SAPジャパン(福田譲社長)は、7月11日、ユーザー向けイベント「SAP Forum Tokyo」を都内で開き、二つの基調講演や約40のセッションで、SAPの製品戦略や最新ソリューション、パートナーの導入事例などを紹介した。SAPジャパンによる冒頭の基調講演では、「Run Simple」をキーワードに、SAPのすべてのアプリケーションのプラットフォームとなるインメモリデータベース(DB)で、ITシステムのシンプル化を実現する「SAP HANA」の強みをアピールし、参加者の注目を集めた。(取材・文/本多和幸)

SAPジャパン安斎富太郎社長(当時)の基調講演では、独メルケル首相、英キャメロン首相が、サッカー独代表と英代表の試合を「SAP Match Insights」を通じて振り返るデモを視察している様子も紹介したサッカー独代表を支えたHANA
フォーラムは、SAPジャパンの基調講演で幕を開けた。冒頭に登場した安斎富太郎社長(当時)は、まず、佳境に突入していたサッカー・ブラジルW杯の話題に触れた。ドイツサッカー連盟は、独SAPと協働プロジェクトを実施していて、その成果としてサッカーの分析基盤「SAP Match Insights」を開発している。最終的にブラジルW杯で優勝し、フォーラム開催時点で決勝進出を決めていたドイツ代表チームの快進撃を支えたのが、このシステムだったという。
安斎社長は、「ドイツがやろうとしてきたのは、よりシンプル、スピーディなサッカーに変えること。バックグラウンドでは、HANAを使って戦術を精緻化する取り組みを進めてきた」と、旬な話題でHANAの効果をアピールした。例えば、一人の選手がボールをもつ時間について、2006年には2.8秒だったのを、2010年には1.1秒まで短縮したという。「ボールをもつ時間を短くするには、次にパスを受ける選手が、相手の状況をみつつ、最適な場所にあらかじめ動かなければならない。一方、守備ではその反対の分析が必要。トラッキングカメラなどを通じて得た膨大な情報を分析して解を導きだそうとすると、数兆通りの計算が必要になる。分析システムのインフラをHANAにしたことでそれが可能になり、クラウド上でHANAを稼働させることによって、試合中でも使えるようになった」と、熱弁をふるった。大量の多種多様なデータをリアルタイムで一元化して分析できるシステム基盤のHANAが、ユーザー側のプロセスを「シンプル」にし、サッカーのピッチレベルでのイノベーションを導いたことをアピールしたかたちだ。

パートナーの展示コーナーも盛況 ここから話を発展させ、「Run Simple」が現在のSAPのキーワードであり、その核となるのがHANAであることをあらためて強調。「単一でオープンなプラットフォームであるHANAを使えば、ERPそのものも超高速化できる」とした。
HANAに最適化したERPも登場

SAPジャパン
堀田徹哉
バイスプレジデント 続いて、堀田徹哉・バイスプレジデント(VP)ソリューション&イノベーション統括本部長が、「シンプル化」によって、SAPがエンタープライズシステムの未来を切り開くと宣言。「Run Simple」の真意を解説した。
堀田VPは、日本企業の課題について、「生産管理や販売管理のシステムはカスタマイズしている例が多いし、アプリケーションもインフラも、運用しているベンダーもバラバラというのが珍しくない。企業のこれからの成長に必要なのは、情報連携や業務連携なのに、ITの複雑性が足かせになっている」と述べた。そのうえでHANAについて、「ユーザーエクスペリエンス、アプリケーション、ITランドスケープ、ビジネスネットワークをシンプルにするプラットフォーム」として、日本企業が抱える課題を解決できるテクノロジーであることを説明した。

武田薬品工業
オリビエ・グアンCIO さらに、6月に米オーランドで開かれた年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2014」で発表された「SAP Simple Finance」についても言及した。この製品は、「SAP ERP」の一部機能をHANAに最適化したものだが、「企業経営において、会計の状況をリアルタイムでみることが重要になりつつある。大抵の会計システムは、月末で締めてレポーティングしないと状況を把握できなかったが、Simple Financeに存在しているのはトランザクションデータだけで、中間に何の集約もない。インメモリDBのテクノロジーだからこそ実現したこと」と、メリットを解説した。
堀田VPのセッションでは、元ネスレCIOでもある、武田薬品工業のオリビエ・グアンCIOも登壇し、SAP ERPを導入してシステムのグローバル統合を推進した経験をもとに、ユーザー企業の視点から、グローバル企業のIT戦略のあり方について説いた。ネスレでは、システム統合を段階的に行い、まずは特定の地域の特定の国で試験導入し、標準モデルをつくりあげたうえでロールアウトしていったという。さらに、グローバルでのシステム統合は、ローカルレベルでビジネスの変革が必要になるため、「マネージメント層の理解と積極的な関与も非常に重要」と指摘した。