マネーフォワード(辻庸介社長CEO)のB2B事業が急成長している。2018年11月期第2四半期の決算では、中小事業者向けクラウド会計を核とした主力製品のクラウド業務アプリケーション群「MFクラウド」関連の売上高が上期累計で11億8700万円になったと発表。前年同期比で89%増という成長率だ。通期では全社で連結売上高43億5000万円~46億5000万円、MFクラウド関連のB2B事業だけでも24億5700万円を見込む。これは、もはや基幹業務アプリケーションベンダーとして大手ベンダーの一角と言っていい事業規模だ。スモールビジネス向けの基幹業務アプリケーション拡販に大きな役割を果たす会計事務所への地道なアプローチや、法人向けビジネス拡大のためのM&A、そして業務アプリケーションと組み合わせたFinTechサービス開発へのR&Dなど、“全方位”とも言える幅広い領域に積極的な投資を行い、「SaaSとFinTechのナンバーワンベンダー」を目指す。(本多和幸)
M&AやFinTechへの積極投資で“全方位”の種まき
マネーフォワードのビジネスは、家計簿アプリを主体とするB2CのPFMサービス事業と、B2BのMFクラウドサービス事業の二つに大別できる。MFクラウドサービスにはMFクラウドシリーズ製品の販売とOEM提供などのアライアンス事業収入が含まれるが、売上高の9割近くはMFクラウドの販売が占める。
17年11月期通期決算ではPFMサービスの売上高が13億8400万円だったのに対し、MFクラウドサービスは15億800万円だった。このほど明らかになった18年11月期の上期売上高は、PFMサービスが7億9300万円(第2四半期累計)で前年同期比38%増、MFクラウドサービスが11億8700万円で同89%増。MFクラウドサービスは、事業規模、成長率とも同社のビジネス全体を支える柱になっている。着実に新規顧客を積み上げ、四半期ごとの売上高の推移を見ても順調に成長しているのが分かる(グラフ参照)。
この成長を支える大きな要因の一つが、全国の会計事務所に対する営業体制をいち早く整えたことだという。小規模事業者向けの業務アプリケーションビジネスでは一般的なかたちだが、彼らはMFクラウドのユーザーであり、その顧問先企業に向けての販売チャネルとしても機能する。会計事務所の「MFクラウド会計」ユーザーはすでに3000社を超えているが、同社の金坂直哉・取締役執行役員CFOは、「その全てがアクティブなユーザーであり、パートナーでもあると言える」と話す。現時点で札幌市、仙台市、名古屋市、京都市、大阪市、福岡市に支店を構え、会計事務所向けの営業提案に大きなリソースを割いている。
M&Aで機能補完、競合の吸収も
さらに、B2B領域の拡大に向けたM&Aを積極的に行っているのもマネーフォワードの特徴的な点だ。昨年11月には、クラウド記帳サービス「STREAMED」を提供するクラビスを完全子会社化。オペレーターによる手入力とOCR、AIを組み合わせ、紙の証憑の入力を自動化するサービスをMFクラウドと連携させて使うことができるようにした。さらに今年7月には、クラウド型の経営分析ツール「Manageboard」を提供するナレッジラボの株式の過半数を取得してグループ会社化した。MFクラウド会計のデータをManageboardで分析することで、予算実績分析やキャッシュフロー予測、AI監査などのデータを提供できるようになった。今年8月には、福岡市を拠点にクラウドを活用した企業のバックオフィス業務改善支援などを行っているワクフリもグループ会社化し、「MFクラウドに限らず、クラウド活用の現場を広く知る立場から、導入・定着段階の課題を製品開発や営業提案にフィードバックできる体制を整えた」(金坂氏)という。
既存のMFクラウドのラインアップ強化に向け、補完的な機能を持ち、哲学を共有できるベンダーを積極的にグループに迎えて入れている印象だ。
また、クラウド会計の競合ベンダーから事業を譲り受け、彼らのユーザーをMFクラウド会計に取り込むという動きも見せている。マネーフォワードは、17年5月に「ネットde会計」を提供していたパイプドビッツと今年2月には「ハイブリッド会計Crew」「Crewシリーズ」を提供していたアックスコンサルティングと業務提携を結びクラウド会計事業を吸収。両社サービスのユーザーにMFクラウドへの移行を促している。金坂CFOは、「両社のユーザーがMFクラウドに移行することによる業績上のインパクトはゼロではないが、これによりMFクラウドのユーザーが大幅に増えるという感覚ではない」と話す。ただし、MM総研が17年12月に発表した法人向けクラウド会計ソフトの市場調査結果では、MFクラウド会計が19.2%であるのに対して、ネットde会計が13.8%、ハイブリッド会計Crewが7.7%となっている。まだまだクラウド会計市場は黎明期にあり、この結果がどの程度実態を反映しているかはともかく、有力ベンダーの事業を吸収した影響は少なくないだろう。また、両社とも会計事務所と太いパイプを構築してきたことも、MFクラウドの成長にポジティブな影響を与えそうだ。
会計事務所以外にも間接販売網を拡大し、より幅広い顧客にアプローチする取り組みも始めている。昨年末から今年1月にかけて、NTTドコモとNECが相次いでMFクラウドの販社として活動することを発表したほか、トッパン・フォームズやSCSK、NOCアウトソーシング&コンサルティングもマネーフォワードとパートナーとして連携している。
ユーザーの資金繰りまでを半自動化する
金坂直哉
CFO
FinTechの領域でも今年7月、マネーフォワードファインというグループ会社を設立し、オンラインレンディングの与信モデル開発に着手することを発表した。MFクラウドのデータを提携金融機関に提供し、MFクラウドのユーザーに金融機関側のサービスとしてオンラインレンディングサービスを提供する試みは始めているが、来春をめどにマネーフォワードファイン自身が貸金業登録を行い、レンディングサービスを自ら手掛ける構想だ。弥生とオリックスが設立したアルトアと同種の取り組み(9月17日号・5面に詳報)と言える。金坂CFOは、「あくまでもわれわれはITベンダーであり、貸金業でバランスシートを膨らませようとは思っていない。与信エンジンの開発に責任をもち、将来的にそれを金融機関にサービスとして提供するためにも、自分たちでオンラインレンディングをやってみることが必要だと考えている」と話す。
さらにその先には、「MFクラウド、Manageboard、オンラインレンディングなどを組み合わせて、ユーザーに対して『あなたはこの時期にこれくらいのお金が必要になるので、今これくらいのお金を借りた方がいい。これが融資の条件で、審査は終わっている。クリックしたらお金が振り込まれる』というユーザー体験が実現できるようになる世界を目指している」(金坂CFO)という。ここまでくれば、もはや従来の業務アプリケーションとは一線を画す価値を提供できるといえるだろう。金坂CFOは、オンラインレンディング市場の立ち上がりはこの3年以内が勝負だとみており、新しい業務アプリケーションベンダーとしてのビジネスモデルを世に問うのはそう遠い将来のことではないのかもしれない。