ピー・シー・エー(PCA、水谷学社長)とサイボウズ(青野慶久社長)が、クラウドビジネスで協業する。クラウド基幹業務ソフトの「PCAクラウド」と、業務アプリケーション構築のためのPaaSである「kintone」をウェブAPI経由で連携させる。近年、大手ベンダーはこぞって、ソーシャル、モバイル、IoTといった新しい領域と従来の基幹システムのデータを連携させ、ユーザーのビジネスそのものの変革を支援するという戦略を打ち出している。両社は今回の協業について、SMBも現実的なコストでそうしたコンセプトを実現できるようになる第一歩と位置づけている。(本多和幸)
“業界破壊”ともいうべきインパクト
PCAとサイボウズの協業は、今回が初めてではない。これまでも、会計ソフトの「PCA会計」、販売管理の「PCA商魂」とkintoneの連携ソリューションをパートナー経由で提供してきたが、今回の発表のポイントは、基幹系と情報系のシームレスなクラウド連携を実現した点にある。
PCAは、SMB向け業務ソフトメーカーではいち早くSaaS版のPCAクラウドを開発・提供し、「PCAクラウドAPI」を提供することで、クラウドにおけるカスタマイズのニーズにも対応してきた。従来のkintoneとの連携も、このPCAクラウドAPIを経由している。ただし、PCAクラウドAPIは、利用者が手元のPCにインストールして使うクライアントPC実行型のAPIであり、オンプレミスで開発したカスタマイズプログラムを、そのままクラウド業務ソフトのPCAクラウドでも使うことができるといったメリットがある一方、モバイル端末と連携させたい場合は、PCから中継サーバーを通してデータを転送する必要があるなど、主に拡張性の面で課題もあった。そこで同社は、来年4月、PCAクラウドのAPIを直接外部から利用できるようにウェブAPIをリリースすることにした。これにより、PCAクラウドに蓄積された基幹業務データとkintoneがクラウド上で直接つながり、シームレスな連携を実現するという。業種ごとの入力画面やワークフロー、独自の集計機能などをkintoneで開発することで、PCAクラウドのカスタマイズもより簡単に、自由にできるようになるし、kintone上に構築したSFAやCRMとPCAクラウドのデータを連携させて、営業システムの強化につなげることも容易になるわけだ。
水谷社長は、「お客様は、さまざまなクラウドサービスを連携させて、マルチデバイスで自由に使える環境に移行したいと考え始めている。ウェブAPIは、そうしたニーズに応えるための第一弾の製品だ。kintoneと非常に相性がよく、パートナーからもお客様からも期待は大きい」と、その意義を強調する。両社は、ともに自社イベントで連携ソリューションのブースを設置して市場の認知を深める取り組みを始めており、来場者の反応は上々だ。
サイボウズにとっても、この協業の深化は大きな意義がある。青野社長は、「当社が主戦場にしてきた情報系システムの分野は、補足的なものだというみられ方をずっとしてきた。しかし、基幹系システムと連携することで、止めてはいけない業務システムの一環であり、しっかり投資していかなければならないものだと広く認識されるようになるだろう」と、興奮気味に話す。
さらに、ウェブAPIを通したPCAクラウドとkintoneの連携は、顧客に提供できる価値という側面でも、SMB向けIT市場における“業界破壊”ともいうべきインパクトがあるという。「私たちの情報系システムをフロントとして、基幹システムとつながる業務データが入ってきて、簡単にこれを蓄積、活用できるようになるというのは、本当に大きな価値を生むはず。ERPなどで、上から下まで同じベンダーの製品で揃えれば、情報系と基幹系が連携できるというソリューションはあったが、それではSMBが導入可能なコストでは収まらないし、柔軟性も落ちてしまう。本当に必要なものをつなげばいいというインターネット的な発想に、ソフトウェアが変化しようとしていて、PCAクラウドとkintoneの組み合わせはその一番わかりやすい組み合わせといえる」(青野社長)。
新しいSIのチャレンジを後押し
SMB向けのクラウド商材は単価が安く、これまでハードウェアを含めてオンプレミスの商材を顧客に販売し、カスタマイズの工数などで利益を得てきた中小のSIパートナーにとって、ビジネスが成立しづらいというのが長年の課題だった。青野社長は今回の連携が、こうした市場全体の課題を打破する起爆剤にもなり得ると力を込める。「クラウドになって確かに一つひとつの製品の単価は下がるだろうが、お客様に満足してもらえるソリューションを提供し、継続的なサービスモデルにビジネスを移行した新しいタイプのSIが勝てる時代になってきた。PCAクラウドとkintoneは、ハードの販売や工数で儲ける納品型の古いSIの市場に、風穴をあける大きな武器になる」。

握手を交わすサイボウズの青野慶久社長(左)とPCAの水谷 学社長 パートナーのビジネスモデル変革も、両社が協力して強く後押ししていく考えだ。全国のセミナーなどを通じて、連携ソリューションの活用モデルなどを周知していくほか、普及のキーになる施策として、導入事例の公開も急ぐ。水谷社長は、「PCAとkintoneの主要パートナーはかなり重なっていて、パートナーの間でも、kintoneとPCAクラウドの連携は待望していた。地方にも技術力、提案力のある有力なパートナーがいるし、彼らにとっては、これまでコストが制約になって実現しなかった提案が、受け入れられるきっかけにもなるはず」と自信をみせる。また、個別のカスタマイズをテンプレート化してマーケットプレイスで販売できるような仕組みも検討しており、パートナーにとっては、ビジネスチャンスがさらに広がる可能性もある。
両社は、基幹系と情報系のクラウド連携の価値を訴求することをコンセプトに、お互いの補完性を認めたうえで今回の協業を進めた。しかし、独占的な協業関係だとは考えていないようだ。今後、kintoneが他のクラウド業務ソフトと連携する可能性や、PCAクラウドがkintone以外の業務アプリ構築向けPaaSと連携する可能性も視野に入れている。まずは、基幹系、情報系の枠を越えてクラウドサービス同士がシームレスに連携し、SMBでも導入可能なコストで、経営を強くする付加価値の高いソリューションを提供できるような市場を創出することを目指し、最適な協業相手として両社は手を組んだとみることができそうだ。