テレビ用受信アンテナのメーカーとして知られるマスプロ電工。テレビ受信機器や通信機器などの設計から製造、販売、工事まで展開する一方で、新たな分野も積極的に開拓していて、最近では米JK Imagingとの提携により、Kodakブランドの水平方向に360°撮影できるアクションカメラの国内独占販売権を獲得し、同社のウェブサイトや量販店などで販売している。事業範囲が広くなってきたことで、マスプロ電工では情報漏えい対策やコンプライアンス対応を強化する必要性を感じるようになっていた。
【今回の事例内容】
<導入企業>マスプロ電工2014年に60周年を迎えたテレビ用受信アンテナの大手メーカー。通信機器などの設置工事も手がけている。米JK Imagingとの提携により、水平方向に360°撮影できるKodakブランドのアクションカメラを取り扱っている
<決断した人>近藤真人 氏
取締役執行役員経営企画室長(写真右)
新川芳徳 氏
財務部情報システムグループ係長
「社員あっての会社」なので、社員を守るためのコンプライアンス対応として、IT資産管理・情報漏えい対策ツールの導入を推進した
<課題>顧客情報を扱う機会が増えたため、情報漏えい対策が必要になった。ソフトウェアの不正使用を防ぐために、ライセンスを正しく管理する必要があった
<対策>クライアントPCに影響を与えない軽く動作するソフトウェアを検討。運用管理負荷の軽減を考慮し、サーバーはクラウドサービスの採用を前提とした
<効果>現場に迷惑をかけることなく、情報漏えい対策やIT資産管理が可能に。クラウドを採用したことで、運用コストを抑えることができた
<今回の事例から学ぶポイント>IT資産管理はサーバーから受け取る情報量が少ないため、AWSなどのクラウド環境を利用する場合のコストを抑えることができる
セキュリティとIT資産管理
マスプロ電工は2014年11月、米JK Imagingとの提携により、水平方向に360°撮影できるKodakブランドのアクションカメラ「SP360」の国内独占販売権を獲得した。同社のウェブサイトで同製品の販売を開始すると、注目製品ということもあって、利用者数が一気に増えることになる。「これまでも当社のウェブサイト上で一部の製品を販売していたが、限られたニーズに応えるもので、利用者数は少なかった。そのため、アクションカメラを扱うにあたって、個人情報の取り扱いが増えるのは明確だった」と、近藤真人・取締役執行役員経営企画室長は語る。また、携帯電話キャリアの基地局などの工事では、エリア情報を扱うため、情報漏えい対策が求められるようになっていた。
もう一つ、経営理念である「コンプライアンスの強化」を実現するためのツールの導入も検討していた。「ソフトウェアの不正コピーは、たとえ悪気がなくても、コピーした社員と会社の両方に罰則が適用される。社員を守るためには、社員にライセンスの心配をさせないような環境を提供したかった」ということから、近藤取締役はIT資産管理ツールも検討していた。
こうした背景から、マスプロ電工はIT資産管理と情報漏えい対策という二つの要件を満たすシステムを模索することになる。そして、同社が選択したのはエムオーテックス(MOTEX)の「LanScope Cat ver.8.0」だった。
気づかないほど軽い
マスプロ電工がIT資産管理・情報漏えい対策ツールの検討を始めたのは、2014年3月頃だった。6月には複数のツールを選定し、評価を始めた。IT資産管理・情報漏えい対策ツールはクライアントで稼働するソフトウェアがあることから、最も重視したのは動作の“軽さ”である。実は、同社は数年前にもIT資産管理・情報漏えい対策ツールを検討したが、動作が重く、社員の作業の邪魔になるほどだった。そのため、ツールの採用を見送らなければならなかった。
今回は、当時のリストにはなかったLan Scope Catも検証対象とした。すると、「導入していることが気づかないほど軽かった」ほどで、新川芳徳・財務部情報システムグループ係長は驚いたという。

Kodakブランドのアクションカメラ「SP360」。ウェブで販売するにあたって、個人情報の取り扱いが増えることから、セキュリティツールを導入するきっかけの一つとなった海外拠点にも導入
ただ、LanScope Catの採用には課題もあった。パブリッククラウドに対応していなかったからだ。マスプロ電工はクラウドの採用を前提としていた。
「当社の情報システム部は人員が限られているので、作業負荷を考慮すると、オンプレミスは避けたかった。例えば、サーバーに障害が発生すると、修理などに社員が立ち会うという非生産的な時間を過ごすことになる。ムダな時間は、社員のモチベーションを下げることにもなってしまうから」と近藤取締役は語る。打開策を練るなかで、MOTEXがパブリッククラウドの「Amazon Web Services(AWS)」に対応したLanScope Cat ver.8.0を発表した。「いいタイミングだった」と、新川係長は当時を振り返る。マスプロ電工でIT資産管理・情報漏えい対策ツールの検討を開始してから約2か月後の発表だった。検証作業では最も評価が高く、クラウド対応をクリアしたことから、LanScope Cat ver.8.0の採用が決まった。
AWSに関しては、「仮想サーバーということもあって、物理サーバーに比べて起動が速い。また、とにかくコストを抑えることができた。AWSでは、データを送るのは無料で引き出す場合に料金が発生するが、IT資産管理・情報漏えい対策ツールは引き出す情報量が少ない。その点で、クラウドに向いている。さらに、AWSではWindows Server 2012 R2のCAL(Client Access License)が不要なことも、コスト低減に大きく貢献している」と、新川係長は満足している。LanScope Catでは、約700台のPCを管理していて、ベトナムやスリランカといった海外拠点のPCにも導入した。
LanScope CatではIT資産管理と情報漏えい対策のほか、ファイル操作などの不正検知にも使用している。今後については「勤怠管理との連動や、USBメモリの使用を制限するといった機能も活用していきたい」と、新川係長。引き続き社員が安心して働ける環境を整備していく考えだ。(畔上文昭)