意識が高くなって、医療の質だけでは他病院との差異化が難しくなりつつある。例えば、病室に無線LAN環境があって、簡単にインターネット接続ができるかどうかを判断基準にして入院先を選ぶ患者が増えている。病院がIT化に積極的に取り組むのは、患者を確保するために必要な投資なのだ。
長野中央病院は、今年中に病院内のWi-Fi環境を整えるほか、医療システムにたまっているデータを分析することで、独自のサービスを創出しようとしている。こうした「攻めのIT活用」を方針に掲げている長野中央病院の経営陣を現場から支援するのは、中西氏が率いるシステム室のメンバーたちだ。
「データ」を「情報」に変える
「システムに入っている『データ』を経営判断に役立つ『情報』に変え、簡単に使うことができる仕組みをつくってくれないか」。中西氏は、今、経営陣からのこうした要請に対して、プロ集団のユニアデックスとともに、仮想基盤を用いてデータ活用を実現するための突破口を模索している。「独立して動いている各医療システムを部分的にインターネットにつなげて、まず、データへのアクセスを容易にしていくことに動いている」(中西氏)という。
その際、慎重に考えなければならないのは、セキュリティを十分に確保するということ。中西氏は、「システム室のメンバーは、いろいろ実現したくて熱くなってしまうことがある。そんなとき、ユニアデックスの担当者が『ちょっとやり過ぎかも。安全性も考えましょうね』と、ブレーキをかけてくれるのがありがたい。ベンダーとうまくかみ合いながら、IT活用とセキュリティ確保を両立して、病院の競争力が高まるようにサポートしたい」と、現場でのスムーズなコンビネーションの様子を説明してくれた。(ゼンフ ミシャ)