ソフトバンクは7月2日、法人事業の戦略説明会を開き、成長の原動力と位置付ける法人事業の営業利益を「数年で倍増」(宮内謙社長)させる方針を示した。2年前に発足した「デジタルトランスフォーメーション本部」を軸に、新規事業の立ち上げと収益化に注力すると同時に、各産業のパートナーとの「共創」により、社会課題の解決を目指す。キャリアとしての通信事業の枠を越えたビジネス展開に本腰を入れる。(前田幸慧)
各産業のパートナーと協業
社会課題解決を目指す
ソフトバンクの法人事業は、「固定通信」「モバイル」の通信事業と「ソリューション等」の3領域で構成される。ソリューションとしてはIoTやロボット、AI/RPA、セキュリティ、デジタルマーケティングなどさまざまな商材をそろえている。ソフトバンクの2018年度(19年3月期)の連結売上高3兆7463億円、営業利益7195億円のうち、法人事業の売上高は6205億円、営業利益は763億円と、全体に占める貢献度はまだ比較的小規模にもみえるが、宮内社長は「大きな可能性を持っている」と法人事業への期待を示し、特に営業利益については「数年で倍増」させると語った。
宮内 謙
社長
ビジネス拡大に向け、「IoT/5G」「データ」「AI」の三つを核となる技術として位置付ける。特にこの先、IoTデバイスの数は増加の一途をたどり、膨大なデバイスから生まれるデータとそれを分析するAIの需要が高まると予想されている。高速・大容量・低遅延を特徴とする5Gは、キャリア各社が商機を狙う分野でもある。宮内社長は、こうしたテクノロジーの進化によって「あらゆる産業が再定義される」とした上で、デジタル技術を活用することが「(労働人口の低下や交通渋滞など)社会課題の解決につながる」と指摘。「ソフトバンクの法人事業は社会課題の解決を日本のさまざまな企業と共に推進していくのが一番の狙い」だとしている。
今井康之
副社長
また、今井康之副社長は、社会課題の解決には「各産業のキープレイヤーのパートナーとの共創」が必要だと話す。トヨタ自動車との共同出資で設立したモネ・テクノロジーズもその一つだ。「モノ売りからサブスクリプションへとビジネスモデルが転換している中で、もともと法人・コンシューマー両方を兼ね備えたソフトバンクの役割がかなり増えてきている。共創に向けては、われわれの持つプラットフォームのB2B2Cモデルが主役になってくる。デバイスやネットワーク、上がってきたデータの分析はもちろん、決済や課金についてもきちんと一気通貫で完結できるような仕組みが、われわれの一つの差別化として共創のお役に立てる」と今井副社長は強調する。
物流効率化で実証実験
配送マッチングサービスを活用
共創を推進する上で中心的な役割を果たすのが、ソフトバンクの「デジタルトランスフォーメーション(DX)本部」だ。このDX本部は営業やエンジニア、法務・財務などコーポレート機能を担う社員120人を集めて17年10月に設立した専門組織。「ソフトバンクの次の柱になる事業を創出する」ことをミッションに、新規事業の立ち上げに注力している。「今までキャリアとして培ってきたネットワークやクラウドの知識を当たり前に持っている人を集めており、そこに新規事業を行うためのスキルを研修させ、約2年間の中で相当つくり込んできた。徹底的にその部分の体制をつくり、実際に共創がスタートしたプロダクトが数多く生まれてきている」とDX本部の河西慎太郎本部長は話す。
河西慎太郎
本部長
その一つとして明らかにしたのが、“ラストワンマイル”の物流を効率化する取り組みだ。ネットスーパーの22時以降の夜間配送を行う実証実験をイオン九州と共同で6月に開始した。
この実証実験では、「重要な協業パートナー」(河西本部長)と位置付けるCBcloud(松本隆一代表取締役)の配送マッチングサービス「PickGo」を活用。荷量に応じて必要なときに、必要な車両数だけを手配し、フリーランスで従事する地域の登録ドライバーとマッチングして商品を配送。これまで十分に対応できなかった22時以降の配送需要にも対応。需要に応じた配送車両の手配や配送コストの最適化を実現することで、夜間も含め、顧客のニーズに合わせた配送の実現を目指す。
PickGoの登録ドライバーは約1万人で、月間10%のペースで増加しているという。「登録ドライバーは基本的には配送業務に専念したい方がほとんど。経営に必要な経理や財務といったドライバー以外の仕事を、われわれのテクノロジーやサービスを使ってお受けすることも、この枠組みの中で検討している」という。この実証実験で得た成功モデルは将来的に横展開も行っていく考えだ。
このほか、DX本部の新規事業創出では、特に小売り・流通、不動産・建設、サービス・観光、ヘルスケアの分野にフォーカス。また、各産業で共通する課題として物流などにも注力している。設立から約2年間で、450超の新規事業のアイデアが生まれ、現在、35の案件が事業化に向けて進行。その中の17案件が20年度までに収益化のめどが立っているという。
「日本の社会課題として、年間で100兆円を超えるほどの経済的損失が起きている。共創という形式で互いのアセットを出し合って新しいビジネスモデルをつくるとともに、ビジネスモデルを磨き上げ社会課題に対峙していく」と河西本部長は話した。