中堅システムインテグレータ(SIer)である日本システムウエア(NSW、多田尚二社長)が、話題の「IoT(Internet of Things)」で商機をつかもうとしている。IoTとは、あらゆるモノがネットワークに接続し、データを送り合う概念を指すが、現状ではSIerにとって事業化が難しいといわれる。そのなかにあって、NSWのグループ会社、NSWテクノサービス(木内和夫社長)は、大手の錠前メーカーであるアブロイ(ヨルマ・レシンCEO)と提携。同社の製品にITを組み込み、社会インフラ施設の運営者に提案することによって、身近なところでIoTをビジネスにつなげることを目指している。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
NSWテクノサービスは、NSWグループで新規事業の開発を手がけている。この6月に結んだアブロイとの提携によって、アブロイの各種鍵やシリンダー錠に、独自のITの仕組みを搭載し、「ABLOY CLIQソリューション」としての販売を開始した。NSWテクノサービスの営業部隊のほかに、NSW本体も提案活動を行い、通信や水道、ガスなど社会インフラ施設を運営する企業に売り込んでいく。
どこからでもアクセス権管理
ソリューションは、シリンダーと鍵だけでなく、アクセス権情報を鍵にダウンロードするプログラミング端末やアクセス権を設定する管理ソフトウェアなどで構成する。利用施設の管理者は、従業員の権限レベルや時間・曜日に応じて、施設に入るアクセス権をソフトウェアで設定。プログラミング端末に鍵を差し込み、アクセス権の情報をダウンロードしたら、従業員は一つの鍵で許可された複数のシリンダー錠を施錠・解錠することができる。鍵とそこに組み込んだITによって、利用施設をソリューションの管理サーバーがあるデータセンター(DC)につなぎ、どこからでもアクセス権の管理ができることから、まさにIoTをかたちにしたものだ。
DCは現在、欧州にあるアブロイのセンターを利用しているが、今後、都内をはじめ、国内各地に設けているNSWのDCに移して、同社のデータ分析基盤などにつなげるという。およそ1年前から日本でITの仕組みをつくるパートナーを探していたアブロイと商談し、パートナーシップの締結に導いたのが、NSWテクノサービスビジネス推進本部プロジェクト推進部の佐木昭弘部長だ。「電子認証のシステムと異なり、配線工事が不要なので、とくにプラントなどの広い面積の施設で使う場合は、初期コストとセキュリティ構築の時間を大きく節約することができる」と説明し、鍵というメカニカル技術を活用する利点を語る。
NSWグループ全体で営業

NSWテクノサービス
佐木昭弘
部長 錠前とITの融合には、もう一つのメリットがある。目にみえるモノである錠前は、提案の場でソリューションの特徴をわかりやすく伝えるためのツールになり、だからこそ、「ソフトウェアだけを商材としているSIerとの差異化ができる」(佐木部長)という。NSWテクノサービスは、8月末、NSW本体のセールスチームに対してABLOY CLIQソリューションの説明会を開き、現在、グループ全体での営業活動を開始している。NSWがもともと強い通信事業者に提案するほか、これまであまり接点がなかったガスや石油の会社にも新規で入り込み、広い範囲で受注に結びつけようとしている。
とはいえ、ビジネス化のハードルは決して低くはない。佐木部長によると、100個のシリンダー錠と200個の鍵を提供した規模の案件だと、売り上げは1000万~1500万円。計画では、来年度(2016年3月期)に約2億円を目標に掲げているが、営業活動が始まったばかりということもあって、目標の達成は、いかに大型案件の獲得ができるかにかかっている。NSWグループが中長期で目指しているのは、ABLOY CLIQソリューションによって、DCやデータ分析など、ほかの注力分野と連携して事業展開を活性化させることだ。中堅SIerとしていち早くIoTの商機をつかみ、新規ビジネスを創出しようとしている。
30秒でわかるIoT市場 2018年には21兆円、中堅SIerにも商機
調査会社IDC Japanはこの8月、初めて国内IoT市場の売上予測を公開した。同社によると、市場は2013年の11.1兆円から18年には21.1兆円に拡大する見込みだ。IoT市場とは、端末、通信、プラットフォーム、分析ツール、アプリケーション、セキュリティといった各レイヤで構成されるもの。それらの調達コストの低下や技術標準化の進展がIoT市場の成長に刺激を与えているという。
IDC Japanによると、IoTの利用は、「自社内の業務効率化を中心とした内部用途だけでなく、自社のお客様に提供するサービスの付加価値向上などの外部用途で利用するケースが多い」という。