【サンフランシスコ発】米ヴイエムウェアは8月26日(米国時間)、主力製品の仮想化基盤「VMware vSphere」で、今後ネイティブKubernetesのサポートを追加する方針を発表した。近年行ってきたKubernetesへの投資をさらに強化し、圧倒的な優位性を確立してきたサーバー仮想化の領域に加えて、コンテナ型のアプリケーション実行環境でも、業界標準の地位を目指す方針を固めた格好だ。(日高 彰)
パット・ゲルシンガーCEO
イベント開幕直前のピボタル買収が伏線
vSphereにKubernetesを統合する計画を、同社は「Project Pacific」のコードネームで呼んでおり、米サンフランシスコで8月25日から29日まで開催された年次イベント「VMworld 2019」の基調講演でパット・ゲルシンガーCEOが発表した。
同社は昨年、Kubernetes導入支援サービスを提供していた米へプティオを買収し、Kubernetes開発プロジェクトの創設者らを従業員として迎えた。また、VMworld開催直前の22日には、クラウドネイティブなモダンアプリケーションの開発支援および基盤技術を提供する米ピボタル・ソフトウェアの買収を決定していた。今回の発表では、Kubernetesのサポートと、モダンなアプリケーションの開発・運用を支援する製品群を「Tanzu」(スワヒリ語で「枝」の意味)ポートフォリオと名付け、今後の製品戦略の中核に位置付けた。
TanzuポートフォリオにはProject Pacificに加え、マルチクラウド/マルチクラスターに対応した管理ツール「Tanzu Misson Control」などが含まれる(下図参照)。vSphereが提供する環境だけでなく、パブリッククラウドも含む全てのKubernetesクラスターを管理できるので、マイクロサービス化され、複数の基盤にまたがって展開されるアプリケーションについても、セキュリティポリシーの適用、性能や可用性の管理・監視などを一元的に行える。
商用Kubernetesの覇権をレッドハットなどと争う
今後多くの企業では、要件に応じて複数のクラウドとオンプレミスのデータセンターを使い分ける、ハイブリッド/マルチクラウドの形態が現実解になるとみられている。ヴイエムウェアでは、オンプレミスのVMware環境と互換性のあるクラウド基盤を用いて、各パブリッククラウド事業者とのパートナーシップのもとで「VMware Cloud on AWS」などのサービスを提供。アプリケーションをどこで実行するかを、“リフト&シフト”の形態で自由に移行できる環境を整備していた。
しかし、これまでのVMware環境は文字通り仮想マシン(VM)技術をベースとしており、コンテナ化されたクラウドネイティブアプリケーションの管理・運用には、別途Kubernetesなどの環境を用意する必要があった。Tanzuポートフォリオは、近年相次いで買収してきたへプティオやピボタルなどの技術やノウハウを従来のVMware製品に統合し、VMからコンテナまでを包括した、ソフトウェアの開発・実行・管理プラットフォームとなることを目指すものだ。
ゲルシンガーCEOは「ネイティブのKubernetesを統合することで、vSphereは全てのモダンアプリケーションのためのプラットフォームになる。今日最も信頼されているプラットフォームが、将来においても確立されたものになる」と述べ、企業の情報システムでデファクトスタンダードとなっているVMware製品がそのカバー範囲を広げることで、Kubernetesの領域でも同社が業界標準の地位を獲得できるとの見立てを示した。
ただし、Tanzuポートフォリオに含まれる主要製品は技術プレビューの扱いで、ベータ版の提供もこれからの段階。オンプレミス環境で利用できる商用のKubernetes製品ではレッドハットの「OpenShift」が先行しており、グーグル・クラウドもマネージドサービスの「Anthos」の提供を開始した。コンテナの市場でどのプレイヤーが最も優位に立つのかは、まだ全くの未知数だ。