週刊BCNは8月24日、ITベンダーとIT販社をつなぐイベント「BCN Conference 2016」を東京・目黒雅叙園で開催した。今回のテーマは、「オープンイノベーションの時代~協業が新たな世界を切り拓く~」。IoT、AI、FinTechなどがトレンドとなるなか、SIerはオープンイノベーションによって単なる最先端テクノロジーの融合にとどまらず、ベンチャー企業などとの新たな協業による革新的なビジネスモデルが求められている。イベントでは各分野の有識者や業界を代表するITベンダーが、それぞれの立場で現状と未来、製品やソリューションについてアピール。加えて、展示会場では出展企業が来場者に対して新しいビジネスモデルや売り方を提案した。本特集では、セッションや展示ブースの様子をレポートする。

基調講演 変貌する自動車向けソフト開発ビジネス 「協調」と「競争」のオープンイノベーション
組み込みソフト開発ビジネスの主戦場の一つ「自動車」領域で激変が起きている。車載システムでは、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転の研究開発が活発化し、それを支えるソフトウェア・プラットフォーム(OS)として「AUTOSAR(オートザー)」が登場。さらに、自動運転を支援する環境整備の一環として、「ダイナミックマップ」開発への動きも活発化している。注目すべきは、AUTOSARやダイナミックマップのいずれも「協調」と「競争」を基本としたオープンイノベーションの開発手法を採り入れている点である。
注目集める「自動運転」

名古屋大学
高田広章
未来社会創造機構
大学院情報科学研究科教授 「BCN Conference 2016~オープンイノベーションの時代~協業が新たな世界を切り拓く~」の基調講演では、自動車向けソフト開発に詳しい名古屋大学の高田広章教授が、自動車を取り巻くソフトウェア開発の現状と未来について語った。
高田教授は、まず「3年前まではあまり聞かれなかった『自動運転』が、ここ1~2年でにわかに注目を集めるようになった」と、自動運転を実現する技術的な進歩と、開発への機運が高まっていると話す。自動車を巡るソフト開発では、大きく二つに分かれる。一つが自動車に搭載する「車載ソフト」。もう一つが自動車の外、すなわち道路側に実装する「高度道路交通システム(ITS)」の領域だ。
ITSの概念は早くからあったものの、近年では目立った進展がみられなかった。しかし、ここへきて地図上に動的な情報をリアルタイムに反映する「ダイナミックマップ」が自動運転に欠かせない要素だと判明。道路側の環境整備に向けた動きも目立ち始めてきた。ダイナミックマップは地図のうえに交通渋滞や事故、工事などの情報、さらには歩行者や自転車、クルマの情報をリアルタイムにデータベース化する技術である(図参照)。地図や交通標識などの静的なデータはクラウド側で管理し、渋滞や歩行者、他のクルマの動きといった動的な情報は、現場の車車間/路車間の通信によってアップデートする方式になる見込みだ。

車載とダイナミックマップ
「ADAS(先進運転支援システム)をはじめ自動車の付加価値はソフトウェアによって実現されるといっても過言ではない」(高田教授)と指摘。しかし、一方でソフトは開発ボリュームが増えれば増えるほどバグ(不具合)が出やすい構造的な問題がある。早くから開発ボリュームの肥大化が問題になっていた業務系のシステムでは、OSやミドルウェアの“共通プラットフォーム”化が進み、業務アプリケーションもパッケージ化を多用することで工数を減らし、品質を高めてきた。自動車は小さなバグでも人命の危険に直結してしまうだけに、品質問題はよりシビアだ。
このため車載ソフトでは、OSに相当するソフトウェア・プラットフォームとして欧州発祥の「AUTOSAR」の普及が進んでおり、高田教授自身も複数の有力組み込みソフト開発ベンダーと連携して、名古屋大学発ベンチャー企業のAPTJを設立。国産AUTOSARの開発に邁進している。加えて早ければこの10月をめどにダイナミックマップの研究コンソーシアムを立ち上げ、クルマの内側と外側の両方のプラットフォームづくりに取り組む。
将来の自動運転を見据えたとき、自動車単体の機能ですべてを処理しようとすると「とてつもないコストがかかってしまう」ため、道路側のインフラによる支援で効率的、かつ安全、低コストで自動運転を実現する。
プラットフォームがカギ握る
ここで注目すべきは、AUTOSARにせよ、ダイナミックマップにせよ、「協調」と「競争」を織り交ぜたオープンイノベーションの手法が採り入れられている点である。共通で使うソフトウェア・プラットフォームの部分を各社それぞれ開発するのではなく、できる限り「協調」して開発し、そのうえのアプリケーションやサービス、実装の部分で「競争」する構図である。
「プラットフォーム部分を各社が個別に開発していては、いくら開発リソースがあっても足りない」と指摘。むしろ、プラットフォーム部分を世界に先駆けて確立させ、「国内はもとより、国際的な標準プラットフォームを狙えるようにすべき」と高田教授は話す。
日本のソフト産業は、これまで世界で通用するプラットフォームづくりを苦手としてきた経緯がある。個別のアプリケーションのつくり込みでは才能を発揮することはあっても、日本発で国際標準となるようなソフトウェア・プラットフォームの領域では存在感が薄い。いま、自動車領域におけるソフト開発は、従来のECU(電子制御ユニット)を中心とした組み込みソフトの枠組みを越え、より大規模な市場へと急成長している。このタイミングで、「協調」と「競争」のオープンイノベーションの手法をうまく採り入れ、世界で通用するプラットフォームづくりにつなげられるかどうかが、日本の自動車領域におけるソフト開発ビジネスの将来を大きく左右する。