日本IBMとパナソニックは10月15日、半導体の製造分野で協業すると発表した。共同でデータ解析システムを開発してパナソニックの製造装置に組み込み、半導体製造の「後工程」における工数の削減や品質の安定化、設備稼働率の向上につなげる。2030年をめどに250億円の売り上げを目指す。(前田幸慧)
(写真左から)日本IBMの武藤和博専務執行役員と山口明夫社長、
パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長と
青田広幸上席副社長(写真提供:パナソニック)
データ解析で製造装置を高付加価値化
パナソニックでは、半導体製造工程向けに、プラズマを用いて半導体材料のウエハーを切り出すプラズマダイサーや、金属の接合性や樹脂の密着性を高めるプラズマクリーナーなどの製造装置を開発・販売している。一方、日本IBMは、ハードウェアやシステム構築(SI)を主力事業とし、近年ではクラウドやAIに注力しているほか、自社内に関連の研究開発部門を置くなど半導体も手掛けている。APC(高度プロセス制御)やFDC(故障・予兆管理)などのデータ解析システムや、製造工程を管理するMES(製造実行システム)を提供。特にMESは「世界で50%以上のシェアがある」(日本IBMの専務執行役員エンタープライズ事業本部パナソニック エンタープライズ事業部長の武藤和博氏)という。
今回の協業では、両社が共同でデータ解析システムを開発し、パナソニックの半導体製造装置に組み込む。これにより高付加価値化したシステムとMESを連携させ、半導体製造におけるダイシングから実装までの「後工程」をターゲットに、「新製品立ち上げ時間の短縮」「品質の向上・安定化」「稼働率の向上」の実現を目指す。
具体的には、共同開発した演算アルゴリズムを用いたプラズマダイサーのレシピ自動生成システムを開発。企業の製品ごとに異なるダイシング形状を入力するだけで最適なレシピの自動作成が可能になる。パナソニック コネクティッドソリューションズ社の上席副社長でプロセスオートメーション事業部事業部長の青田広幸氏によると、従来、ガス濃度や気圧など数百種類に及ぶ複雑なパラーメーターを組み合わせるレシピの作成には熟練の技術者でも試作から完成まで数週間かかっていたが、それを数日程度に短縮し、製品の早期立ち上げが可能になるという。また、APCにも応用することで量産中の形状変化に合わせてレシピを自動補正し、品質の安定化にもつなげることができるとしている。
さらにIBMのデータ分析技術を活用し、プラズマクリーナーの状態を分析してスコア化するシステムを開発。青田氏によれば、「(プラズマクリーナーは)プラズマの放電異常によって製品不良を引き起こしたり、機器が突然停止したりすることがある」といい、このシステムによって放電異常の予兆検知や設備状態の分析、メンテナンス時期の予測ができるようになるとしている。
30年をめどに売上高250億円目指す、まずは品質要求の高い顧客に
今回の協業の背景について、パナソニック コネクティッドソリューションズ社の青田氏は、製造現場における労働力不足や多拠点グローバル生産を挙げる。特に半導体製造分野においては「製品に含まれる回路部品の高機能化・小型化・薄型化が進む中で、どのように製造プロセス、生成プロセスを伝承していったらいいか、顧客のスピードに合わせてどのように新製品を立ち上げて安定させたらいいか」という課題に顧客が直面していると指摘する。
そこで、IBMの持つシステムソリューションとデータ分析技術、パナソニックのエッジデバイスとプロセス技術を組み合わせ、「半導体製造工程の総合設備効率(OEE)の最大化と高品質のものづくりを目指す」と語った。
また、同日に開かれた説明会に登壇したパナソニックの代表取締役専務執行役員でパナソニック コネクティッドソリューションズ社社長の樋口泰行氏は、「IBMは半導体製造工程において先進的なデータ分析技術で非常に大きなシェアを持っている。われわれのプラズマ技術を軸とした先進的な半導体の中工程後工程のエッジデバイスを組み合わせることで、新しい価値を日本から世界に発信できるように育てていきたい」と、日本IBMと手を組んだ理由を説明。「両社とも半導体を作っていた経験があるので非常にベストマッチだ」と力を込める。
また、日本IBMの山口明夫社長は、「パナソニックの半導体工場の生産システムと、当社の持つMESといわれる全体の工程管理やデータ管理技術が一つになることで、今まで提供できなかった高付加価値のソリューションを提供できるようになった」と強調した。
今回開発するデータ解析システムを組み込んだ半導体製造装置の販売はパナソニックが担当。特に半導体のパッケージングに対する品質要求の高い顧客から、プロセスコントロールによって品質を安定化させたいという要望が大きいといい、そうした顧客にまずアプローチする考え。2030年をめどに250億円の売り上げを目指す。