英会話教室を運営するイーオンは、マイクロソフトの「Dynamics CRM」をベースに、生徒の学習状況の可視化を実現している。この6月には、生徒向けの「学習ポートフォリオ」を公開。生徒一人ひとりが学習状況や上達管理をネット上で確認できるよう機能を追加。教師と生徒の双方が学習状況をリアルタイムに把握できるようになったことで、学習意欲を高め、目標達成による満足度の向上につなげている。システム構築は日立ソリューションズが担当した。
【今回の事例内容】
<導入企業>イーオン全国約250教室、およそ7万6000人の生徒を抱える英会話教室のイーオン。日本人の英語上達のためのオリジナル教材を開発し、国内外の教師による効果的なレッスンを実施。ビジネス英語や資格取得にも大きな成果を上げている
<決断した人>大畠大輔 課長
「Dynamics CRM」をベースに新システムへの刷新を推進した
<課題>生徒の学習履歴を全国規模で俯瞰できる仕組みがなかった
<対策>マイクロソフトの「Dynamics CRM」をベースに全国の統合データベースを構築
<効果>統合データベースによって生徒の学習状況が把握しやすくなり、より効果的な学習支援が行えるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>従来型の「学校事務システム」ではなく「顧客管理システム(CRM)」を活用することで、生徒とのコミュニケーションの円滑化につなげた
学校事務ではなくCRMを採用
イーオンは、授業料や生徒を管理するシステムを手組みで構築してきた。学校事務システムという性格が強いシステムだっただけに、生徒の学習目標への到達度やモチベーションを向上させる観点からみると、機能面で課題を抱えていた。イーオンでシステム刷新を担当する大畠大輔・語学教育研究所教育企画部テレフォンレッスン・センター課長は、「スクール向けの学校事務関連のパッケージソフトなどをあたってみたが、事務処理中心で当社の要求を満たせない」と判断。そこで、学校事務とは直接関係のないCRM(顧客管理システム)を応用するかたちで、イーオンが求める生徒の学習支援に重点を置いたシステムに置き換える決断をした。
システム構築にあたっては、CRM方式で提案があった日立ソリューションズに発注。同社が扱い慣れているマイクロソフトのDynamics CRMを軸として、基幹系システムとのつなぎ込みはインフォテリアのデータ連携ソフト「ASTERIA」、CRMのデータを分析して可視化するツールとしてウイングアーク1stの「Dr.Sum EA」を組み合わせた。
CRMは、もともと顧客の購買や行動の履歴をしっかりと取って、顧客とのコミュニケーションを通じた関係を強化。ロイヤリティを高めて、次の購買行動につなげる構造が基本になっている。これに置き換えた場合、生徒の学習活動の記録をデータベース化し、生徒と教師/カウンセラーのコミュニケーションが活発化。学習目標の設定や達成までの道順を、しっかりとしたデータにもとづいて指導することで、効率よく学習しやすいよう支援することができる。CRMが役立つというわけだ。学習目標への達成度合いが高まれば、生徒の満足度やモチベーションの向上につながる。
生徒の学習履歴のデータベース化は、「英会話コース」といった商材開発にも役立てられる。従来のシステムは、教室ごとやある地域ごとの履歴は管理していたが、全国約250教室、約7万6000人の生徒すべてを統合したデータベースはなかった。新システムではデータベースを統合し、全国規模で生徒の学習状況を可視化できるようになったことで、生徒の学習により効果が上がる施策を積極的に打てるようになった。
軽微な手直しはユーザー自身で
既存のシステムが手組みだったことを踏まえて、新システムもユーザーの要望を100%反映するスクラッチ方式で開発することも可能ではあった。
しかし、それではコストも時間もかかる。運用フェーズに入った後も、わずかな手直しでも、その都度ベンダーを呼んで、見積もりを出してと繰り返していては、システムの変化適応の速度も遅くなってしまう。競争の激しい英会話関連ビジネスにおいて、こうした対応速度の遅さは競争力を低下させる要因にもなりかねない。

日立ソリューションズ
神原稔和技師 新システムでは、日常的に発生するような些細な手直しはユーザー自身で行えるようにすることで、変化適応のスピードを高めるよう設計した。日立ソリューションズとしては、「ただ単純に開発作業を請け負うことが当社の価値ではない。イーオンが競争に勝ち残るためにはどうしたらいいのか考え出すところに当社の価値がある」(日立ソリューションズの神原稔和・関西産業・流通本部第2システム部技師)とし、運用中の改修も含めた作業部分は、双方で話し合って、できるだけ分担するようにしている。Dynamics CRM、ASTERIA、Dr.Sum EAのいずれも、軽微な手直しはユーザー自身で設定できる機構が備わっている点も採用の理由の一つとなっている。
新システム稼働から1年が経過した今年6月には、生徒の学習や上達状況が一覧できる学習ポートフォリオの運用をスタート。過年度分が参照できるようになったタイミングで開設したもので、教室での学習履歴は教師が入力し、自宅での自主学習は生徒自身が記入できるようにした。また、イーオンを通じて受験したTOEICや英検といった各種試験の結果も自動的に入力される。学校と生徒が共有できる情報が格段に広がることで、学習方針や目標の設定がやりやすくなった。目標の達成度を客観的なデータとしてみられることによって、生徒の目標達成に向けたモチベーションの向上にもつながることが期待されている。(安藤章司)