ピー・シー・エー(PCA、水谷学社長)は、東アジア、東南アジアの有力業務ソフトメーカーやSIerと連携し、会計・ERPソフトのグローバル・アライアンス・グループ「ALAE(アーレイ=ラテン語で翼を意味する)」を立ち上げた。日本企業がアジア諸国に進出する場合に、現地のALAE加盟企業が提供する会計・ERPソフトの導入を支援し、同社の主力製品である「PCA会計X」とデータ連携することで、安価に業績管理の一元化を実現するというコンセプトだ。多言語多通貨対応のERPなどに比べて非常に少額な投資で済むことから、中小企業の海外進出を強力に後押しする効果が期待できそうだ。(本多和幸)
11の国と地域で同時にサービスイン
PCAが11月14日に都内で開いたパートナー向けイベント「PCA戦略フォーラム2015」には、すでに契約締結済みのALAE加盟企業幹部が集結した。これが日本のパートナーへのお披露目の場となったわけだ。PCAは、来春にALAE関連のサービスを開始する予定だが、すでに中国、韓国、ベトナム、インド、マレーシア、フィリピンの6か国をカバーする5社のベンダーが、ALAEに正式加盟している(11月14日現在)。香港、台湾、タイ、インドネシア、シンガポールのローカルソフトメーカーやSIerとも協議は進んでいて、サービス開始までに、11の国や地域をカバーする体制を整える意向だ(表参照)。また、ALAEの本部はシンガポールに置き、あくまでもグローバルな運営にこだわる姿勢をみせている。
ALAE加盟企業の会計・ERPソフトは、「ALAE仕様」ともいうべき共通の仕様にもとづいて連結決算用のデータを出力する。
ただし、データの取り込み機能を用意しているのは、PCA会計Xと、韓国DuzonのERP「iCUBE」のみだ。つまり、ALAEは現在のところ、日本または韓国に本社を置く企業が連結会計を手軽に実現するためのサービスということになりそうだ。
具体的に、PCAが日本で展開するサービスとしては、加盟企業の海外ソフトの日本語マニュアルや、PCA会計Xとのデータ連携ツールを用意するとともに、「Microsoft Azure」を利用した各ソフトのトレーニングサービスも提供する。これらを「PCAグローバルサポートパック」として商材化し、販売パートナーにサポートプランをカスタマイズしてもらえるような仕組みをつくる。そのため、価格はオープンプライスだ。ただし、水谷社長は、「グローバルサポートパックのイニシャルコストは数十万円程度のイメージ」と説明する。
パートナー向け施策の詳細はこれから検討するという段階だが、すでに数社の販売パートナーがALAEを活用した海外ビジネスに名乗りを上げているとのこと。「将来的には、日本のパートナーに現地で加盟企業のソフトを売ってもらうというケースも出てくるだろう。現地のローカルソフトにしても、10万円くらいの投資で導入できる安価な業務ソフトをラインアップしている。とくに中小・中堅企業の海外進出の場合、数千万円から数億円もする高価なERPは完全にミスマッチ」と、水谷社長は、グローバル対応のERPなどと比べて、コスト面で競争力のあるサービスであることを強調する。
大手ERPとはコストの桁が違う

水谷学
社長 水谷社長の発言でも明らかなように、ALAE設立の背景には、グローバル対応のERPが、日本企業のニーズを拾い切れていないことが影響している。ERP市場に詳しい、ガートナー ジャパンの本好宏次・リサーチ ディレクターは、「日本企業の海外進出の加速がERP需要を支えているのは確かだが、企業規模によって導入の目的は違う。大企業でこそ、グローバルのシステム統合管理を目指したERPの導入が増えているが、中堅以下の企業は、会計を中心とした業務のシステム化により、ガバナンス強化や業務効率化、会計制度への対応などを目指すという段階であることが多い」と指摘している。ERP市場をリードするグローバルベンダーも含め、各ソフトメーカーはこうしたニーズに応えるため、小規模拠点向けの安価なERP製品をラインアップしている。しかし、多くの日本の中堅・中小企業(SMB)にとっては、それでも高額すぎる商材だ。
さらに、グローバル対応のERPは、国際会計基準には対応していても、「海外現地の税制や会計制度への機能的な対応が不十分なことも多い」(水谷社長)という。水谷社長は、「日本のユーザー企業が求める、安く、高品質というニーズに応えるための仕組みがALAEだ」と力を込める。
ALAE加盟企業は、会計ソフトメーカーに限っては1国1社が原則だ。しかも、SMBのニーズを広くカバーできるソフトを扱っているという基準があるので、参加のハードルは高い。結果的に、中国の会計・ERPソフト市場でトップシェアを誇る用友の主要販社Anwillがメンバーに名を連ねたのをはじめ、各国とも国内で高いシェアをもつベンダーが集結した。PCAにとっては、国内ユーザーに向けた大きなアピールポイントになる。

ALAE加盟各社を日本のパートナーにお披露目 将来的には、財務会計だけでなく、販売管理や人事給与、勤怠管理などもデータ連携できるしくみを整えていく方針。ALAE加盟企業も、アジアだけでなく、中南米やアフリカ、欧米への拡大も視野に入れている。まずは、初年度300法人でのサービス契約を目指すが、「当社の既存のお客様にご紹介するだけで十分に達成可能な数字」と、水谷社長はスタートダッシュに自信をみせる。
表層深層
ALAE設立の検討は、今から2年前に、PCAとAnwillとの間で始まったのだという。尖閣問題などで日中間の緊張が高まり始めた時期。辛抱強くアライアンスの枠組みを整え、日の目をみたかたちだ。
水谷社長によれば、「国によっては、有力な業務ソフト・ERPベンダーが1社しかないことも多い」そうで、今回、そうしたベンダーをしっかりとALAEで取り込んだ。だからこそ、競合がないサービスを展開できるわけで、今後ネットワークが広がっていけば、さらに競争力は高まる。
水谷社長自身の、海外ビジネスへの執念ともいうべき思いも、ALAEの発足を実現する推進力になったのかもしれない。PCAには、過去に海外進出に失敗した経験がある。1999年にマレーシアに進出し、英国製の多言語多通貨対応ERPに一部機能を追加した「PCAワールドモデル」を売り出した。水谷社長(当時は社長就任前)が責任者として携わったが、現地の安価な製品に惨敗し、わずか6年で撤退という憂き目をみている。この教訓をALAE設立に生かしたことは想像に難くない。
失敗を糧にしたPCAの海外ビジネスでの逆襲。ALAEはその大きな武器となる可能性を十分に感じさせる。