日本IBM(ポール与那嶺社長)は、ソフトバンクテレコム(孫正義社長)と提携し、自然言語を理解する人工知能システム「IBM Watson」の日本語対応と日本市場への導入を共同で進めると正式に発表した。構造化データ、非構造化データを含め、あらゆるデータを融合して分析し、顧客のビジネスの成長に向けた意思決定をITでサポートするというのが米IBMの新たな基本戦略だが、Watsonはそのキーテクノロジーの一つだ。米IBMでWatson事業のCMOを務めるスティーブン・ゴールド・パートナープログラム/ベンチャーインベストメント/IBM Watsonグループ担当バイスプレジデント(VP)に、ソフトバンクテレコムとの協業に至った背景や意義を取材した。
グローバルではすでに100社のリセラー

スティーブン・ゴールド
バイスプレジデント Watsonは、現状、自然言語としては英語にしか対応しておらず、北米で事業が先行していた。グローバルでは、ソフトウェアの再販プログラムである「Software Value Plus」の対象製品群になっていて、すでにパートナープログラムが動いている。
ゴールドVPは、「Watsonのパートナーは、リセラーとデベロッパーの2種類が存在する」と説明する。リセラー契約を結んでいるITベンダーはすでに100社に達しており、Watsonのテクノロジーを活用したIBMの認識調査ソリューション「Watson Explorer」を中心に、ライフサイエンスや環境などの分野で具体的な案件が動いているという。
一方で、Watsonを活用した独自のアプリケーションを開発・提供するデベロッパーはさらに多く、180社にのぼる。ゴールドVPは、「こうしたパートナーが増えてきたのは直近の1年以内のことで、比較的若い集団といえる。それぞれのパートナーが強みをもつ領域でソリューションを展開していて、計26業種をカバーしている。とくに、ヘルスケア、小売り、ライフサイエンス、金融、旅行などの業種では、強みを発揮しているパートナーが多い」と手応えを語る。
日本語化と市場導入のベストパートナー
米IBMは現在、Watsonについて、日本語だけでなく、スペイン語、ポルトガル語への対応も進めているが、アルファベット以外の文字を使う言語への対応は日本語が初めて。それだけに日本語への対応はひときわハードルが高いといえるが、ゴールドVPは、「日本には世界で有数の大きなIT市場があり、テクノロジーを深く追求しているユーザー企業も多い。ITのイノベーションをリードする市場としても、IBMは大いに注目している」と、日本市場でのビジネスに本格的に足を踏み入れた背景を説明する。
そのうえで、ソフトバンクテレコムを提携先に選んだ理由については、「英語と日本語はかなり異なるので、やはり日本語への対応はハードなチャレンジになるのは間違いない。だからこそ、テクノロジーにすぐれ、積極的な開発投資ができる資本力のある日本企業と組む必要があった。その点、ソフトバンクグループは、『Pepper』に代表されるように、ロボティクス分野にも力を注いでいる。Watsonの日本語化だけでなく、その後の日本市場におけるビジネス展開を考えても、理想的な協業相手だと考えている」と話す。
具体的な協業の内容としては、当面、最優先で進めるのはWatsonの日本語対応とローカライズサービスの開発・提供だ。Watsonを使ったアプリケーション開発のための日本語対応APIや開発環境も、両社が共同で整備する。そのうえで、市場開拓や個別の案件開拓も進める。
また、ソフトバンクテレコムは実際にユーザーとしてWatsonを導入し、活用ノウハウやスキルを蓄積するとともに、Watsonを活用したソリューションの開発にも取り組む。例えば、コールセンターなどでインバウンドの情報を蓄積し、Watsonで分析することで、ユーザーサポートの機能を向上させることが可能になるという。
さらにゴールドVPは、「ソフトバンクグループには、(ソフトバンク コマース&サービスが担う)IBMのソフトウェアのVAD(ValueAddedDistributor、付加価値ディストリビュータ)としての機能もあるので、当然、彼らのリセラー網を使ってIBM自身のWatson関連商材を再販してもらう。加えて、日本語版Watsonを使ってISVが開発した独自の業種向けアプリケーションなどもマスターディストリビュータとして扱ってもらい、ローカライズサービスのラインアップを増やしていく役割も担ってもらうことになる」と、エコシステムの整備という面でのソフトバンクグループの活躍にも大きな期待を寄せている。
なお、Watson日本語対応版は、国内にあるソフトバンクテレコムのデータセンターで運用することを予定している。(本多和幸)