アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は、オンプレミスで稼働する商用データベース(DB)のクラウドマイグレーション需要の刈り取りに本腰を入れる。AWSはエンタープライズシステムでの利用を前提に自社のRDBサービスの機能強化や移行支援策の充実に取り組んでおり、案件も急速に増えているという。こうした動きの背景には、ユーザー企業側に情報システムの全面的なクラウド化の流れが加速している状況があると同社は分析する。

データ量の増大で
クラウドのメリットも拡大

 住信SBIネット銀行は2020年をめどに全システムのクラウド化に向けた移行作業を進めており、今年3月、インターネットバンキングシステムについてはDBを「Oracle Database 11g」からAWSの「Amazon Aurora PostgreSQL」に移行することを明らかにした。既存システムと同等の可用性を担保しつつ、ピーク時のスループットは既存システム比で1.5倍、運用コストは5年間で83%削減できると試算しており、Aurora PostgreSQLについては「商用DBの処理パフォーマンス、信頼性、堅牢性とオープンソースDBの費用対効果を持ち合わせている」と評価している。
 
安田俊彦
本部長

 AWSジャパンの安田俊彦・事業開発本部本部長は、住信SBIネット銀行の動きはユーザー企業側の意識の変化の象徴だと指摘する。「従来、パブリッククラウドはビジネスイノベーションを加速させる新しいアプリケーションに使うのが一般的で、既存システムについては一つ一つのアプリを精査して、クラウド向きのものはクラウドに移行するが、オンプレミス向きのワークロードはそのままオンプレミスで運用するという考え方が一般的だった。しかし最近は、アプリの特性を考慮せず、データセンター(DC)にある資産を全てパブリッククラウドに持っていこう、という流れが加速している。米国でも老舗の保険会社であるガーディアンが自社のDCをクローズして全てのアプリケーションをパブリッククラウドに持って行ったし、日本でも同じことが起き始めていて、ガラスメーカーのAGCが3年間で142のアプリをクラウドに移して運用コストを削減した。エンタープライズ企業のユーザーコミュニティーでの情報交換を見ても、それが主流になりつつある感覚がある」

 これまで、既存システムのクラウド移行の高いハードルとなっていたのがOracle DBやマイクロソフトの「SQL Server」といった商用DBだったという。商用DBをオンプレミスで運用するためのコスト(ソフトウェアのライセンス料や保守料、高可用性を担保するためのハードウェア投資など)と、Aurora PostgreSQLのようなクラウド上のオープンソースベースのDBに移行した際のコストを比較した場合、オンプレミスで商用DBをを運用し続けた方が低コストだという判断が「数年前までは一般的だった」(安田本部長)。

 しかしここにきて、運用手法・手順の変更コスト、アプリケーションの改修コスト、高可用性をクラウド上で担保するための検証・確認コストなどの移行コストと、オンプレミスで商用DBを維持運用するコストが逆転しつつあるという。安田本部長は、「データ量がどんどん増大し、オンプレミスの維持コストもかさむようになっている一方、クラウド上のDB技術が進化し、信頼性や可用性を確保する手法も確立されてきた。中長期的にはクラウド上でDBを動かす方がよりコストメリットが大きいと判断するお客様が増えてきている」と説明する。

技術とパートナー施策の
両輪で移行支援

 AWS自身、Aurora PostgreSQLにクエリプラン管理機能(クエリ実行プランを変更する方法やタイミングをコントロールできる)を追加するなど、既存の商用DBユーザーに馴染みのある機能を積極的に付加してきた。「特に日本のお客様を中心にOracle DBからの移行を検討したいという声は大きく」(安田本部長)、その障害となり得るような課題を徹底的に潰すべく機能拡張している。
 
大久保 順
部長

 さらに重視してきたのが、移行支援サービスの充実だ。大久保順・事業開発本部プラットフォーム事業開発部部長は、「オンプレミスの商用DBのクラウド移行における課題をテクノロジーで解決するために『AWS Database Migration Service(DMS)』や『AWS Schema Conversion Tool(SCT)』といったツールも用意している」と話す。

 DMSはマネージド型のDB移行サービスで、オンラインでの継続的なレプリケーションにも対応し、システムのダウンタイムを最小化しつつクラウド移行を実現する。グローバルではDMSを利用し、すでに11万インスタンス以上のDB移行事例が出てきているという。

 またSCTは移行元DBのスキーマやビュー、ストアドプロシージャ、関数などを移行先のDBのフォーマットに自動変換するツールで、何割のオブジェクトが自動変換可能かを判断し、自動変換できない部分の変換方法に関するドキュメントも提供する。また、これらのツールを使いこなすためのワークショップも用意している。安田本部長は、「移行の工数はいずれにしても発生するので、それをいかに簡単に実現するかが重要。SCTの自動化範囲は60~80%ほどのイメージで、これだけでも移行コストの低減効果は大きい」と力を込める。
 
相田哲也
本部長

 ただし、AWSへのDB移行を支援するパートナーはまだそれほど多くはない。オンプレミスの商用DBをAurora PostgreSQLなどAWS上のDBに移行した実績を持ち、そのノウハウと技術力があると認定されたパートナーは、国内の有力AWSパートナー数社にとどまる。しかし、相田哲也・パートナーアライアンス統括本部第一ストラテジックパートナー本部本部長は、「認定パートナーはこれからどんどん増えてくるだろう。世の中のトレンドがまずは全てをクラウドにという方向に傾きつつあり、お客様のそうしたニーズにAWSがしっかりと対応することで、新しい案件が具体的に生まれ、それがパートナーの皆さんのところにどんどん届くという流れができ始めている。認定を取得することでビジネスの機会が増えることを体感してもらっている段階だと思っている」と話す。認定取得を支援するファンディングプログラムなども用意し、DBのクラウド移行に関するパートナーエコシステム拡大にも注力していく。(本多和幸)